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第一部
side:ゲンメ公女 マルサネ part1
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あたしは突然、覚醒した。いや、正確には身体を取り戻したのだ。
爆音とともに、馬車がひどく揺れて頭をひどく壁に打ちつけた時。
ずっと、それまであたしの身体を動かしていた『リツコ』という人物と突如、入れ替わった。
九番街の酒場で酔って足を滑らせて、石畳で頭を強打して以来の、久しぶりのあたしの身体。
あたしの名前はマルサネ・ゲンメ。
ユッカ国ゲンメ領を治める、ゲンメ公の一人娘。
取り柄は、母親は病で亡くなったが、父親譲りの丈夫な身体だ。じっとしてるのは性にあわないから勉学は嫌い。幼い時から、常にあたしの周りをウロウロしてた『闇』という一族と身体を鍛えて過ごしてきた。
好きなように暴れて過ごしてきたことや、所々の事情で世間では「猿姫」なんて呼ばれている。
イスキア公女カルドンヌが「蛇姫」と呼ばれてるからだろうが、正直あの気持ち悪い女と同列にされているようで、この呼び名は面白くない。
あたしは酒場で頭を強打した、あの日からずっと、『リツコ』の中から『マルサネ』を見てきた。
だから、今。
海蛇の残党があたしを狙って襲ってきたのだろう、というこの状況は理解した。まだ残党狩りをしている状況で、こんな道を通ったのは『リツコ』の判断ミスだ。
まぁ、蛇姫の逆恨みだろうが、なんだろうがあたしは受けて立ってやるだけだか。
問題は、久しぶりのこの身体が動くかどうか……。
まだ痛む頭を抱えながら、なんとか壁によりかかってあたしはフラフラと立ち上がった。
『リツコ』が随分と甘やかしたらしい。手を握ったり、開いたりするだけで随分とあたしの筋力が落ちているのがわかる。
「馬車を守れ!奴らを中に入れるな!!」
馬車の外からサヴィートの声がする。
幼い時から、クソオヤジがあたしに張りつかせてるゲンメの闇の一員だ。
サヴィートにしては、必死の声で叫んでいる。
それだけ、イスキア海蛇の数が予想外に多かったのだろう。
「……よいしょっと」
あたしは馬車の床下の隠し場所から、大振りの剣を取り出した。
その瞬間。
「猿姫、お命頂戴!」
凄い勢いで、馬車のドアが開き、鋭い細剣を構えた黒装束の男が飛び込んできた。
「うるさいっ!」
あたしは剣を正眼に構え、素早く踏み込むと黒装束の男を力任せに薙ぎ払った。
「ぐぎゃぁあ…っ!!」
潰れた蛙のような声をあげて、扉の向こうに男は吹っ飛ぶ。
ふん。
まぁまぁ、動けそうね。
鈍ってると思ったけど、何とかなりそうじゃないの。
あたしはブンッと大きく剣をふり、剣についていた血液を飛ばした。
点々と血痕で馬車が汚れてしまったが、しょうがない。
まぁ、どうせこの馬車もここまで壊れたら廃車でしょ。
細かいクソオヤジがまた、ブツブツ言うかもしれないけど、今回はあたしが壊したわけじゃない。
「ご無事で?」
蝶番が弾けとんで傾いたドアから、全身を黒衣に包んだ痩せた男が顔を覗かせた。
「遅い、サヴィート」
あたしに、名前を呼ばれたサヴィートは一瞬、戸惑ったように固まる。
まぁ、そうだろうね。『リツコ』は自分に常についていた彼らの存在すら、全く気づいていなかったから。
「……お嬢?戻られました、か……?」
「みたいね。とりあえず、細かい話はあと。先に報告して。戦況は?」
あたしは剣を馬車の床に突き刺し、サヴィートを手招きした。
するり、と音もなく壊れたドアを開けると、サヴィートはあたしの前に跪く。
「敵は海蛇およそ10人程。こちらは御者がやられました。奴らはこの先の路地や橋の下に潜んで、こちらを伺ってる様子」
「闇は?」
「私とボーカ、少し先にガヴィが控えております」
「さっき、あたしが一人は片づけたわ。四人いれば、残りもいけるんじゃない?」
あたしのセリフにサヴィートは唇の端を歪めた。
「お嬢が戻られたのならば、勝算は」
「ある?」
「はい。普通の令嬢だと油断させて、叩けば勝機があるかと」
「サヴィート、あたしは普通ではないと?」
「そのようにスカートを破かれて、血刀を下げたご令嬢はあまりお見かけいたしませんが…」
「そう?」
足元が動きにくかったため、スカートを裂いて足首で結んでみたんだが……。
「わかった。時が移る。要するに、勝機はあたし次第と。奴らの狙いもあたしの命だしね。……じゃあ手っ取り早く、あたしが囮になればいいんじゃない?」
「お嬢、くれぐれも無茶は……」
「ふん……!心配しなくても、今のあたしに無茶をするような体力はないわ。それより、体力が落ちたあたしに持久戦はキツい。一気に片づけるから、後ろの援護は頼んだわよ」
「お任せ下さい」
「よし、囮作戦開始ね!」
あたしは、とれかけた馬車の扉を蹴り飛ばし、外へ出た。
「マルサネはここだ!海蛇ども。あたしが遊んでやるから、さっさと出てきな」
橋の上で仁王立ちして、喚いて挑発するあたし。
……確かに。普通の令嬢はこんなこと、しないかも。
