37 / 150
第一部
第34-1話 真紅の月!☆
しおりを挟む
「……マル……ネ、……ルサ……ネ?」
誰かが呼んでいる。
遠い……遠いところから私に呼びかけてくる声。
「貴女は誰?」
ベッドから身を起こすと、ベットリと額に張りつく髪の毛。
凄い寝汗だ。気持ち悪い……。
「おい……で?」
「……こっちよ……」
女の声?
聞き覚えのない声だ。透明感のある壊れそうな、か細い声。
「おいで、マルサネ」
今度はハッキリ聞こえた。
私を呼んでいる?
今の時刻はまだ深夜。部屋の中は灯りが落とされて、ほぼ真っ暗。
窓に目をやると、カーテンの隙間からぼんやりとした淡い光がさしこんでいるのが見えた。
月光?
そうだ、今夜はラズベリー・ムーン。
赤い満月が夜空に輝く日。
片思い乙女が願いをこめて祈ると、甘酸っぱい初恋が実ると言われているらしい。
そんな乙女チックな話も、0時を境に赤い満月は違う顔を見せる。
もう一つの顔は、黄泉の国から血色の月を扉にして、死者が現世にやってくるという忌むべきブラッディ・ムーン。
だから、ルーチェに今夜は扉を開けて寝てはいけない、と言われてたんだった。
でもさすがに残暑厳しいこの時期に、扉を全て閉めきって寝ると寝苦しい。
声に誘われるように、バルコニーに通じる両開きの大きな扉を開ける。
ひゅおぅぅ~。
バルコニーに出ると風が顔に当たり、汗ばんだ肌には気持ちいい。
私は思わず、目を細めた。
「本当に真っ赤……」
南の空には、少し欠けてはいるが、まるで血を連想させるような色鮮やかな赤い月。スーパームーン後なので、迫ってくるような迫力だ。
まさにブラッディ・ムーンという名の通り、見ているだけで漠然とした不吉な予感で心がざわつく。
形にならない不安にとらわれて、あんなに暑かった身体が震える。
「気持ち悪い……」
でも、視線を外すことはできない。
その妖しい月の光に魅せられたように、月を見上げて立ち尽くしていると、突如、生温い風がビューッと勢い良く吹きつけてきた。
「……う、ぷっ……」
思わず両腕を顔前でクロスさせ、風をガードする。
「……よく来た……わね……」
今度はよりハッキリと目の前でさっきの声がした。
腕を降ろすと、空中に薄ぼんやりとした赤い光に包まれて、線の細い少女が浮かんでいるのが見える。
白いドレスに包まれ、どちらかと言えば痩せ型のすらりとした、黒髪の少女。
洋装だが、どことなく日本人形を連想させるような見事な黒髪。整った顔立ちに表情はなく、まるで能面のような印象を受けた。
「私はサリア。貴女に見せたいものがあるの……」
サリア……?
さっき、ハゲ狸からマルサネが三歳の時に亡くなった、って聞いたばかりのマルサネのお母さん?
死者の国から、マルサネに会いに来たのかしら?
でも、私は……。
「おいで」
サリアが空中に手招きする。
「私はマルサネじゃない……」
拳を握りしめ、絞り出すように私は呟いた。
「構わないわ。ではリツコ、と呼べばいいかしら」
手を差し伸べるサリア。
私はリツコ、と呼ばれて思わず、食い入るようにサリアを見つめた。
「私を知ってるの?……私も、死者だから?」
そう。
私もサリアと同類。
過去の亡霊みたいなものだろうか。
「もちろん、知ってるわ。そして貴女は死者ではなくてよ。今はね」
「今は?」
「もう時が移るわ。いいから来て……」
気がつくと、フワッと身体が浮いていた。
いや、浮いたわけじゃない。
正確にはバルコニーに立つマルサネの姿を空中から見下ろしていた。
「……うわぁっ!!」
幽体離脱?
マルサネから出たなら、これが正しい姿なの?!
私はこれから、サリアに死者の国に連れていかれるのかしら?
それにしても、ピー⚪ーパンみたいね。小さい頃から空を飛びたいと思ってたから念願が叶ったわ~。
って……言ってる場合?!
私、死んじゃってるけどね……!
いや、マルサネ的には死んでないのか?どっちだ~い。
私はプチパニック状態に陥り、溺れた人のように空中で両手をグルグル振り回した。
「掴まって」
気がつくとサリアに両手をとられ、視界が暗転した。
誰かが呼んでいる。
遠い……遠いところから私に呼びかけてくる声。
「貴女は誰?」
ベッドから身を起こすと、ベットリと額に張りつく髪の毛。
凄い寝汗だ。気持ち悪い……。
「おい……で?」
「……こっちよ……」
女の声?
