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第二部
第7話 月の向こう?
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いつもの朝。
見慣れた教室。
あぁ、世界は何も変わらない……。
予鈴が鳴ってもざわつきがおさまらない教室。
夏休みの出校日、ということもあってクラスメートはハイテンションだ。お盆明け、まだ夏休み期間だというのに……。
俺はぼんやりと窓の外を眺めて、どっぷりと息を吐いた。
「はぁぁぁ……」
「奏大。何見てるんだ?」
顔をあげると、爽やかなイケメン加賀見 佳彦と視線がかち合う。
「ん……月、かな?」
薄く雲がたなびく青空に、ほんの少し欠けた満月がまだ白く西の空に輝いていた。
「あぁ。朝だけど、まだ意外にくっきり見えるな……で、なんで溜め息なんだ?」
「あ?」
「幸せが逃げるぞ?」
「幸せ、ねぇ……」
「ま、オレには奏大の将来が薔薇色でもドドメ色でも関係ないがな」
ドドメ色の将来ってなんだよ……。
何か言ってやろうとしたが、やめた。
マイペースな秀才おぼっちゃまの佳彦らしい台詞だが、彼なりに俺のことを心配してくれているんだろう、多分。
「で、今度は何があったんだ?」
「そんなに俺、わかりやすいか?」
俺はブスッと机に頬杖をついた。
「あぁ」
佳彦にキッパリと断言される。
そっか、全部顔に出ちゃうんだろうな、俺。
だから、いっつも和奏姉ちゃんとかに遊ばれるんだ……。
「なぁ、佳彦?」
「ん?」
「月の向こうには何があると思う?」
俺の突拍子もない質問にも佳彦は淡々と答えてくれた。
「……ウサギとか、宇宙人の基地とかそういう話か?」
「イヤ、真面目な話」
「リアルか。……うーん、それなら岩や砂の世界だろ?海、といっても確かクレーターだらけの岩場だったんじゃなかったっけ?」
「だよなぁ……」
本鈴が鳴り、年配教師がユックリと入室するのをみて、佳彦は肩をすくめると自分の席に座った。
「……というわけで、うちのクラスでも海外からの留学生を受け入れることになり……」
念仏のような担任の抑揚のない声が眠気を誘う。
(留学生かぁ、そういえば先月も隣のクラスに来たなぁ)
最近スタンダードな大国ではなくて、紛争地域や聞いたことのない国からの留学生も多い。
はーい、こんにちは。実は私、月の向こうからやって来ましたぁ!
な~んて、留学生が来たりして。
あるわけないか。
そんなの、それこそ中二病だよな……。
俺は昨夜の会話を思い出して頭を抱えた。
あの、モンチッチ娘の話を信じるなら……彼女はこの世界じゃないところから来た異世界人ということになる。
しかも、最初に彼女の国に来たのは母さんで、何だかよくわからないが彼女と入れかわって過ごしていた、と。
それが、今回はお互いの世界が入れかわってしまったのだ、というのが彼女の主張なんだが……。
どこの出版社のラノベストーリーだ?
流行りの異世界転移の話の読み過ぎなんじゃね?
異世界転移じゃなくても神隠しみたいに、昔から突然人が居なくなることはあるよな。
でも、あれも周りが知らなかっただけで、本人なりの事情や何かの事故とかがあっただけかも知れないし。
そうだ。
きっと、母さんも俺たちには言えない事情があったり、何か事故的?なことに巻き込まれたのかもしれない。
……問題は意味不明な状況をすっかり信じた?和奏姉ちゃんと、いつもながら何考えてるかわからない歌音姉ちゃんだ。
「そういうことなら、マルちゃんはウチの子ね!」
とか訳のわからないことを言って、昨夜も母さんの部屋にアイツを泊めちゃったし。
さっさと……警察へ連れてけよ。
単なる家出娘かもしれないだろ?
親御さんが心配して捜索願出してたらどうするんだよ?
