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第二部
第1話 異界渡! 〈side:マルサネ〉
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満月の夜。
運命の夜がはじまった。
この夜をあたしは一生忘れないだろう。
けど、この時はあたしはただ、カルゾ邸から帰ってきてがらんとした広すぎる自室にぼんやりと座っているだけだった。
ハゲオヤジは出かけているらしい。
ルーチェは多分、恒例の夜のトレーニングだ。
格闘大会の元チャンピオンだけあってルーチェは毎晩、欠かさず鍛練に励んでいることをあたしは知っている。
その実力で表向きのあたしのボディーガードとしてハゲオヤジがルーチェを無理やり雇ったって「闇」のサヴィートに聞いた。
ルーチェはそんな事、あたしの前じゃ何にも言わないけどね。
昔は怒らせてみようと子どもっぽく挑発したこともあったけど、ルーチェがのって来ることはなかったわ。
まぁ、ルーチェが本気を出したらあたし、負けは確定。
正攻法なら「闇」の者でもかなわないだろうとボーカも言ってたのを思い出す。
とにかく。
あたしは一人だったのだ。
広い部屋にただ、座っているのも落ち着かなくて。
先程帰り道に見た満月を思い出して、あたしはバルコニーへ出た。
何だかいつもより月光の赤みが強かったような気がしたから。
そして。
バルコニーから、満月を見上げたことまではよく覚えている……。
そこに輝いていたのは……。
以前、リツコの中から一緒に見たブラッディ・ムーンだった。
血の滴るような、深紅の月。
バルコニーからあたしがその不吉な月を見上げた途端。
突如、月が紅く妖しく輝いたかと思うとあたしの身体がフワッと浮き上がり……。
ぐわっ!と凄い勢いで紅い月が目前に迫ってきた。
生暖かい風が嵐のようにあたしに吹きつける。
風が強く、とても目を開けていられない。
あたしは両腕で顔面をガードしながら、なんとか片目を開けて赤い光の向こう側を見た。
(リツコ!!)
光の向こうにぼんやり、小柄な女の姿がみえる。
あたしは直感で「ソレ」がリツコであることがわかった。
ゴウゴウと渦巻く風、浮き上がる身体と不安定な足場のなか、もがきながら必死にその姿に向かって手を伸ばす。
「リツコォ~ッ!!」
リツコも大きな目を見開いてあたしに手を伸ばした。
「××××……!」
リツコの口があたしの名前の形に動く。
あたしたちの、指先が触れあった途端……!
弾かれるように、眼前がスパークして宇宙空間のような星々が煌めく無限の空間、上も下もどこまでも満天の星の中に放り出される。
青い宝石のように輝く、緑と白のマーブル模様がまとわりついた美しい惑星が足元に見えた。
(あれは……?)
蒼い宝玉に重なるように、付き従う小さな衛星が赤い太陽を照り返すように紅い炎に包まれ、妖しく紅く輝いていた。
(あれはゲートよ、マルサネ。今なら、行ける。行きなさい、早く……!界が開くのは一瞬なの。あぁ、ゲートが閉まってしまう……)
頭の中でサリア……母さんの声が響く。
「母さん!?母さ~ん!!」
そう、あたしが絶叫した途端。
身体が星空の中、奈落のような底無しの闇に急降下していった。
どこまでも、どこまでも……。
堕ちて、いく。
あの、足元に見える神秘的な蒼い星に向かって……。
いつしか、あたしは意識を手放していた。
§ § §
「うぅ……」
あたしが意識を失っていたのは、感覚的には一瞬に過ぎなかったようだ。
気がつくと、見知らぬ狭いバルコニーのようなところで青白い月の光に照らされて横たわっていた。
(月が……、紅くない)
「リツコ!」
そうだ。あたしは確かにリツコに触れた。
そして……。
「あんた、誰だ!」
ふいに、背後から鋭い響きを帯びた若い男の声がした。
振り返ると、硝子戸を開けて不審そうに見つめる若い男が立っていた。
スッキリとした、少年から青年になろうとしているのが解るアンバランスな長い手足、どこかで見知っていたような……とても良く知っているのような、だけど思い出せない顔。年の頃はあたしと同じぐらいだろうか。
少女と見紛うような大きな焦げ茶色の瞳は月の光を反射してキラキラと綺麗に輝いていた。
綺麗な男の子……。
あたしは息をのんだ。
「なぜ、母さんの名前を知っている?母さんはどこだ?」
警戒モードを保ちつつ、あたしにその若い男は近寄ってきた。
運命の夜がはじまった。
この夜をあたしは一生忘れないだろう。
けど、この時はあたしはただ、カルゾ邸から帰ってきてがらんとした広すぎる自室にぼんやりと座っているだけだった。
ハゲオヤジは出かけているらしい。
ルーチェは多分、恒例の夜のトレーニングだ。
格闘大会の元チャンピオンだけあってルーチェは毎晩、欠かさず鍛練に励んでいることをあたしは知っている。
その実力で表向きのあたしのボディーガードとしてハゲオヤジがルーチェを無理やり雇ったって「闇」のサヴィートに聞いた。
ルーチェはそんな事、あたしの前じゃ何にも言わないけどね。
昔は怒らせてみようと子どもっぽく挑発したこともあったけど、ルーチェがのって来ることはなかったわ。
まぁ、ルーチェが本気を出したらあたし、負けは確定。
正攻法なら「闇」の者でもかなわないだろうとボーカも言ってたのを思い出す。
とにかく。
あたしは一人だったのだ。
広い部屋にただ、座っているのも落ち着かなくて。
先程帰り道に見た満月を思い出して、あたしはバルコニーへ出た。
何だかいつもより月光の赤みが強かったような気がしたから。
そして。
バルコニーから、満月を見上げたことまではよく覚えている……。
そこに輝いていたのは……。
以前、リツコの中から一緒に見たブラッディ・ムーンだった。
血の滴るような、深紅の月。
バルコニーからあたしがその不吉な月を見上げた途端。
突如、月が紅く妖しく輝いたかと思うとあたしの身体がフワッと浮き上がり……。
ぐわっ!と凄い勢いで紅い月が目前に迫ってきた。
生暖かい風が嵐のようにあたしに吹きつける。
風が強く、とても目を開けていられない。
あたしは両腕で顔面をガードしながら、なんとか片目を開けて赤い光の向こう側を見た。
(リツコ!!)
光の向こうにぼんやり、小柄な女の姿がみえる。
あたしは直感で「ソレ」がリツコであることがわかった。
ゴウゴウと渦巻く風、浮き上がる身体と不安定な足場のなか、もがきながら必死にその姿に向かって手を伸ばす。
「リツコォ~ッ!!」
リツコも大きな目を見開いてあたしに手を伸ばした。
「××××……!」
リツコの口があたしの名前の形に動く。
あたしたちの、指先が触れあった途端……!
弾かれるように、眼前がスパークして宇宙空間のような星々が煌めく無限の空間、上も下もどこまでも満天の星の中に放り出される。
青い宝石のように輝く、緑と白のマーブル模様がまとわりついた美しい惑星が足元に見えた。
(あれは……?)
蒼い宝玉に重なるように、付き従う小さな衛星が赤い太陽を照り返すように紅い炎に包まれ、妖しく紅く輝いていた。
(あれはゲートよ、マルサネ。今なら、行ける。行きなさい、早く……!界が開くのは一瞬なの。あぁ、ゲートが閉まってしまう……)
頭の中でサリア……母さんの声が響く。
「母さん!?母さ~ん!!」
そう、あたしが絶叫した途端。
身体が星空の中、奈落のような底無しの闇に急降下していった。
どこまでも、どこまでも……。
堕ちて、いく。
あの、足元に見える神秘的な蒼い星に向かって……。
いつしか、あたしは意識を手放していた。
§ § §
「うぅ……」
あたしが意識を失っていたのは、感覚的には一瞬に過ぎなかったようだ。
気がつくと、見知らぬ狭いバルコニーのようなところで青白い月の光に照らされて横たわっていた。
(月が……、紅くない)
「リツコ!」
そうだ。あたしは確かにリツコに触れた。
そして……。
「あんた、誰だ!」
ふいに、背後から鋭い響きを帯びた若い男の声がした。
振り返ると、硝子戸を開けて不審そうに見つめる若い男が立っていた。
スッキリとした、少年から青年になろうとしているのが解るアンバランスな長い手足、どこかで見知っていたような……とても良く知っているのような、だけど思い出せない顔。年の頃はあたしと同じぐらいだろうか。
少女と見紛うような大きな焦げ茶色の瞳は月の光を反射してキラキラと綺麗に輝いていた。
綺麗な男の子……。
あたしは息をのんだ。
「なぜ、母さんの名前を知っている?母さんはどこだ?」
警戒モードを保ちつつ、あたしにその若い男は近寄ってきた。
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