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番外編 〈第25.5話~〉
カルゾメイドの溜息!〈sideマリン〉part10
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「お疲れ様で~す」
執務室をノックすると
「はい」
聞き慣れた無愛想な短い返事がありました。
「失礼します」
扉を開け、ワゴンを引っ張って入るとナルドさんが書類の山に囲まれて一心不乱にペンを走らせていました。
「マリンですか。何か?」
「あの~、食事もとられていないと聞きましたので軽食をお持ちしました」
「そういえば…。お腹が空きましたね。ありがとうございます。せっかくなのでいただきます」
疲れた顔でナルドさんはペンを置きました。
私はお茶を淹れ、書類を避けてスペースをつくると厨房に準備されていた特性麺の入った海鮮スープと、カルゾのブランドポークと野菜を挟んだサンドイッチを並べました。
軽食というより、がっちりお昼ご飯です。
「懐かしいですね、この麺。昔、よく食べてました」
「私もです。カルゾのアカデミーでお昼に食べるのが楽しみでした」
「あ~、あれ、ちょっと冷めてるんだけど、またそれが美味しいんですよね」
さっきまで疲れきってた顔をしていたナルドさんが、嬉しそうな表情で麺をすすりました。
パロマに押されて厨房から運んできたんですが、つくづく、食べ物の力って絶大だなぁと思いました。
やはり、人間は食べることが基本ですよね。
「このサンドイッチも、お願いして夜食によく作ってもらいました。マリンが料理長に頼んでくださったのですか?」
「そうなんですね…」
パロマのことだから、食べ物の好みまでリサーチ済だとは思うけど、本当にちょっと怖いわ。
「実はパロマに頼まれて」
「あぁ、彼女ですか。彼女なら裏メニューを知っていても納得です」
ナルドさんはサンドイッチ片手に頷きました。
「皆さんがベイトに行ってしまわれると寂しくなります…」
「そうですね、騒ぎを起こされる方が居なくなるので、ここは静かになると思いますよ。パロマも急に出国申請するというので、仕事が増えて大変でした。まぁ、ソーヴェ様の為さることもいつも突然なので慣れてはいますが」
「そういえばナルドさんの席にランブロさんという方が今朝、みえてましたわ。突然なのでビックリしました」
「あぁ、彼は先月の本国トーナメントの優勝者ですよ。急遽、ソーヴェ様が呼ばれたらしいです。警備の方が向いているかもしれませんが、意外に器用そうなので覚えてしまえば何とかなるかもしれませんね。マリン、すみませんが色々教えてあげて下さい」
優しく、ナルドさんはふんわり微笑みました。
今まで無表情で滅多に笑わない人物の微笑みは反則です。心臓がバクバクします。
「イヤです。私…ナルドさんがいいです」
「えっ…、マリン?」
私は手に持っていたティーカップを机に置いて立ち上がりました。
何だか、身体が熱いです。
海鮮スープの香辛料でしょうか?
ポカポカするような、カーッとするような?
立ち上がって、フラフラと向かい側に座るナルドさんの横に座りました。
「行ってしまわれるんですよね?」
「マリン!どうしたんですか?近いです…」
引き気味になる、ナルドさん。
ほんのり、顔が赤いのはやはり香辛料のせいでしょうか。
スープ、そんなに辛くなかったんですけど。
「あんまり近づかれると…、その…。暑いですから」
「今朝、ランブロさんがナルドさんの席に座っているのを見て、凄く寂しかったんです、私」
「え…」
「私もナルドさんと一緒に一緒について行きたいですけど、ダメですか?」
何言ってるんだろう。私。
熱に浮かされるように、口走っていました。
告白?しちゃったことになるのかしら…。
「いいですよ、ソーヴェ様にお伺いしてみましょう」
あっさり、ナルドさんはオーケーしてくれました。
「え…、それじゃあ」
「私もマリンが居てくれると助かりますし」
「…ナルドさん…。私」
「それにしても、貴女も酔狂な人ですね。事務室勤めよりハードになりますけど?」
「それは、大丈夫です。がんばります」
そんなにベイト国は大変なんでしょうか。やはり外国はだいぶ勝手が違うんでしょうね。ヴィンセント様に着いていかないといけないですし。
「マリンは一生懸命ですね」
ナルドさんがフッと笑って私の頭を撫でました。小さい子みたいな扱いですけど、まぁ良しとしましょう。
「マリンがそんなに事務仕事が好きとは知りませんでした。上司失格ですね」
「はぁ?」
え?ベイトって事務仕事が多いの?
「明日からの異動で良いですか?」
「明日…ですか?」
「はい。一応はソーヴェ様に聞いてみてからですね。荷物はここに運んでください」
「ここ?」
「ここですよ。私の隣に机を運んでくださいね。…あれ?執務室付きの事務がやりたいんじゃなかったんですか?」
「はい?…ナルドさん、ベイトに行かれるんじゃ?」
「え…?何の話ですか?ベイト?行くのはヴィンセント様とパロマですよ」
「じゃあ、ナルドさんは…」
「私ですか?ヴィンセント様の公主補佐の仕事がなぜか私に降りかかってきたので、完全に執務室付きにされてしまったんですよ。本来、殆ど公主の仕事なのにおかしいですよね」
「…執務室…」
「肝心なところはソーヴェ様を捕まえて、判を押していただかないといけないので、マリンが手伝ってくれるのは助かります。寝室に逃げられたら、私では追いかけられませんからね」
「…はは…。そうですね。ガンバリマス」
やられたっ!!
パロマ~!
騙したわねっ!!
ナルドさん、出国しないじゃないの~!
