アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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第二部

第2話 ベランダからの闖入者!

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 俺はベランダに何かの気配を感じて、南のベランダに面した窓を開けた。

 少し、ひんやりとした空気がリビングに流れ込んでくる。

 昼間はいくら今年が冷夏だといってもさすがに夏本番。充分暑いが、夜は日中にくらべると涼しく、夏だというのにかなり過ごしやすい。

 猫か何かだろうか?
 ここはマンション八階の角部屋だ。空き巣が登ってくるには高層過ぎる。
 
 洗濯物を干すスペースの隣、母さんがプランターで育てているハーブの前で人が倒れていた。

「……!!」
 空き巣!?

 雨樋を伝って登ってきて、へまをして頭でも打って倒れたのだろうか?

「リツコ……!」
 目を覚ましたらしい人影が呟いた。

 声は、低いが若い。
 ……女?

 なぜ、リツコ……!?
 今夜に限って連絡がとれず、帰ってこない母さんの名前をなぜ……?

 
「お前は誰だ」
 気がつくと俺は硝子窓を開けて人影に詰め寄っていた。
「なぜ、母さんの名前を知っている?母さんはどこだ?」


「お前こそ誰だ?」
 人影は、腰に手を当てて偉そうにふんぞり返った。

 月明かりとマンションの壁面のライトに照らされて浮かびあがったのは、大柄な若い女。
 
 薄手のシャツワンピースのようなものを身につけていた。
 おおよそ高層マンションに忍び込んでくるには不向きな格好だ。   

「はぁ?ここ、俺の家なんだけど……なんで偉そうなの?態度デカいし……」
「態度がデカいのは生まれつきだ。私はマルサネ・ゲンメ。ほら、先に名乗ってやったぞ。名乗れ」

 年齢は俺と同じぐらいだろうか。
 身長は女の子にしては高い方で、筋肉質で骨格ががっちりとしている。
 肩パットとか絶対に要らないタイプ。

 化粧っ気のない顔はかなり地味に映る。ソバカスが薄く浮き、青みがかかった大きなどんぐり眼。かなり豊かな黒髪は顎のあたりでカールしているクセ毛のパッツンボブ。
 なんだか、懐かしの昭和グッズで見た人形に似てる……。

 そう、モン○ッチだ。思い出した。
 この娘、モ○チッチにそっくりだ……!

「聞こえないのか?」
 モン○ッチ娘は頬を膨らませた。俺が名乗らないのがお気に召さないようだ。

 あまり、堪え性はないらしい。

「あぁ、俺は澤井奏大。何度も言うが、ここは俺の家だ。お前、不法侵入だぞ。これから警察呼ぶがいいか?」

 この娘がどうやってウチに入ったのかが謎過ぎるけど、それも含めてお巡りさんに任せよう。
 保護者を呼んで厳重注意とかしてくれるだろ。まぁ、直感だけど親もきっと変わり者だろうから警察に任せる方が良さそうだ。

 今夜はまだ、姉貴達も帰ってこないし。もう、これ以上厄介事はごめんだ……。
 
「サワイ、カナタ……カナタ!?もしかして、お前。リツコの子どもか?」
 俺の言葉をまるっと無視して、娘は大きな眼を一層見開いて叫んだ。

「だから何で母さんの名前知ってんだよ?お前……」
「お前ではない。マルサネという名前がある。失礼な奴だな、カナタ」
 ギロっとマルサネと名乗る娘に睨まれて、俺は何だか気圧されてしまった。
 
 何だかわからないが、そこら辺の女子とは段違いの迫力だ。 
 そう、例えるなら野生の猛獣のような油断のない雰囲気。

「ワカナ、カノン、カナタ。やたらとリツコが喚いていた名前だ……」
「それ、姉ちゃん達の名前……マルサネ、と言ったな。母さんの知り合いか?」

 ひょっとして、母さんのお客様だったのか?
 母さんが俺が帰ってくる前に、家の中に招いて待たせていた、とか?

 何でベランダに倒れてたかはわからないけど。

 だったら、不法侵入とか警察呼ぶなんて俺の方が失礼だったかも……?

 俺はちょっと混乱した。


「母さん?あぁ、リツコのことならよく知ってるぞ。多分」
「多分?」
 何故に多分?
 俺は心の中で突っ込んだ。

「やたらとスイーツが好きだとか、身体を動かさずに、雑誌を大量に買い込んでゴロゴロ寝るとかそんなことだがな。あと男の趣味も良くない」
「……」

 初対面の相手に母親の普段の姿を言い当てられる高校生男子のリアクション……どうしたら良いか誰か教えてほしい。

「……へっ、くちゅんっ!!」
 俺が固まっていると、マルサネは両手で自分の身体を抱きしめ、顔に似合わず可愛いくしゃみをした。

 ……あぁ、薄着だもんなぁ。冷えて風邪、ひいちゃうかも。

「とりあえず、中へ。お茶ぐらいは出すよ」
 俺は警戒しつつも、彼女をリビングに招き入れた。


「やった!なんか寒かったんだ。助かる」
 マルサネは小さく手を叩いて破顔した。

 それは小さい子がそのまま大きくなったような、仕草であり笑顔だった。

 ……何だか不思議な、アンバランスな娘。
 それが彼女、マルサネに対する俺の第一印象だった。
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