と俺がいくら喚いてもダメだった。
ま、「家出娘」「警察」「捜索願」……全部それは何だ?とモンチッチ娘はイチイチ真面目な顔で質問していたし、警察へ行っても解決しなかったかもしれないが……あれが演技だとしたらアイツ、相当な役者だ。うん。
「よし、じゃ入ってくれ」
俺が一人、回想して悶えていた間に担任教師は廊下から生徒を手招きした。
「おっ、女か?でっけぇな……」
隣に座る佳彦の声で俺は顔をあげ、教卓の前に立つ人物を見て、瞬時に石像と化した。
「今日からしばらく我が校に留学することになったマルサネ・ゲンメさんだ。中東の紛争地から来たので、まだ日本の生活には慣れていないそうだ。皆、色々親切に教えてあげるように」
「あぁ、よろしくたのむ」
物珍しそうにキョロキョロとしながらも、偉そうな態度で、頭も下げずに挨拶を言い放った人物。
彼女こそ今朝、俺が我が家に置いてきたハズのモンチッチ娘だった……。
見慣れた教室。
あぁ、世界は何も変わらない……。
予鈴が鳴ってもざわつきがおさまらない教室。
夏休みの出校日、ということもあってクラスメートはハイテンションだ。お盆明け、まだ夏休み期間だというのに……。
俺はぼんやりと窓の外を眺めて、どっぷりと息を吐いた。
「はぁぁぁ……」
「奏大。何見てるんだ?」
顔をあげると、爽やかなイケメン加賀見 佳彦と視線がかち合う。
「ん……月、かな?」
薄く雲がたなびく青空に、ほんの少し欠けた満月がまだ白く西の空に輝いていた。
「あぁ。朝だけど、まだ意外にくっきり見えるな……で、なんで溜め息なんだ?」
「あ?」
「幸せが逃げるぞ?」
「幸せ、ねぇ……」
「ま、オレには奏大の将来が薔薇色でもドドメ色でも関係ないがな」
ドドメ色の将来ってなんだよ……。
何か言ってやろうとしたが、やめた。
マイペースな秀才おぼっちゃまの佳彦らしい台詞だが、彼なりに俺のことを心配してくれているんだろう、多分。
「で、今度は何があったんだ?」
「そんなに俺、わかりやすいか?」
俺はブスッと机に頬杖をついた。
「あぁ」
佳彦にキッパリと断言される。
そっか、全部顔に出ちゃうんだろうな、俺。
だから、いっつも和奏姉ちゃんとかに遊ばれるんだ……。
「なぁ、佳彦?」
「ん?」
「月の向こうには何があると思う?」
俺の突拍子もない質問にも佳彦は淡々と答えてくれた。
「……ウサギとか、宇宙人の基地とかそういう話か?」
「イヤ、真面目な話」
「リアルか。……うーん、それなら岩や砂の世界だろ?海、といっても確かクレーターだらけの岩場だったんじゃなかったっけ?」
「だよなぁ……」
本鈴が鳴り、年配教師がユックリと入室するのをみて、佳彦は肩をすくめると自分の席に座った。
「……というわけで、うちのクラスでも海外からの留学生を受け入れることになり……」
念仏のような担任の抑揚のない声が眠気を誘う。
(留学生かぁ、そういえば先月も隣のクラスに来たなぁ)
最近スタンダードな大国ではなくて、紛争地域や聞いたことのない国からの留学生も多い。
はーい、こんにちは。実は私、月の向こうからやって来ましたぁ!
な~んて、留学生が来たりして。
あるわけないか。
そんなの、それこそ中二病だよな……。
俺は昨夜の会話を思い出して頭を抱えた。
あの、モンチッチ娘の話を信じるなら……彼女はこの世界じゃないところから来た異世界人ということになる。
しかも、最初に彼女の国に来たのは母さんで、何だかよくわからないが彼女と入れかわって過ごしていた、と。
それが、今回はお互いの世界が入れかわってしまったのだ、というのが彼女の主張なんだが……。
どこの出版社のラノベストーリーだ?
流行りの異世界転移の話の読み過ぎなんじゃね?
異世界転移じゃなくても神隠しみたいに、昔から突然人が居なくなることはあるよな。
でも、あれも周りが知らなかっただけで、本人なりの事情や何かの事故とかがあっただけかも知れないし。
そうだ。
きっと、母さんも俺たちには言えない事情があったり、何か事故的?なことに巻き込まれたのかもしれない。
……問題は意味不明な状況をすっかり信じた?和奏姉ちゃんと、いつもながら何考えてるかわからない歌音姉ちゃんだ。
「そういうことなら、マルちゃんはウチの子ね!」
とか訳のわからないことを言って、昨夜も母さんの部屋にアイツを泊めちゃったし。
さっさと……警察へ連れてけよ。
単なる家出娘かもしれないだろ?
親御さんが心配して捜索願出してたらどうするんだよ?
と俺がいくら喚いてもダメだった。
ま、「家出娘」「警察」「捜索願」……全部それは何だ?とモンチッチ娘はイチイチ真面目な顔で質問していたし、警察へ行っても解決しなかったかもしれないが……あれが演技だとしたらアイツ、相当な役者だ。うん。
「よし、じゃ入ってくれ」
俺が一人、回想して悶えていた間に担任教師は廊下から生徒を手招きした。
「おっ、女か?でっけぇな……」
隣に座る佳彦の声で俺は顔をあげ、教卓の前に立つ人物を見て、瞬時に石像と化した。
「今日からしばらく我が校に留学することになったマルサネ・ゲンメさんだ。中東の紛争地から来たので、まだ日本の生活には慣れていないそうだ。皆、色々親切に教えてあげるように」
「あぁ、よろしくたのむ」
物珍しそうにキョロキョロとしながらも、偉そうな態度で、頭も下げずに挨拶を言い放った人物。
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