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番外編 〈第25.5話~〉
カルゾメイドの溜息!〈sideマリン〉part4
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「え?大公様が朝からおいでに?」
今朝の当直明けの当番は私でした。
「ソーヴェ様、まだ寝てるんだけど、どうしよう……」
目の前で早番のダルバがテンパってます。
今はまだ、やっと日が昇ったばかりの早朝の時間。
昔から仲良しのお二人、ソーヴェ様と大公様は、普段からお忍びでお互いに行き来し合う間柄とはいえ、いくら何でも非常識過ぎる時間だと思いますわ。
「とりあえず、ソーヴェ様起こすしかないんじゃない?」
「え~!こんな早く起こすの?私には無理……」
ソーヴェ様は低血圧でいらっしゃいます。朝は超絶に弱くて、私たちは命懸けの覚悟がないととても近寄れません……。
長い付き合いの大公様ならそんなことはご存知でいらっしゃるでしょうに。
お怨みいたしますわ。
「おはようございます。こんな朝からどうしたんですか?」
私たちがワイワイ廊下で騒いでたせいか、同じく当直明けのナルドさんが顔を覗かせました。
よし、苦情対応係発見!
「おはようございます。先程、大公様がお出でになって、ソーヴェ様に会わせろと」
「え?こんな時間にですか?」
顔を顰めて驚くナルドさん。
驚くのは無理ないと思いますわ。
大公様ってうちの型破りのソーヴェ様より遥かに常識的なお方ですもの。本当に何があったのかしら。
「ソーヴェ様はまだお休みで……どうしたら良いでしょう」
「わかりました。私がお伝えして参りましょう。あなた方は大公様にお茶でもお出しして、お待ちいただいて下さい」
悲壮なお顔で、ソーヴェ様の寝室に向かうナルドさん。
「やったぁ、助かった……」
あからさまにホッとするダルバ。
「そうね、まぁ一応上司ですから。行ってもらわないと」
だって、ソーヴェ様の寝起きの悪さったら本当に半端ないんです。
基本、用事のない時は私たちが起こしに行くことはありませんが、大事な会議などやむを得ない場合はヴィンセント様にお願いをしています。
ヴィンセント様がいらっしゃらない時は、特別手当てをいただいて使用人が起こしに行かざるを得ないこともありますが……。
手当てをいくら頂いても、カルゾ邸内であえて志願してソーヴェ様を起こしに行きたい者は居ないと思いますわ。
命がいくらあっても足りないですもの。
ほら、始まりましたわ。
ドカッ!バキッ!バコバコバコッ!
ソーヴェ様の寝室から何か大型獣が暴れているような音が聞こえてきます。
「あ~、壁抜けたかな?」
「修理、また依頼しないとねぇ」
ダルバが簡単な軽食とお茶の準備をワゴンにのせながら呟いてます。
ドゴッ、バキバキバキッ!!