ほっとして嬉しいのか、気が緩んだのか私はナゼか、ジンワリと涙が出てきてしまいました。
執務室をノックすると
「はい」
聞き慣れた無愛想な短い返事がありました。
「失礼します」
扉を開け、ワゴンを引っ張って入るとナルドさんが書類の山に囲まれて一心不乱にペンを走らせていました。
「マリンですか。何か?」
「あの~、食事もとられていないと聞きましたので軽食をお持ちしました」
「そういえば…。お腹が空きましたね。ありがとうございます。せっかくなのでいただきます」
疲れた顔でナルドさんはペンを置きました。
私はお茶を淹れ、書類を避けてスペースをつくると厨房に準備されていた特性麺の入った海鮮スープと、カルゾのブランドポークと野菜を挟んだサンドイッチを並べました。
軽食というより、がっちりお昼ご飯です。
「懐かしいですね、この麺。昔、よく食べてました」
「私もです。カルゾのアカデミーでお昼に食べるのが楽しみでした」
「あ~、あれ、ちょっと冷めてるんだけど、またそれが美味しいんですよね」
さっきまで疲れきってた顔をしていたナルドさんが、嬉しそうな表情で麺をすすりました。
パロマに押されて厨房から運んできたんですが、つくづく、食べ物の力って絶大だなぁと思いました。
やはり、人間は食べることが基本ですよね。
「このサンドイッチも、お願いして夜食によく作ってもらいました。マリンが料理長に頼んでくださったのですか?」
「そうなんですね…」
パロマのことだから、食べ物の好みまでリサーチ済だとは思うけど、本当にちょっと怖いわ。
「実はパロマに頼まれて」
「あぁ、彼女ですか。彼女なら裏メニューを知っていても納得です」
ナルドさんはサンドイッチ片手に頷きました。
「皆さんがベイトに行ってしまわれると寂しくなります…」
「そうですね、騒ぎを起こされる方が居なくなるので、ここは静かになると思いますよ。パロマも急に出国申請するというので、仕事が増えて大変でした。まぁ、ソーヴェ様の為さることもいつも突然なので慣れてはいますが」
「そういえばナルドさんの席にランブロさんという方が今朝、みえてましたわ。突然なのでビックリしました」
「あぁ、彼は先月の本国トーナメントの優勝者ですよ。急遽、ソーヴェ様が呼ばれたらしいです。警備の方が向いているかもしれませんが、意外に器用そうなので覚えてしまえば何とかなるかもしれませんね。マリン、すみませんが色々教えてあげて下さい」
優しく、ナルドさんはふんわり微笑みました。
今まで無表情で滅多に笑わない人物の微笑みは反則です。心臓がバクバクします。
「イヤです。私…ナルドさんがいいです」
「えっ…、マリン?」
私は手に持っていたティーカップを机に置いて立ち上がりました。
何だか、身体が熱いです。
海鮮スープの香辛料でしょうか?
ポカポカするような、カーッとするような?
立ち上がって、フラフラと向かい側に座るナルドさんの横に座りました。
「行ってしまわれるんですよね?」
「マリン!どうしたんですか?近いです…」
引き気味になる、ナルドさん。
ほんのり、顔が赤いのはやはり香辛料のせいでしょうか。
スープ、そんなに辛くなかったんですけど。
「あんまり近づかれると…、その…。暑いですから」
「今朝、ランブロさんがナルドさんの席に座っているのを見て、凄く寂しかったんです、私」
「え…」
「私もナルドさんと一緒に一緒について行きたいですけど、ダメですか?」
何言ってるんだろう。私。
熱に浮かされるように、口走っていました。
告白?しちゃったことになるのかしら…。
「いいですよ、ソーヴェ様にお伺いしてみましょう」
あっさり、ナルドさんはオーケーしてくれました。
「え…、それじゃあ」
「私もマリンが居てくれると助かりますし」
「…ナルドさん…。私」
「それにしても、貴女も酔狂な人ですね。事務室勤めよりハードになりますけど?」
「それは、大丈夫です。がんばります」
そんなにベイト国は大変なんでしょうか。やはり外国はだいぶ勝手が違うんでしょうね。ヴィンセント様に着いていかないといけないですし。
「マリンは一生懸命ですね」
ナルドさんがフッと笑って私の頭を撫でました。小さい子みたいな扱いですけど、まぁ良しとしましょう。
「マリンがそんなに事務仕事が好きとは知りませんでした。上司失格ですね」
「はぁ?」
え?ベイトって事務仕事が多いの?
「明日からの異動で良いですか?」
「明日…ですか?」
「はい。一応はソーヴェ様に聞いてみてからですね。荷物はここに運んでください」
「ここ?」
「ここですよ。私の隣に机を運んでくださいね。…あれ?執務室付きの事務がやりたいんじゃなかったんですか?」
「はい?…ナルドさん、ベイトに行かれるんじゃ?」
「え…?何の話ですか?ベイト?行くのはヴィンセント様とパロマですよ」
「じゃあ、ナルドさんは…」
「私ですか?ヴィンセント様の公主補佐の仕事がなぜか私に降りかかってきたので、完全に執務室付きにされてしまったんですよ。本来、殆ど公主の仕事なのにおかしいですよね」
「…執務室…」
「肝心なところはソーヴェ様を捕まえて、判を押していただかないといけないので、マリンが手伝ってくれるのは助かります。寝室に逃げられたら、私では追いかけられませんからね」
「…はは…。そうですね。ガンバリマス」
やられたっ!!
パロマ~!
騙したわねっ!!
ナルドさん、出国しないじゃないの~!
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