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第一部

第39話 月下の御招霊?

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 本格的な夏に突入するころには、私は日常を取り戻していた。

 特売日にはスーパーに変わらず走っている。
 私が救急車で運ばれたせいか、あのスーパーは掃除が以前よりも丁寧になった。


 今日は、お盆休みの最終日。
 陽が昇ると道が混んでくるので、朝早くから家を出て息子の奏大と夫の墓参りにやってきていた。

「母さん?」
 両手に仏花や桶を抱えた奏大が心配そうに私を覗きこんできた。
「ん?どした?」
「ほら、最近何だかボンヤリすることが増えたような気がしてさ」
 早くに父親が亡くなったせいか、何だかんだ文句を言いつつ、高校生になっても母親についてきてくれる優しい末っ子だ。心配かけて申し訳ない。

「そうかな」
「そうだよ。更年期ってやつ?」
「かもね。それだけあんた達が苦労させたってことね」
「ハイハイ。すみませんね」
 
  墓石を掃除して、草を取り……。
  気がつくとすっかり陽が昇ってしまっていた。
 

「あっちぃ……」
 首にタオルを巻いた奏大がスポーツドリンクをがぶ飲みする。
「熱中症になっちゃうわ。充分、綺麗になったから帰ろっか。ありがとうね、奏大」
 私は最後に線香をあげ、両手をあわせて立ち上がった。

「またな、父さん」
  奏大が空になった桶や荷物を持って、私の前を歩き出す。

「あんた、本当にでっかくなったわねぇ」
 気がついたら、とっくに私も姉達の身長も越してしまっていた。赤ちゃんだった奏大に見下ろされているなんて、不思議な感じがする時がある。

「育ち盛りですから。というわけで、お昼宜しく~!」
「何にしよっか」

 奏大と駅前で昼食をとり、ロータリーで別れた。
 暑かったせいか、私はランチを半分奏大に譲った。若い食欲旺盛な奏大の半分も食べられなかった。

 夏バテだろうか。外食が大好きな私にしては、珍しいこともあるものだ。


 奏大はこの後、どうやら同級生と待ち合わせしてるらしい。
 
 もう、高校生。奏大はあの子の付き合いが。
 和奏も、歌音も。
 いつか大切な人を見つけて、私の元から巣出って行くだろう。

 そんな感慨に浸りながら、 一人誰も居ない我が家に到着する。


 クーラーをかけると、ソファーに寝転んだ。
 朝早くから、今日は暑い中よく働いたわ……。

 ムッとした空気が冷えていく気持ち良さと、身体の怠さからどうやら私はそのまま、爆睡してしまったようだった。


§                          §                          §

「もう、夕方……」  
 キンキンに冷えた薄暗い部屋で、私は目を覚ました。
 
 しまった。もうこんな時間……!
 寒っ、あ~あ、風邪ひいちゃったかしら。


 冷えた肌をさすりながら、ソファーから私は身を起こした。
 スマホ、何処に置いたかなぁ。
 
 ボーッと見回すと、サイドテーブルの上でメール通知が点滅するスマホを見つける。

 和奏たち、帰ってくるかしら?
 ご飯、これから作るんだけどな。
 
 スマホには和奏から「残業してくるからご飯は不要」の連絡が入っていた。
 奏大はどうするのかなぁ?歌音は予備校の食堂だから、あとは奏大と私ね。私だけなら、あるもので簡単に済ませちゃおう、っと。


 奏大にメールを入れようとした瞬間、ふと、誰かに見られてるような気がして、私は顔をあげた。


「誰?」
 ぼんやりと私はスマホを片手に持ったまま、言った。

 それまで、誰もいなかった部屋の中に誰かが入ってくる気配もなかったのに、突然出現するようなモノが、現実なハズはない。

 でも、私は驚かなかった。
 
 もしかしたら、ろくに昼ご飯もとらず、空腹で貧血状態の頭では正常にモノが考えられなかったから。
 まだ頭が覚醒しきってなかったせいかもしれない。


 「ふふふ……。久しぶりね、リツコ」
 開け放たれた南窓の前で月光に照らされて立っていたのは、痩せ型の長い黒髪の女。
 
「……サリア、さん?」
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