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第一部
第47話 蛇の妄執?
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「あぁ、この服。本当に窮屈!動きにくいったらありゃしない……」
三白眼の女はイライラしてメイド服のスカートの裾を蹴りあげた。
「もう一回聞く。マルサネ姫はどこだ」
鋭い眼光、暗い灰色の瞳が私を射抜く。
逃げなきゃ。
でも、どうやって?
私はまるで蛇に睨まれたカエルと同じだ。足がすくんで動かない。
「……うっ……ぐ!」
ドンッと女に壁に蹴りつけられ、そのまま邸の壁面を背に私はズルズルへたりこんでしまった。
蹴られたお腹も、壁にぶつけた背中もジンジンする。
それ以上に目の前の女から発せられる、危険なニオイに本能的に私は怯えた。
ヤバい。
逃げられない……!
シュッと音がして私の頬の横を風が通った。
そっと横目で見ると、銀色のゾッとするほど冷たいギラギラした刃が壁に突き立てられている。
「さて、どうしたら素直に吐く?まずは目を抉り出してやろうか。それともその低い鼻を削ぎ落してやろうか?」
どこか楽しそうな様子で、女はいつの間にか手にしたもうひと振りの半月刀の刃で軽く私の頬を叩く。
「いつまで遊んでいるのだ。バルレッタ」
馬車の後部から黒い影がゆらり、と現れた。
「ダオスタ様」
バルレッタ、と呼ばれた目の前の女に様呼びをされていただけあって威圧感のある、黒装束の男。
深い古傷の痕が頬や鍛えられた筋肉の上にひきつれた模様を残している。
細められた目は残忍そうに光り、スキンヘッドの頭部は所々の蛇が絡まったような刺青に彩られ…。どうみても悪者面。
人間、見かけで判断してはいけないけど……。私を助けてくれるような可能性は、なさそうだわ。
どうしたらいいの?
あの蛇の刺青!
またイスキアだろうか……?
どれだけしつこいのよ。
「姫様の下知は憎きゲンメのマルサネ姫に一太刀。それ以上でもそれ以下でもない。カルゾと対外的に事を構えるまではラマンドロ様がお許しになるまい。せっかくあの厄介なソーヴェの留守を狙ってきたこの好機、逃すでない。早く、邸内へ入れ」
「そんなことはわかってるよ。この女、素人女だったから簡単に口を割るかと思っただけ……」
バルレッタは肩をすくめて答えた。
「確かに素人だな。服装から、そこそこ身分のある者だろう。共もつけず、無防備なことだ。ソーヴェの客人か」
「じゃあ、片付けていく?」
バルレッタの手が私の口を塞ぎ、喉元に刃を構えた。
「んん……っ」
蒼白になる私。
やっぱり、見かけ通り。めっちゃ敵でしたわ!
このまま、ここでグッサリ!?
そんなの、ヤダヤダっ。
まだサラック様と二人でゆっくり話も出来ていないのに!
「いや、待てバルレッタ。先程、この女『マルサネは居ない』と言ったな。マルサネ、とはあの姫に対してずいぶんと親しげな呼び方をする……」
「そう?猿姫とか世間ではクソミソじゃないの」
「だからだ。マルサネ、と親しげに普通は呼ばぬ」
「ふ~ん」
私を押さえ込んだまま、バルレッタは上から下まで無遠慮にジロジロ眺めた。
「お前、マルサネ姫の何だ」
私……?
私はマルサネの……。
何だろう。
私は以前、マルサネの中に居た者です。
……誰が聞いても意味不明だよね。
サラック様やルーチェ、ソーヴェ様がこんな状況、よく受け入れてくれてると思うわ。
「ちっ、だんまりか。お頭、こいつを人質にマルサネ姫を炙り出せないかな?わからないけど、何となくコイツ、使えるような気がする」
「女の勘は当てにならん、といいたいが同感だ。まだ殺すな」
「ふん」
ダオスタの言葉に私から手を離し、半月刀を下ろすバルレッタ。
バクバクいって爆発しそうな、私の心臓。
落ち着け……。
考えろ、リツコ。
誰かが絶対に気がついてくれる。
それまでに時間を稼がなきゃ。
「命を助けてくれるなら、マルサネの所へ案内するわ」
バルレッタではなく、交渉相手はこっちの男。
私は膝がガクガクしていたが、立ち上がってダオスタに向き合った。
「ほぅ。お前は何者だ」
「私はマルサネの親しい友人よ。ソーヴェ様に今は世話になっている」
「友人?あの猿姫のか?」
「だからマルサネが何処に居るか知ってるわ。私が案内するからついてきて」
「女、小賢しい時間稼ぎはさせぬ。さっさと言え」
私の必死の言葉を鼻で笑うと、ダオスタは大剣を抜いて、私に向かって突きつけた。
その時。
「リツコ様!!伏せて!」
どこからか声がして、私はオデコが床に激突するぐらいの勢いで伏せた。
ドシュッ!!