だが、程なく目論み通り。
路地裏から湧き出てきた海蛇たちが、一斉にあたしに襲いかかってきた。
爆音とともに、馬車がひどく揺れて頭をひどく壁に打ちつけた時。
ずっと、それまであたしの身体を動かしていた『リツコ』という人物と突如、入れ替わった。
九番街の酒場で酔って足を滑らせて、石畳で頭を強打して以来の、久しぶりのあたしの身体。
あたしの名前はマルサネ・ゲンメ。
ユッカ国ゲンメ領を治める、ゲンメ公の一人娘。
取り柄は、母親は病で亡くなったが、父親譲りの丈夫な身体だ。じっとしてるのは性にあわないから勉学は嫌い。幼い時から、常にあたしの周りをウロウロしてた『闇』という一族と身体を鍛えて過ごしてきた。
好きなように暴れて過ごしてきたことや、所々の事情で世間では「猿姫」なんて呼ばれている。
イスキア公女カルドンヌが「蛇姫」と呼ばれてるからだろうが、正直あの気持ち悪い女と同列にされているようで、この呼び名は面白くない。
あたしは酒場で頭を強打した、あの日からずっと、『リツコ』の中から『マルサネ』を見てきた。
だから、今。
海蛇の残党があたしを狙って襲ってきたのだろう、というこの状況は理解した。まだ残党狩りをしている状況で、こんな道を通ったのは『リツコ』の判断ミスだ。
まぁ、蛇姫の逆恨みだろうが、なんだろうがあたしは受けて立ってやるだけだか。
問題は、久しぶりのこの身体が動くかどうか……。
まだ痛む頭を抱えながら、なんとか壁によりかかってあたしはフラフラと立ち上がった。
『リツコ』が随分と甘やかしたらしい。手を握ったり、開いたりするだけで随分とあたしの筋力が落ちているのがわかる。
「馬車を守れ!奴らを中に入れるな!!」
馬車の外からサヴィートの声がする。
幼い時から、クソオヤジがあたしに張りつかせてるゲンメの闇の一員だ。
サヴィートにしては、必死の声で叫んでいる。
それだけ、イスキア海蛇の数が予想外に多かったのだろう。
「……よいしょっと」
あたしは馬車の床下の隠し場所から、大振りの剣を取り出した。
その瞬間。
「猿姫、お命頂戴!」
凄い勢いで、馬車のドアが開き、鋭い細剣を構えた黒装束の男が飛び込んできた。
「うるさいっ!」
あたしは剣を正眼に構え、素早く踏み込むと黒装束の男を力任せに薙ぎ払った。
「ぐぎゃぁあ…っ!!」
潰れた蛙のような声をあげて、扉の向こうに男は吹っ飛ぶ。
ふん。
まぁまぁ、動けそうね。
鈍ってると思ったけど、何とかなりそうじゃないの。
あたしはブンッと大きく剣をふり、剣についていた血液を飛ばした。
点々と血痕で馬車が汚れてしまったが、しょうがない。
まぁ、どうせこの馬車もここまで壊れたら廃車でしょ。
細かいクソオヤジがまた、ブツブツ言うかもしれないけど、今回はあたしが壊したわけじゃない。
「ご無事で?」
蝶番が弾けとんで傾いたドアから、全身を黒衣に包んだ痩せた男が顔を覗かせた。
「遅い、サヴィート」
あたしに、名前を呼ばれたサヴィートは一瞬、戸惑ったように固まる。
まぁ、そうだろうね。『リツコ』は自分に常についていた彼らの存在すら、全く気づいていなかったから。
「……お嬢?戻られました、か……?」
「みたいね。とりあえず、細かい話はあと。先に報告して。戦況は?」
あたしは剣を馬車の床に突き刺し、サヴィートを手招きした。
するり、と音もなく壊れたドアを開けると、サヴィートはあたしの前に跪く。
「敵は海蛇およそ10人程。こちらは御者がやられました。奴らはこの先の路地や橋の下に潜んで、こちらを伺ってる様子」
「闇は?」
「私とボーカ、少し先にガヴィが控えております」
「さっき、あたしが一人は片づけたわ。四人いれば、残りもいけるんじゃない?」
あたしのセリフにサヴィートは唇の端を歪めた。
「お嬢が戻られたのならば、勝算は」
「ある?」
「はい。普通の令嬢だと油断させて、叩けば勝機があるかと」
「サヴィート、あたしは普通ではないと?」
「そのようにスカートを破かれて、血刀を下げたご令嬢はあまりお見かけいたしませんが…」
「そう?」
足元が動きにくかったため、スカートを裂いて足首で結んでみたんだが……。
「わかった。時が移る。要するに、勝機はあたし次第と。奴らの狙いもあたしの命だしね。……じゃあ手っ取り早く、あたしが囮になればいいんじゃない?」
「お嬢、くれぐれも無茶は……」
「ふん……!心配しなくても、今のあたしに無茶をするような体力はないわ。それより、体力が落ちたあたしに持久戦はキツい。一気に片づけるから、後ろの援護は頼んだわよ」
「お任せ下さい」
「よし、囮作戦開始ね!」
あたしは、とれかけた馬車の扉を蹴り飛ばし、外へ出た。
「マルサネはここだ!海蛇ども。あたしが遊んでやるから、さっさと出てきな」
橋の上で仁王立ちして、喚いて挑発するあたし。
……確かに。普通の令嬢はこんなこと、しないかも。
だが、程なく目論み通り。
路地裏から湧き出てきた海蛇たちが、一斉にあたしに襲いかかってきた。
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