「あ~あ、ナルドさん、無事かなぁ?」
再び、建物の壁板が割れるような衝撃音が邸内に響き渡りました。
「さぁ。腕一本ぐらいで済むと良いねぇ……」
「あの音からすると、今朝は格闘系モード?ナルドさんなら何とかなるかもね…」
「私、行かなくて良かったぁ。体術系は苦手だもん」
ダルバは両手を振ってお手上げポーズです。
「そうね、ダルバはレイピアがないとね」
「細剣があってもソーヴェ様相手じゃムリ。マリンの方が何とかなるんじゃないの?」
「私も軽業系の体術なら何とかなるかも、だけどソーヴェ様のスピードには負けるし。あの重くて早い蹴りを食らったら、ブロックしきれる自信はないわ」
「あれをかわせるヴィンセント様は流石に母子よねぇ」
ダルバの言葉に大きく頷く私。
カルゾ領はユッカの中でも美人の産地として有名だけど、一番の特色は向武の地であること。
カルゾの子どもたちは幼い頃からみっちりと格闘技や剣術を叩き込まれて育ちます。カルゾでは美しい者より、より強い者が称えられ、戦闘マニアであることが標準装備みたいな感じです。
20年前、ソーヴェ様が現れるまではカルゾ公メンフィ様がユッカの戦士の頂点に君臨してみえました。
ラギネイ王国からやって来たソーヴェ様に瞬殺でカルゾ公主メンフィ様は叩きのめされ、その圧倒的な強さと美しさに魅せられたメンフィ様がソーヴェ様に猛烈なアタックをされ、結婚にまで至られたのは有名な話です。
なので、ここカルゾ邸の使用人採用条件は昔からただ一つ。
「強いこと」ただ、それだけです。
怖いぐらいの実力至上主義。誰でも応募可能で毎年恐ろしく高倍率なのは、採用担当者に勝てば即、採用の分かりやすい条件だからでしょう。
その猛者が集まるカルゾ邸で長年執事をしているナルドさんは、あんな風にみえて実はかなりの使い手です。ヴィンセント様やソーヴェ様は規格外なので、主人達には及ばないにしろ、そこら辺の軍人や将校よりも遥かに手練れの実力者。私たちよりもソーヴェ様からのダメージは少なくて済むと思われます。
寝起きのソーヴェ様は「自分を起こそうとする者」、若しくは「寝ている時に自分に近づく者」を敵と見なして無意識で攻撃されるクセ、というか防衛本能がおありで……。
刺客などには効果覿面だけど、身内はかなり困ってます……今朝のように、ヴィンセント様がいらっしゃらない時は特に。
さて、ナルドさん……ソーヴェ様の部屋、静かになったけど無事かなぁ。
「マリン。私、大公様にお茶をお出ししてくるね」
ダルバが客間へ行くワゴンにサラック茶をセッティングしました。
「私はソーヴェ様見てくるよ」
「ナルド氏の死に水を取ってきてくれぃ」
ダルバが手をあわせて拝みながら、ワゴンを押して行きます。
「縁起でもないわねぇ……」
私は重い足取りでソーヴェ様の寝室に向かいました。
今朝の当直明けの当番は私でした。
「ソーヴェ様、まだ寝てるんだけど、どうしよう……」
目の前で早番のダルバがテンパってます。
今はまだ、やっと日が昇ったばかりの早朝の時間。
昔から仲良しのお二人、ソーヴェ様と大公様は、普段からお忍びでお互いに行き来し合う間柄とはいえ、いくら何でも非常識過ぎる時間だと思いますわ。
「とりあえず、ソーヴェ様起こすしかないんじゃない?」
「え~!こんな早く起こすの?私には無理……」
ソーヴェ様は低血圧でいらっしゃいます。朝は超絶に弱くて、私たちは命懸けの覚悟がないととても近寄れません……。
長い付き合いの大公様ならそんなことはご存知でいらっしゃるでしょうに。
お怨みいたしますわ。
「おはようございます。こんな朝からどうしたんですか?」
私たちがワイワイ廊下で騒いでたせいか、同じく当直明けのナルドさんが顔を覗かせました。
よし、苦情対応係発見!
「おはようございます。先程、大公様がお出でになって、ソーヴェ様に会わせろと」
「え?こんな時間にですか?」
顔を顰めて驚くナルドさん。
驚くのは無理ないと思いますわ。
大公様ってうちの型破りのソーヴェ様より遥かに常識的なお方ですもの。本当に何があったのかしら。
「ソーヴェ様はまだお休みで……どうしたら良いでしょう」
「わかりました。私がお伝えして参りましょう。あなた方は大公様にお茶でもお出しして、お待ちいただいて下さい」
悲壮なお顔で、ソーヴェ様の寝室に向かうナルドさん。
「やったぁ、助かった……」
あからさまにホッとするダルバ。
「そうね、まぁ一応上司ですから。行ってもらわないと」
だって、ソーヴェ様の寝起きの悪さったら本当に半端ないんです。
基本、用事のない時は私たちが起こしに行くことはありませんが、大事な会議などやむを得ない場合はヴィンセント様にお願いをしています。
ヴィンセント様がいらっしゃらない時は、特別手当てをいただいて使用人が起こしに行かざるを得ないこともありますが……。
手当てをいくら頂いても、カルゾ邸内であえて志願してソーヴェ様を起こしに行きたい者は居ないと思いますわ。
命がいくらあっても足りないですもの。
ほら、始まりましたわ。
ドカッ!バキッ!バコバコバコッ!
ソーヴェ様の寝室から何か大型獣が暴れているような音が聞こえてきます。
「あ~、壁抜けたかな?」
「修理、また依頼しないとねぇ」
ダルバが簡単な軽食とお茶の準備をワゴンにのせながら呟いてます。
ドゴッ、バキバキバキッ!!
「あ~あ、ナルドさん、無事かなぁ?」
再び、建物の壁板が割れるような衝撃音が邸内に響き渡りました。
「さぁ。腕一本ぐらいで済むと良いねぇ……」
「あの音からすると、今朝は格闘系モード?ナルドさんなら何とかなるかもね…」
「私、行かなくて良かったぁ。体術系は苦手だもん」
ダルバは両手を振ってお手上げポーズです。
「そうね、ダルバはレイピアがないとね」
「細剣があってもソーヴェ様相手じゃムリ。マリンの方が何とかなるんじゃないの?」
「私も軽業系の体術なら何とかなるかも、だけどソーヴェ様のスピードには負けるし。あの重くて早い蹴りを食らったら、ブロックしきれる自信はないわ」
「あれをかわせるヴィンセント様は流石に母子よねぇ」
ダルバの言葉に大きく頷く私。
カルゾ領はユッカの中でも美人の産地として有名だけど、一番の特色は向武の地であること。
カルゾの子どもたちは幼い頃からみっちりと格闘技や剣術を叩き込まれて育ちます。カルゾでは美しい者より、より強い者が称えられ、戦闘マニアであることが標準装備みたいな感じです。
20年前、ソーヴェ様が現れるまではカルゾ公メンフィ様がユッカの戦士の頂点に君臨してみえました。
ラギネイ王国からやって来たソーヴェ様に瞬殺でカルゾ公主メンフィ様は叩きのめされ、その圧倒的な強さと美しさに魅せられたメンフィ様がソーヴェ様に猛烈なアタックをされ、結婚にまで至られたのは有名な話です。
なので、ここカルゾ邸の使用人採用条件は昔からただ一つ。
「強いこと」ただ、それだけです。
怖いぐらいの実力至上主義。誰でも応募可能で毎年恐ろしく高倍率なのは、採用担当者に勝てば即、採用の分かりやすい条件だからでしょう。
その猛者が集まるカルゾ邸で長年執事をしているナルドさんは、あんな風にみえて実はかなりの使い手です。ヴィンセント様やソーヴェ様は規格外なので、主人達には及ばないにしろ、そこら辺の軍人や将校よりも遥かに手練れの実力者。私たちよりもソーヴェ様からのダメージは少なくて済むと思われます。
寝起きのソーヴェ様は「自分を起こそうとする者」、若しくは「寝ている時に自分に近づく者」を敵と見なして無意識で攻撃されるクセ、というか防衛本能がおありで……。
刺客などには効果覿面だけど、身内はかなり困ってます……今朝のように、ヴィンセント様がいらっしゃらない時は特に。
さて、ナルドさん……ソーヴェ様の部屋、静かになったけど無事かなぁ。
「マリン。私、大公様にお茶をお出ししてくるね」
ダルバが客間へ行くワゴンにサラック茶をセッティングしました。
「私はソーヴェ様見てくるよ」
「ナルド氏の死に水を取ってきてくれぃ」
ダルバが手をあわせて拝みながら、ワゴンを押して行きます。
「縁起でもないわねぇ……」
私は重い足取りでソーヴェ様の寝室に向かいました。
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