何かがぶつかるような音がして、私が床から視線を上げると。
目の前の女、バルレッタと呼ばれた女の胸に突然、後ろから細い剣先が生えていた。
「うぎゃあぁぁぁ……っ!!」
バルレッタは絶叫しながら、血を口や胸から吹き出させて崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?リツコ様!!」
バルレッタの背後から血に染まった細剣を足をかけて引き抜いたのは、朝食を運んできたメイドのダルバだった。
三白眼の女はイライラしてメイド服のスカートの裾を蹴りあげた。
「もう一回聞く。マルサネ姫はどこだ」
鋭い眼光、暗い灰色の瞳が私を射抜く。
逃げなきゃ。
でも、どうやって?
私はまるで蛇に睨まれたカエルと同じだ。足がすくんで動かない。
「……うっ……ぐ!」
ドンッと女に壁に蹴りつけられ、そのまま邸の壁面を背に私はズルズルへたりこんでしまった。
蹴られたお腹も、壁にぶつけた背中もジンジンする。
それ以上に目の前の女から発せられる、危険なニオイに本能的に私は怯えた。
ヤバい。
逃げられない……!
シュッと音がして私の頬の横を風が通った。
そっと横目で見ると、銀色のゾッとするほど冷たいギラギラした刃が壁に突き立てられている。
「さて、どうしたら素直に吐く?まずは目を抉り出してやろうか。それともその低い鼻を削ぎ落してやろうか?」
どこか楽しそうな様子で、女はいつの間にか手にしたもうひと振りの半月刀の刃で軽く私の頬を叩く。
「いつまで遊んでいるのだ。バルレッタ」
馬車の後部から黒い影がゆらり、と現れた。
「ダオスタ様」
バルレッタ、と呼ばれた目の前の女に様呼びをされていただけあって威圧感のある、黒装束の男。
深い古傷の痕が頬や鍛えられた筋肉の上にひきつれた模様を残している。
細められた目は残忍そうに光り、スキンヘッドの頭部は所々の蛇が絡まったような刺青に彩られ…。どうみても悪者面。
人間、見かけで判断してはいけないけど……。私を助けてくれるような可能性は、なさそうだわ。
どうしたらいいの?
あの蛇の刺青!
またイスキアだろうか……?
どれだけしつこいのよ。
「姫様の下知は憎きゲンメのマルサネ姫に一太刀。それ以上でもそれ以下でもない。カルゾと対外的に事を構えるまではラマンドロ様がお許しになるまい。せっかくあの厄介なソーヴェの留守を狙ってきたこの好機、逃すでない。早く、邸内へ入れ」
「そんなことはわかってるよ。この女、素人女だったから簡単に口を割るかと思っただけ……」
バルレッタは肩をすくめて答えた。
「確かに素人だな。服装から、そこそこ身分のある者だろう。共もつけず、無防備なことだ。ソーヴェの客人か」
「じゃあ、片付けていく?」
バルレッタの手が私の口を塞ぎ、喉元に刃を構えた。
「んん……っ」
蒼白になる私。
やっぱり、見かけ通り。めっちゃ敵でしたわ!
このまま、ここでグッサリ!?
そんなの、ヤダヤダっ。
まだサラック様と二人でゆっくり話も出来ていないのに!
「いや、待てバルレッタ。先程、この女『マルサネは居ない』と言ったな。マルサネ、とはあの姫に対してずいぶんと親しげな呼び方をする……」
「そう?猿姫とか世間ではクソミソじゃないの」
「だからだ。マルサネ、と親しげに普通は呼ばぬ」
「ふ~ん」
私を押さえ込んだまま、バルレッタは上から下まで無遠慮にジロジロ眺めた。
「お前、マルサネ姫の何だ」
私……?
私はマルサネの……。
何だろう。
私は以前、マルサネの中に居た者です。
……誰が聞いても意味不明だよね。
サラック様やルーチェ、ソーヴェ様がこんな状況、よく受け入れてくれてると思うわ。
「ちっ、だんまりか。お頭、こいつを人質にマルサネ姫を炙り出せないかな?わからないけど、何となくコイツ、使えるような気がする」
「女の勘は当てにならん、といいたいが同感だ。まだ殺すな」
「ふん」
ダオスタの言葉に私から手を離し、半月刀を下ろすバルレッタ。
バクバクいって爆発しそうな、私の心臓。
落ち着け……。
考えろ、リツコ。
誰かが絶対に気がついてくれる。
それまでに時間を稼がなきゃ。
「命を助けてくれるなら、マルサネの所へ案内するわ」
バルレッタではなく、交渉相手はこっちの男。
私は膝がガクガクしていたが、立ち上がってダオスタに向き合った。
「ほぅ。お前は何者だ」
「私はマルサネの親しい友人よ。ソーヴェ様に今は世話になっている」
「友人?あの猿姫のか?」
「だからマルサネが何処に居るか知ってるわ。私が案内するからついてきて」
「女、小賢しい時間稼ぎはさせぬ。さっさと言え」
私の必死の言葉を鼻で笑うと、ダオスタは大剣を抜いて、私に向かって突きつけた。
その時。
「リツコ様!!伏せて!」
どこからか声がして、私はオデコが床に激突するぐらいの勢いで伏せた。
ドシュッ!!
何かがぶつかるような音がして、私が床から視線を上げると。
目の前の女、バルレッタと呼ばれた女の胸に突然、後ろから細い剣先が生えていた。
「うぎゃあぁぁぁ……っ!!」
バルレッタは絶叫しながら、血を口や胸から吹き出させて崩れ落ちた。
「大丈夫ですか?リツコ様!!」
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