アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
47 / 150
第一部

side:ゲンメ公女 マルサネ part1

しおりを挟む
 あたしは突然、覚醒した。いや、正確には身体を取り戻したのだ。

 爆音とともに、馬車がひどく揺れて頭をひどく壁に打ちつけた時。
 ずっと、それまであたしの身体を動かしていた『リツコ』という人物と突如、入れ替わった。

 九番街の酒場で酔って足を滑らせて、石畳で頭を強打して以来の、久しぶりのあたしの身体。

 あたしの名前はマルサネ・ゲンメ。
 ユッカ国ゲンメ領を治める、ゲンメ公の一人娘。

 取り柄は、母親は病で亡くなったが、父親譲りの丈夫な身体だ。じっとしてるのは性にあわないから勉学は嫌い。幼い時から、常にあたしの周りをウロウロしてた『闇』という一族と身体を鍛えて過ごしてきた。
 好きなように暴れて過ごしてきたことや、所々の事情で世間では「猿姫」なんて呼ばれている。

 イスキア公女カルドンヌが「蛇姫」と呼ばれてるからだろうが、正直あの気持ち悪い女と同列にされているようで、この呼び名は面白くない。



 あたしは酒場で頭を強打した、あの日からずっと、『リツコ』の中から『マルサネ』を見てきた。


 だから、今。

 海蛇の残党があたしを狙って襲ってきたのだろう、というこの状況は理解した。まだ残党狩りをしている状況で、こんな道を通ったのは『リツコ』の判断ミスだ。

 まぁ、蛇姫の逆恨みだろうが、なんだろうがあたしは受けて立ってやるだけだか。


 問題は、久しぶりのこの身体が動くかどうか……。


 まだ痛む頭を抱えながら、なんとか壁によりかかってあたしはフラフラと立ち上がった。

 『リツコ』が随分と甘やかしたらしい。手を握ったり、開いたりするだけで随分とあたしの筋力が落ちているのがわかる。



「馬車を守れ!奴らを中に入れるな!!」
 馬車の外からサヴィートの声がする。
 幼い時から、クソオヤジがあたしに張りつかせてるゲンメの闇の一員だ。

 サヴィートにしては、必死の声で叫んでいる。
 それだけ、イスキア海蛇の数が予想外に多かったのだろう。
 

「……よいしょっと」
 あたしは馬車の床下の隠し場所から、大振りの剣を取り出した。


 
  その瞬間。

「猿姫、お命頂戴!」
 凄い勢いで、馬車のドアが開き、鋭い細剣を構えた黒装束の男が飛び込んできた。

「うるさいっ!」
 あたしは剣を正眼に構え、素早く踏み込むと黒装束の男を力任せに薙ぎ払った。

「ぐぎゃぁあ…っ!!」
 潰れた蛙のような声をあげて、扉の向こうに男は吹っ飛ぶ。 


 ふん。
 まぁまぁ、動けそうね。

 鈍ってると思ったけど、何とかなりそうじゃないの。


 あたしはブンッと大きく剣をふり、剣についていた血液を飛ばした。

 点々と血痕で馬車が汚れてしまったが、しょうがない。

 まぁ、どうせこの馬車もここまで壊れたら廃車でしょ。
 細かいクソオヤジがまた、ブツブツ言うかもしれないけど、今回はあたしが壊したわけじゃない。


「ご無事で?」
 蝶番が弾けとんで傾いたドアから、全身を黒衣に包んだ痩せた男が顔を覗かせた。
「遅い、サヴィート」
 あたしに、名前を呼ばれたサヴィートは一瞬、戸惑ったように固まる。
 
 まぁ、そうだろうね。『リツコ』は自分に常についていた彼らの存在すら、全く気づいていなかったから。
 

「……お嬢?戻られました、か……?」
「みたいね。とりあえず、細かい話はあと。先に報告して。戦況は?」
 あたしは剣を馬車の床に突き刺し、サヴィートを手招きした。

 するり、と音もなく壊れたドアを開けると、サヴィートはあたしの前に跪く。
「敵は海蛇およそ10人程。こちらは御者がやられました。奴らはこの先の路地や橋の下に潜んで、こちらを伺ってる様子」
「闇は?」
「私とボーカ、少し先にガヴィが控えております」
「さっき、あたしが一人は片づけたわ。四人いれば、残りもいけるんじゃない?」
 あたしのセリフにサヴィートは唇の端を歪めた。

「お嬢が戻られたのならば、勝算は」
「ある?」
「はい。普通の令嬢だと油断させて、叩けば勝機があるかと」
「サヴィート、あたしは普通ではないと?」
「そのようにスカートを破かれて、血刀を下げたご令嬢はあまりお見かけいたしませんが…」
「そう?」
 足元が動きにくかったため、スカートを裂いて足首で結んでみたんだが……。

「わかった。時が移る。要するに、勝機はあたし次第と。奴らの狙いもあたしの命だしね。……じゃあ手っ取り早く、あたしが囮になればいいんじゃない?」
「お嬢、くれぐれも無茶は……」
「ふん……!心配しなくても、今のあたしに無茶をするような体力はないわ。それより、体力が落ちたあたしに持久戦はキツい。一気に片づけるから、後ろの援護は頼んだわよ」
「お任せ下さい」
「よし、囮作戦開始ね!」


 あたしは、とれかけた馬車の扉を蹴り飛ばし、外へ出た。


「マルサネはここだ!海蛇ども。あたしが遊んでやるから、さっさと出てきな」 
 橋の上で仁王立ちして、喚いて挑発するあたし。

 ……確かに。普通の令嬢はこんなこと、しないかも。


 だが、程なく目論み通り。
 路地裏から湧き出てきた海蛇たちが、一斉にあたしに襲いかかってきた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...