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番外編〈第一部 終了ボーナストラック〉

番外編 カルゾメイド:モニカの休日~あるカフェでの出来事~

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「あらら」
 ひっくり返るテーブル。トレイごと飛んでいくランチセット……。

「早くおさまらないかしらね……」
 私はモニカ・トゥーフォはテーブルの陰で自分の分のランチはしっかりと確保しつつ、目の前で繰り広げられている騒動をながめていた。
 
 何が原因かはわからないが、体格のよい若い二人連れの男が争って店内を転げ回って暴れている。

 ガチャン!

 ドゴォッ!!
 
 男が壁に叩きつけられ、お洒落な観葉植物やパーティションが派手な音を立てて倒れる。


 飛んで来た花瓶の破片をトレイでガードしつつ、鮭のソテーを口に運ぶ私。

 この程度の騒ぎは私の勤めてるカルゾ邸では日常茶飯事。驚くべきことでもない。 

 でもたまの休日ぐらいのんびりしたいっていうのはあるかしらねぇ。 
 ただでさえ、ちょっとこの店に入ったのは失敗だったかなぁと後悔してるのに……。


 この騒ぎが起きるちょっと前。

 ネットで評判のお店カフェ・リエージュの割引チケットを同僚のマリンからゲットし、並ぶことなく席に着いたところまでは何も問題はなかった。

「今だけ、10%オフ」という言葉に踊らされ、喜んで注文してしまったが、ドリンク有料ならあんまり安くはないんじゃないか、とはたと気づいたところでちょっとテンションが下がった。

 同僚のインテリ眼鏡女、パロマがいたら盛大にバカにされそうだが、今日は一人で休暇満喫中。いつも一緒につるんでいるメイド仲間はいない。

 そして、今日の私の立場はお客様。
 メイドのお仕事中ではない。

 守るべく主人がいない今、最優先に守るのは自分のランチプレート。

 ここのランチの〆に出てくるという評判のデザートを食べるまでは穏便に過ごさねば……。


 ただ、乱闘を眺めていると何だか身体が疼いてくる。 

 
 あぁ、そこ。
 ガード甘い!ほら、ボディ空いてる!

 やっぱりツイツイ見てしまう。

「お客様」
 テーブルの下で飛んでくる皿を器用に避けながら、小エビのフライをかじる私にウェイターが声をかけた。

「はい?」
「只今の乱闘で当店の壁が壊れまして……。店内でのお召し上がりではなく、店外でのお持ち帰りとさせていただきます。よって、消費税を10%ではなく8%とさせていただきますのでご了承下さい」
「えっ」
 安くなるなら、私的には文句はない。

「ただ、テイクアウトの場合は持ち運びが出来ない商品となりますので、特製デザートはつきません。ご了承下さいませ」
「そんなぁぁ……!。お持ち帰りしないので、デザート下さい!!」
「申し訳ございません。今の騒ぎで生憎、冷凍庫が故障してしまいまして……」

 私はガックリとうなだれた。


 私の……お楽しみ!

 ふわふわパンケーキの旬のフルーツジェラード盛り合わせがぁぁぁ!!

 
 もう、我慢しないわよ。

「おらぁ、なんてことしてくれたのよっ!」
 なにやら揉み合って暴れている大男の背中に、私の渾身のとび膝蹴りがめり込んだ。

「な、なんだお前……」
「うるさいっ!」
 容赦なく、私の回し蹴りがもう1人の男の顎に炸裂する。
 
 瞬時に二人の男が昏倒し、騒ぎは終結した。


「ところで、こいつら何でモメてたの?」
「BかCか、が発端だな」
 私と同じようにトレイで防御しながらデザートのパンケーキを食べきったおっちゃんが教えてくれた。

「は?」
「あいつら、そのあんたの詰め物が入ったその胸がBかCか、どちらの目が女の裸を透かして見れるかってんで喧嘩をしはじめたんだ」
「……」
「俺はその胸の感じだと高いパッドが入って、サイズはAの洗濯板が正解だと思うんだけどな~」
「正解!答えはAよ。洗濯板で悪かったわね!!」
 私の渾身のパンチがおっちゃんの鳩尾に炸裂した。


 三人の男達がカフェの綺麗なタイルの上で白目をむいて転がっているのを指さして、私はとびきりの笑顔をつくって店主に言った。
「オーナー、私の分はこの人達が気持ち良く払ってくださるって」

「お代は結構ですので、こちらにいらっしゃるのは今日で最後ということでお願いいたします」
 店主は無表情に淡々と告げた。

 あら、この人達、出禁?
 まぁ、当然よね。

「お嬢さん、貴女もです」
「……は?」
「あなたがこいつらをふっ飛ばしたお陰で……」
 店主の指し示す先には、私が怒りにまかせて蹴りとばした際に男達がぶつかって壊れた看板、穴が開いて倒れた薄い壁……。あら、大通りが綺麗に見えるわねぇ。さすが路面店。


「えっと……壊したのはこの人達ですよね?」
「おかげ様で被害が拡大しまして、暫く当店は8%での提供を余儀なくされそうです」
「良かったデスネ」
「当然10%のつもりでしたので、システム以下また投資が必要となって参りますが請求は……」
「勿論、この人達で!……それではごきげんよう~」
 ひきつった笑顔を浮かべつつ、後退りし……私はダッシュでカフェ・リエージュを後にした。


 皆様!10月から消費税とやらが上がりますので、カフェなどのお店に入る時は壁の薄さには充分ご注意なさいませ。
                                                                     

〈あとがき〉

 本作品は他サイト近況ノート掲載作品です。
 消費税もうすぐ上がりますね、というお話でした。

 何となく、ス◯バでモメてた集団を見ながら書いちゃいました(笑)。

 カフェで書いたカフェの話(笑)。

 それにしても8%か10%か。
 分かりにくいですねぇ。お店選びのコツコツした積み重ねで節約になるのかなぁ……。
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