アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

文字の大きさ
上 下
43 / 150
第一部

第34-7話 真紅の月!

しおりを挟む
(「結局、私これから三年も生きたのよね……あの医者の見立てが間違っていたのか、私の生命力が強かったのか。
 タウラージの気合いで子どもあなたも無事産むことができたわ」
「はぁ……」)

 当時の思い出に浸っていたのか、真っ赤になっているサリアさん。

 普段とは別人のような若き日のハゲ狸の姿に私まで照れてしまった。


 なんだよ、やるじゃんか。アイツ……ハゲ狸のクセに、ちょっと絆されちゃったじゃないの。


 (「あなたが……マルサネが生まれる時なんだけどね。全く神なんて信じないタウラージが、地元の安産の神さまに願かけしたのよ。無事に子どもが生まれたら、お前らの事を信じて大事にしてやるって。今でも有言実行してるのが真面目な彼らしいわ……」
「神さま?」
「今でも、玄関やゲンメの庭に置かれてるんじゃなくて?」
「え、あの猿……?」
「ふふふ。そうよ、可愛いでしょ?服も沢山作ってもらって貴女に着せたの。可愛かったわよ」)

 あれ、サリアさんの趣味だったんだ。おかげでマルサネはずっと「猿姫」って言われてましたよ、お母様……?


(「ねぇ、マルサネ。いや、リツコの方が貴女はしっくりくるかしらね。

 聞いてくれる?

 命は尽きて、肉体は滅んでも人の記憶だけは消えないの。永遠に私は、あなたたちの中で生き続ける……。

 私は供養も涙も望まないわ。
 ただ、記憶しててほしいの。

 命は形をかえて、連綿と受け継がれるものだから。

 私の魂は娘のマルサネの中に。そして、私の夫の記憶の中へ。

 リツコ、貴女の夫の魂が貴女の子どもたちの中に受け継がれているように。

 如何なる、どんな死も次なる命の礎になるわ。この世の中で、無意味な命などは一つもないの。

 ね、リツコ。 

 私はここで生きていたの。それなりに幸せだったわ。

 お願い。

 マルサネと共に、私を覚えていてね……。

 マルサネは私の可愛い娘……私の何よりも大切な……宝物。幸せになってほしいの。

 貴女と一緒に
 
 愛しているわ……)」 

 サリアさんの顔に言葉では言い尽くせないほどの愛しみが浮かび、まるで教会の聖女像をみているかのようだった。

 サリアさんは真っ赤な月に向けて手を広げ、宙にフワリと浮かび上がる。


 (「私は愛していたわ。夫を、娘を。この国を…… そして、ずっと愛しているの」)

(「 どうか忘れないで。私を覚えていてね……」)

 Remember me……忘れないで。

 いつかしかクラシックなメロディが私の耳に蘇る。

 私は、目を瞑るとハミングをはじめた。
 サリアさんに届けるために。

 
 今夜、真紅の月の向こうからやってきた死者たちへ捧げる鎮魂歌。

 繊細なメロディをバックに「ブラッディムーン」が地平線に沈む。


 暁の夜明けとともに、サラサラと満足そうな微笑みを浮かべたサリアさんの姿は崩れていった。

§§§

 私は気がつくと朝日を浴びて、裸足でバルコニーに立ち尽くしていた。

「サリアさん、私……マルサネを貴女にかえさないといけないわね……」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

処理中です...