聞き覚えのない声だ。透明感のある壊れそうな、か細い声。
「おいで、マルサネ」
今度はハッキリ聞こえた。
私を呼んでいる?
今の時刻はまだ深夜。部屋の中は灯りが落とされて、ほぼ真っ暗。
窓に目をやると、カーテンの隙間からぼんやりとした淡い光がさしこんでいるのが見えた。
月光?
そうだ、今夜はラズベリー・ムーン。
赤い満月が夜空に輝く日。
片思い乙女が願いをこめて祈ると、甘酸っぱい初恋が実ると言われているらしい。
そんな乙女チックな話も、0時を境に赤い満月は違う顔を見せる。
もう一つの顔は、黄泉の国から血色の月を扉にして、死者が現世にやってくるという忌むべきブラッディ・ムーン。
だから、ルーチェに今夜は扉を開けて寝てはいけない、と言われてたんだった。
でもさすがに残暑厳しいこの時期に、扉を全て閉めきって寝ると寝苦しい。
声に誘われるように、バルコニーに通じる両開きの大きな扉を開ける。
ひゅおぅぅ~。
バルコニーに出ると風が顔に当たり、汗ばんだ肌には気持ちいい。
私は思わず、目を細めた。
「本当に真っ赤……」
南の空には、少し欠けてはいるが、まるで血を連想させるような色鮮やかな赤い月。スーパームーン後なので、迫ってくるような迫力だ。
まさにブラッディ・ムーンという名の通り、見ているだけで漠然とした不吉な予感で心がざわつく。
形にならない不安にとらわれて、あんなに暑かった身体が震える。
「気持ち悪い……」
でも、視線を外すことはできない。
その妖しい月の光に魅せられたように、月を見上げて立ち尽くしていると、突如、生温い風がビューッと勢い良く吹きつけてきた。
「……う、ぷっ……」
思わず両腕を顔前でクロスさせ、風をガードする。
「……よく来た……わね……」
今度はよりハッキリと目の前でさっきの声がした。
腕を降ろすと、空中に薄ぼんやりとした赤い光に包まれて、線の細い少女が浮かんでいるのが見える。
白いドレスに包まれ、どちらかと言えば痩せ型のすらりとした、黒髪の少女。
洋装だが、どことなく日本人形を連想させるような見事な黒髪。整った顔立ちに表情はなく、まるで能面のような印象を受けた。
「私はサリア。貴女に見せたいものがあるの……」
サリア……?
さっき、ハゲ狸からマルサネが三歳の時に亡くなった、って聞いたばかりのマルサネのお母さん?
死者の国から、マルサネに会いに来たのかしら?
でも、私は……。
「おいで」
サリアが空中に手招きする。
「私はマルサネじゃない……」
拳を握りしめ、絞り出すように私は呟いた。
「構わないわ。ではリツコ、と呼べばいいかしら」
手を差し伸べるサリア。
私はリツコ、と呼ばれて思わず、食い入るようにサリアを見つめた。
「私を知ってるの?……私も、死者だから?」
そう。
私もサリアと同類。
過去の亡霊みたいなものだろうか。
「もちろん、知ってるわ。そして貴女は死者ではなくてよ。今はね」
「今は?」
「もう時が移るわ。いいから来て……」
気がつくと、フワッと身体が浮いていた。
いや、浮いたわけじゃない。
正確にはバルコニーに立つマルサネの姿を空中から見下ろしていた。
「……うわぁっ!!」
幽体離脱?
マルサネから出たなら、これが正しい姿なの?!
私はこれから、サリアに死者の国に連れていかれるのかしら?
それにしても、ピー⚪ーパンみたいね。小さい頃から空を飛びたいと思ってたから念願が叶ったわ~。
って……言ってる場合?!
私、死んじゃってるけどね……!
いや、マルサネ的には死んでないのか?どっちだ~い。
私はプチパニック状態に陥り、溺れた人のように空中で両手をグルグル振り回した。
「掴まって」
気がつくとサリアに両手をとられ、視界が暗転した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる
鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳――
それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。
公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。
だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、
王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。
政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。
紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが――
魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、
まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。
「……私が女王? 冗談じゃないわ」
回避策として動いたはずが、
誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。
しかも彼は、
幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた――
年を取らぬ姿のままで。
永遠に老いない少女と、
彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。
王妃になどなる気はない。
けれど、逃げ続けることももうできない。
これは、
歴史の影に生きてきた少女が、
はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。
ざまぁも陰謀も押し付けない。
それでも――
この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる