73 / 150
番外編 〈第25.5話~〉
カルゾメイドの溜息!〈sideナルド〉part6
しおりを挟む
「ぅ……つっ……痛って……」
痛み止めが切れてきたようで、息をすると響くようになってきました。
「大丈夫ですか?ナルドさん……」
心配そうに駆けつけてきたのは部下のマリン。
「やっぱり、今日はもうお休みされた方が。肋骨折れてるんですから」
近くのソファーに座るように促され、私は倒れるように沈みこみました。あまりの痛みに脂汗がじっとりと浮かんでくるのが自分でもわかります。
「はい、どうぞ」
タイミングよく、水の入ったコップと痛み止めの錠剤が私の目の前に差し出されました。
「すまない、マリン」
遠慮なく受け取って性急に身体に痛み止めを流し込みました。
「は……ぁ……」
これが効いてきたら動けるようになるでしょう。もう、すこしの辛抱です。
「効くといいですね?」
近頃は露骨に若い女の子に避けられていたのに、マリンは平気なようです。
先日もソーヴェ様の命令とはいえ、私を支えて医務室まで運んでくれたのは彼女でした。
しかし、マリンってこんな、甲斐甲斐しく人の世話を焼くタイプだったんですねぇ。
あんまり人の世話とか興味のない、ドライなタイプかと思ってたんですが……。
こないだ、裏庭で例の箱の処分をしているところを見られてから、やたらと私に構ってくるような気もします。
あの時は隠し通せたと思いますが、結局机に置かれたモノを見られちゃってますから……。
若い子にありがちな興味本位でしょうか。
あの箱の中身が気になるとしたら、あんまりいい趣味とは言えませんね。
……おや?
なぜか今も私をガン見してますけど、どうしたのでしょう。
「マリン、何か私の顔についてます?」
私の言葉にさっと顔を赤らめるマリン。
「?」
「あの~、ナルドさん……」
「……はい?」
「最近、無くしたものとかありませんか?」
「無くしたものですか?」
財布とかを想定して聞かれているのでしょうか?
鞄も鍵も……特に思い当たるものは、ありません。
「いや、特に」
暫く考えてから返答をしました。
「大事なモノ、とか。人に見られたくないものとか?」
「人に見られたくないもの、ですか……」
そう言われると、ついあの箱を思い浮かべてしまいますが、アレは見られたくなくても見られちゃってますからねぇ……。
「実は私、お渡したいものが……」
「マリン!交代の時間!」
マリンの同僚のパロマがバタバタとかけ込んできました。
「あら、お邪魔だったかしら?」
パロマは私とマリンの顔を交互に見て、ニヤニヤしています。
「別に邪魔なんかじゃないわよ……!」
マリンは慌てて事務室を出ていきました。
「どうしちゃったんでしょうか。マリン……」
「執事長、気づきません?」
からかうような口調でパロマが近寄ってきました。
「は?何がですか?」
「恋する乙女の視線ですよ」
「はぁ?全くそんな感じは私は思い当たりませんが……」
「じゃあ、最近やたらとモジモジ、マリンに話しかけられてませんでした?執事長はあからさまに逃げておいでだったから、わかってたんじゃないかと思ってましたけど?」
いや、それは……。
あの箱の中身を知られた後に、裏庭で何をしてたのか?と追及されると嫌だったからですが……。
全く、メイドの若い子たちはコイバナばっかりですね。
こないだまで、筋トレメニューが一番の話題だったカルゾ邸が、最近はヴィンセント様もソーヴェ様もそんなことばかりに振り回されてる気がします。
「そんなに私、あからさまに逃げてました?」
「それは分かりやすく」
「……」
「そんなんだから、執事長はヴィンセント様にも遊ばれてしまうんですよ」
「は?」
「大体、あの箱の中身も執事長のものじゃないですよね?」
「えっ!?」
さすが、頭脳戦が得意なカルゾが誇る天才娘パロマというべきか。気づいていたなら、止めてくれ~!
「パロマ。気づいていたなら何故……?」
結構、私を監禁変態執事呼ばわりして喜んでましたよね?
「すみません、面白くてつい」
パロマがペロッと舌を出す。
「私は何一つ面白くありませんよっ、……痛っ……」
興奮して大声を出したら、胸に響いてしまいました。
「大丈夫ですか?」
「ご心配なく。痛み止めが大分効いてきましたから……」
「今回のケガといい、案外執事長って無茶されますよねぇ」
「ケガとは?」
「その傷ですよ。それ、わざと正面から受けたものですね?何故です?
執事長なら、ソーヴェ様の拳も蹴りもギリギリ避けられたんじゃないですか?少なくとも逃げることはできたと思いますけど」
「……天才にはかないませんね……」
小娘に見抜かれてしまいました。
私がつまらない、ヴィンセント様への対抗心?もしくは武術家としてのプライドで、自分でもソーヴェ様の攻撃を真正面から受け止めきれるのではないか、と判断を誤ったことを。
結果、まだまだ鍛錬も足りず、判断も甘かったことを露呈しただけ、というあまり部下には知られたくない結果になってしまったのですが……。
「あまり、弱い上司をいたぶらないで貰えます?」
「弱いなんてとんでもない。今の手負いの状態でも、この邸でソーヴェ様とヴィンセント様以外に勝てる者はいないと思いますよ」
「買い被りじゃないといいですが」
自嘲する私。
「私の分析力を疑います?」
「いや、信頼していますよ。貴女の分析力はこの国で一番だと思っています」
パロマは本人の希望でメイド兼務になっていますが、軍師としてだけでカルゾ軍に就職しても充分通用するでしょう。
カルゾ邸の事務室でコマゴマとした庶務的なことをさせるのは勿体ない人材です。
疲れていた私は乱れた髪をかきあげつつ、ソファーから身体を起こし、ストレートに思ったまま彼女に言葉にして伝えました。
こうやって起き上がってみると、だいぶ今日一日、身体はムリをしたようですね。う~ん、眼も潤んできました。微熱でしょうか……。
(「はぁ~。マリンが落ちた正体はこれかぁ……」)
何故かマリン同様、パロマは私を見つめて顔を少し赤らめて何かを呟きました。
「執事長、本当にだいぶお疲れみたいですよ……?とりあえず、あとの処理はは引き受けましたので早くお帰り下さい」
パロマは溜め息を一つ、ついたかと思うと私から日報を取り上げ、グイグイと事務室から追い出してきました。
一体、カルゾのメイドたちに何が起こっているのでしょうか。
私は痛む肋骨を擦りつつ、明日の舞踏会のお供に備えて早々にベットで休むことにいたしました。朝にはヴィンセント様が領地からお戻りになられるハズです。
久しぶりに明朝まで、ゆっくりさせていただきます。
それでは、おやすみなさい。
痛み止めが切れてきたようで、息をすると響くようになってきました。
「大丈夫ですか?ナルドさん……」
心配そうに駆けつけてきたのは部下のマリン。
「やっぱり、今日はもうお休みされた方が。肋骨折れてるんですから」
近くのソファーに座るように促され、私は倒れるように沈みこみました。あまりの痛みに脂汗がじっとりと浮かんでくるのが自分でもわかります。
「はい、どうぞ」
タイミングよく、水の入ったコップと痛み止めの錠剤が私の目の前に差し出されました。
「すまない、マリン」
遠慮なく受け取って性急に身体に痛み止めを流し込みました。
「は……ぁ……」
これが効いてきたら動けるようになるでしょう。もう、すこしの辛抱です。
「効くといいですね?」
近頃は露骨に若い女の子に避けられていたのに、マリンは平気なようです。
先日もソーヴェ様の命令とはいえ、私を支えて医務室まで運んでくれたのは彼女でした。
しかし、マリンってこんな、甲斐甲斐しく人の世話を焼くタイプだったんですねぇ。
あんまり人の世話とか興味のない、ドライなタイプかと思ってたんですが……。
こないだ、裏庭で例の箱の処分をしているところを見られてから、やたらと私に構ってくるような気もします。
あの時は隠し通せたと思いますが、結局机に置かれたモノを見られちゃってますから……。
若い子にありがちな興味本位でしょうか。
あの箱の中身が気になるとしたら、あんまりいい趣味とは言えませんね。
……おや?
なぜか今も私をガン見してますけど、どうしたのでしょう。
「マリン、何か私の顔についてます?」
私の言葉にさっと顔を赤らめるマリン。
「?」
「あの~、ナルドさん……」
「……はい?」
「最近、無くしたものとかありませんか?」
「無くしたものですか?」
財布とかを想定して聞かれているのでしょうか?
鞄も鍵も……特に思い当たるものは、ありません。
「いや、特に」
暫く考えてから返答をしました。
「大事なモノ、とか。人に見られたくないものとか?」
「人に見られたくないもの、ですか……」
そう言われると、ついあの箱を思い浮かべてしまいますが、アレは見られたくなくても見られちゃってますからねぇ……。
「実は私、お渡したいものが……」
「マリン!交代の時間!」
マリンの同僚のパロマがバタバタとかけ込んできました。
「あら、お邪魔だったかしら?」
パロマは私とマリンの顔を交互に見て、ニヤニヤしています。
「別に邪魔なんかじゃないわよ……!」
マリンは慌てて事務室を出ていきました。
「どうしちゃったんでしょうか。マリン……」
「執事長、気づきません?」
からかうような口調でパロマが近寄ってきました。
「は?何がですか?」
「恋する乙女の視線ですよ」
「はぁ?全くそんな感じは私は思い当たりませんが……」
「じゃあ、最近やたらとモジモジ、マリンに話しかけられてませんでした?執事長はあからさまに逃げておいでだったから、わかってたんじゃないかと思ってましたけど?」
いや、それは……。
あの箱の中身を知られた後に、裏庭で何をしてたのか?と追及されると嫌だったからですが……。
全く、メイドの若い子たちはコイバナばっかりですね。
こないだまで、筋トレメニューが一番の話題だったカルゾ邸が、最近はヴィンセント様もソーヴェ様もそんなことばかりに振り回されてる気がします。
「そんなに私、あからさまに逃げてました?」
「それは分かりやすく」
「……」
「そんなんだから、執事長はヴィンセント様にも遊ばれてしまうんですよ」
「は?」
「大体、あの箱の中身も執事長のものじゃないですよね?」
「えっ!?」
さすが、頭脳戦が得意なカルゾが誇る天才娘パロマというべきか。気づいていたなら、止めてくれ~!
「パロマ。気づいていたなら何故……?」
結構、私を監禁変態執事呼ばわりして喜んでましたよね?
「すみません、面白くてつい」
パロマがペロッと舌を出す。
「私は何一つ面白くありませんよっ、……痛っ……」
興奮して大声を出したら、胸に響いてしまいました。
「大丈夫ですか?」
「ご心配なく。痛み止めが大分効いてきましたから……」
「今回のケガといい、案外執事長って無茶されますよねぇ」
「ケガとは?」
「その傷ですよ。それ、わざと正面から受けたものですね?何故です?
執事長なら、ソーヴェ様の拳も蹴りもギリギリ避けられたんじゃないですか?少なくとも逃げることはできたと思いますけど」
「……天才にはかないませんね……」
小娘に見抜かれてしまいました。
私がつまらない、ヴィンセント様への対抗心?もしくは武術家としてのプライドで、自分でもソーヴェ様の攻撃を真正面から受け止めきれるのではないか、と判断を誤ったことを。
結果、まだまだ鍛錬も足りず、判断も甘かったことを露呈しただけ、というあまり部下には知られたくない結果になってしまったのですが……。
「あまり、弱い上司をいたぶらないで貰えます?」
「弱いなんてとんでもない。今の手負いの状態でも、この邸でソーヴェ様とヴィンセント様以外に勝てる者はいないと思いますよ」
「買い被りじゃないといいですが」
自嘲する私。
「私の分析力を疑います?」
「いや、信頼していますよ。貴女の分析力はこの国で一番だと思っています」
パロマは本人の希望でメイド兼務になっていますが、軍師としてだけでカルゾ軍に就職しても充分通用するでしょう。
カルゾ邸の事務室でコマゴマとした庶務的なことをさせるのは勿体ない人材です。
疲れていた私は乱れた髪をかきあげつつ、ソファーから身体を起こし、ストレートに思ったまま彼女に言葉にして伝えました。
こうやって起き上がってみると、だいぶ今日一日、身体はムリをしたようですね。う~ん、眼も潤んできました。微熱でしょうか……。
(「はぁ~。マリンが落ちた正体はこれかぁ……」)
何故かマリン同様、パロマは私を見つめて顔を少し赤らめて何かを呟きました。
「執事長、本当にだいぶお疲れみたいですよ……?とりあえず、あとの処理はは引き受けましたので早くお帰り下さい」
パロマは溜め息を一つ、ついたかと思うと私から日報を取り上げ、グイグイと事務室から追い出してきました。
一体、カルゾのメイドたちに何が起こっているのでしょうか。
私は痛む肋骨を擦りつつ、明日の舞踏会のお供に備えて早々にベットで休むことにいたしました。朝にはヴィンセント様が領地からお戻りになられるハズです。
久しぶりに明朝まで、ゆっくりさせていただきます。
それでは、おやすみなさい。
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる