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第一部
第34-7話 真紅の月!
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(「結局、私これから三年も生きたのよね……あの医者の見立てが間違っていたのか、私の生命力が強かったのか。
タウラージの気合いで子どもも無事産むことができたわ」
「はぁ……」)
当時の思い出に浸っていたのか、真っ赤になっているサリアさん。
普段とは別人のような若き日のハゲ狸の姿に私まで照れてしまった。
なんだよ、やるじゃんか。アイツ……ハゲ狸のクセに、ちょっと絆されちゃったじゃないの。
(「あなたが……マルサネが生まれる時なんだけどね。全く神なんて信じないタウラージが、地元の安産の神さまに願かけしたのよ。無事に子どもが生まれたら、お前らの事を信じて大事にしてやるって。今でも有言実行してるのが真面目な彼らしいわ……」
「神さま?」
「今でも、玄関やゲンメの庭に置かれてるんじゃなくて?」
「え、あの猿……?」
「ふふふ。そうよ、可愛いでしょ?服も沢山作ってもらって貴女に着せたの。可愛かったわよ」)
あれ、サリアさんの趣味だったんだ。おかげでマルサネはずっと「猿姫」って言われてましたよ、お母様……?
(「ねぇ、マルサネ。いや、リツコの方が貴女はしっくりくるかしらね。
聞いてくれる?
命は尽きて、肉体は滅んでも人の記憶だけは消えないの。永遠に私は、あなたたちの中で生き続ける……。
私は供養も涙も望まないわ。
ただ、記憶しててほしいの。
命は形をかえて、連綿と受け継がれるものだから。
私の魂は娘のマルサネの中に。そして、私の夫の記憶の中へ。
リツコ、貴女の夫の魂が貴女の子どもたちの中に受け継がれているように。
如何なる、どんな死も次なる命の礎になるわ。この世の中で、無意味な命などは一つもないの。
ね、リツコ。
私はここで生きていたの。それなりに幸せだったわ。
お願い。
マルサネと共に、私を覚えていてね……。
マルサネは私の可愛い娘……私の何よりも大切な……宝物。幸せになってほしいの。
貴女と一緒に。
愛しているわ……)」
サリアさんの顔に言葉では言い尽くせないほどの愛しみが浮かび、まるで教会の聖女像をみているかのようだった。
サリアさんは真っ赤な月に向けて手を広げ、宙にフワリと浮かび上がる。
(「私は愛していたわ。夫を、娘を。この国を…… そして、ずっと愛しているの」)
(「 どうか忘れないで。私を覚えていてね……」)
Remember me……忘れないで。
いつかしかクラシックなメロディが私の耳に蘇る。
私は、目を瞑るとハミングをはじめた。
サリアさんに届けるために。
今夜、真紅の月の向こうからやってきた死者たちへ捧げる鎮魂歌。
繊細なメロディをバックに「ブラッディムーン」が地平線に沈む。
暁の夜明けとともに、サラサラと満足そうな微笑みを浮かべたサリアさんの姿は崩れていった。
§§§
私は気がつくと朝日を浴びて、裸足でバルコニーに立ち尽くしていた。
「サリアさん、私……マルサネを貴女にかえさないといけないわね……」
タウラージの気合いで子どもも無事産むことができたわ」
「はぁ……」)
当時の思い出に浸っていたのか、真っ赤になっているサリアさん。
普段とは別人のような若き日のハゲ狸の姿に私まで照れてしまった。
なんだよ、やるじゃんか。アイツ……ハゲ狸のクセに、ちょっと絆されちゃったじゃないの。
(「あなたが……マルサネが生まれる時なんだけどね。全く神なんて信じないタウラージが、地元の安産の神さまに願かけしたのよ。無事に子どもが生まれたら、お前らの事を信じて大事にしてやるって。今でも有言実行してるのが真面目な彼らしいわ……」
「神さま?」
「今でも、玄関やゲンメの庭に置かれてるんじゃなくて?」
「え、あの猿……?」
「ふふふ。そうよ、可愛いでしょ?服も沢山作ってもらって貴女に着せたの。可愛かったわよ」)
あれ、サリアさんの趣味だったんだ。おかげでマルサネはずっと「猿姫」って言われてましたよ、お母様……?
(「ねぇ、マルサネ。いや、リツコの方が貴女はしっくりくるかしらね。
聞いてくれる?
命は尽きて、肉体は滅んでも人の記憶だけは消えないの。永遠に私は、あなたたちの中で生き続ける……。
私は供養も涙も望まないわ。
ただ、記憶しててほしいの。
命は形をかえて、連綿と受け継がれるものだから。
私の魂は娘のマルサネの中に。そして、私の夫の記憶の中へ。
リツコ、貴女の夫の魂が貴女の子どもたちの中に受け継がれているように。
如何なる、どんな死も次なる命の礎になるわ。この世の中で、無意味な命などは一つもないの。
ね、リツコ。
私はここで生きていたの。それなりに幸せだったわ。
お願い。
マルサネと共に、私を覚えていてね……。
マルサネは私の可愛い娘……私の何よりも大切な……宝物。幸せになってほしいの。
貴女と一緒に。
愛しているわ……)」
サリアさんの顔に言葉では言い尽くせないほどの愛しみが浮かび、まるで教会の聖女像をみているかのようだった。
サリアさんは真っ赤な月に向けて手を広げ、宙にフワリと浮かび上がる。
(「私は愛していたわ。夫を、娘を。この国を…… そして、ずっと愛しているの」)
(「 どうか忘れないで。私を覚えていてね……」)
Remember me……忘れないで。
いつかしかクラシックなメロディが私の耳に蘇る。
私は、目を瞑るとハミングをはじめた。
サリアさんに届けるために。
今夜、真紅の月の向こうからやってきた死者たちへ捧げる鎮魂歌。
繊細なメロディをバックに「ブラッディムーン」が地平線に沈む。
暁の夜明けとともに、サラサラと満足そうな微笑みを浮かべたサリアさんの姿は崩れていった。
§§§
私は気がつくと朝日を浴びて、裸足でバルコニーに立ち尽くしていた。
「サリアさん、私……マルサネを貴女にかえさないといけないわね……」
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