アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
上 下
123 / 150
第二部

第2話 ベランダからの闖入者!

しおりを挟む
 俺はベランダに何かの気配を感じて、南のベランダに面した窓を開けた。

 少し、ひんやりとした空気がリビングに流れ込んでくる。

 昼間はいくら今年が冷夏だといってもさすがに夏本番。充分暑いが、夜は日中にくらべると涼しく、夏だというのにかなり過ごしやすい。

 猫か何かだろうか?
 ここはマンション八階の角部屋だ。空き巣が登ってくるには高層過ぎる。
 
 洗濯物を干すスペースの隣、母さんがプランターで育てているハーブの前で人が倒れていた。

「……!!」
 空き巣!?

 雨樋を伝って登ってきて、へまをして頭でも打って倒れたのだろうか?

「リツコ……!」
 目を覚ましたらしい人影が呟いた。

 声は、低いが若い。
 ……女?

 なぜ、リツコ……!?
 今夜に限って連絡がとれず、帰ってこない母さんの名前をなぜ……?

 
「お前は誰だ」
 気がつくと俺は硝子窓を開けて人影に詰め寄っていた。
「なぜ、母さんの名前を知っている?母さんはどこだ?」


「お前こそ誰だ?」
 人影は、腰に手を当てて偉そうにふんぞり返った。

 月明かりとマンションの壁面のライトに照らされて浮かびあがったのは、大柄な若い女。
 
 薄手のシャツワンピースのようなものを身につけていた。
 おおよそ高層マンションに忍び込んでくるには不向きな格好だ。   

「はぁ?ここ、俺の家なんだけど……なんで偉そうなの?態度デカいし……」
「態度がデカいのは生まれつきだ。私はマルサネ・ゲンメ。ほら、先に名乗ってやったぞ。名乗れ」

 年齢は俺と同じぐらいだろうか。
 身長は女の子にしては高い方で、筋肉質で骨格ががっちりとしている。
 肩パットとか絶対に要らないタイプ。

 化粧っ気のない顔はかなり地味に映る。ソバカスが薄く浮き、青みがかかった大きなどんぐり眼。かなり豊かな黒髪は顎のあたりでカールしているクセ毛のパッツンボブ。
 なんだか、懐かしの昭和グッズで見た人形に似てる……。

 そう、モン○ッチだ。思い出した。
 この娘、モ○チッチにそっくりだ……!

「聞こえないのか?」
 モン○ッチ娘は頬を膨らませた。俺が名乗らないのがお気に召さないようだ。

 あまり、堪え性はないらしい。

「あぁ、俺は澤井奏大。何度も言うが、ここは俺の家だ。お前、不法侵入だぞ。これから警察呼ぶがいいか?」

 この娘がどうやってウチに入ったのかが謎過ぎるけど、それも含めてお巡りさんに任せよう。
 保護者を呼んで厳重注意とかしてくれるだろ。まぁ、直感だけど親もきっと変わり者だろうから警察に任せる方が良さそうだ。

 今夜はまだ、姉貴達も帰ってこないし。もう、これ以上厄介事はごめんだ……。
 
「サワイ、カナタ……カナタ!?もしかして、お前。リツコの子どもか?」
 俺の言葉をまるっと無視して、娘は大きな眼を一層見開いて叫んだ。

「だから何で母さんの名前知ってんだよ?お前……」
「お前ではない。マルサネという名前がある。失礼な奴だな、カナタ」
 ギロっとマルサネと名乗る娘に睨まれて、俺は何だか気圧されてしまった。
 
 何だかわからないが、そこら辺の女子とは段違いの迫力だ。 
 そう、例えるなら野生の猛獣のような油断のない雰囲気。

「ワカナ、カノン、カナタ。やたらとリツコが喚いていた名前だ……」
「それ、姉ちゃん達の名前……マルサネ、と言ったな。母さんの知り合いか?」

 ひょっとして、母さんのお客様だったのか?
 母さんが俺が帰ってくる前に、家の中に招いて待たせていた、とか?

 何でベランダに倒れてたかはわからないけど。

 だったら、不法侵入とか警察呼ぶなんて俺の方が失礼だったかも……?

 俺はちょっと混乱した。


「母さん?あぁ、リツコのことならよく知ってるぞ。多分」
「多分?」
 何故に多分?
 俺は心の中で突っ込んだ。

「やたらとスイーツが好きだとか、身体を動かさずに、雑誌を大量に買い込んでゴロゴロ寝るとかそんなことだがな。あと男の趣味も良くない」
「……」

 初対面の相手に母親の普段の姿を言い当てられる高校生男子のリアクション……どうしたら良いか誰か教えてほしい。

「……へっ、くちゅんっ!!」
 俺が固まっていると、マルサネは両手で自分の身体を抱きしめ、顔に似合わず可愛いくしゃみをした。

 ……あぁ、薄着だもんなぁ。冷えて風邪、ひいちゃうかも。

「とりあえず、中へ。お茶ぐらいは出すよ」
 俺は警戒しつつも、彼女をリビングに招き入れた。


「やった!なんか寒かったんだ。助かる」
 マルサネは小さく手を叩いて破顔した。

 それは小さい子がそのまま大きくなったような、仕草であり笑顔だった。

 ……何だか不思議な、アンバランスな娘。
 それが彼女、マルサネに対する俺の第一印象だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

処理中です...