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番外編 〈第25.5話~〉

カルゾメイドの溜息!〈side マリン〉part1☆

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 こんにちは。私はマリン・ハーランドと申します。
 毎年希望者殺到、高倍率の採用選考を潜り抜け、ユッカ女子の憧れのメッカ、カルゾ公邸でメイド兼事務補佐をさせていただいて三年たったところです。やっとお仕事には慣れてきました。
 
 年齢不詳の美魔女、主人のソーヴェ様や光輝くヴィンセント様をうっとりと涎を拭きながら眺めつつ、同僚と毎日お仕事がんばってます。


 以前は頻繁に銀の公子、ウィルブラン様がみえていたのですが、何やら現在ウィル様は外国にいらっしゃるようで…。 

 あのお二人の姿が拝めないのは本当にガッカリですわ~。
 すっかりGnet腐女子掲示板も盛り下がっているみたいです。掲示板には、だいぶ私たちも話題を提供して盛り上がってましたのに。淋しい限りです。

 実際のウィル様はヴィンセント様からの面白半分のちょっかいを本当に嫌がっておられたので、カルゾ邸の中では世間が騒いでいたBL的な妖しい場面展開は一切なく、仲の良いご友人として過ごされていました。


 ただ、邪な私たち使用人に勝手に掲示板の妄想ネタにされていた事は、聡いウィル様は気づいておられた様子で時々、サービス的にイチャイチャしてくださることもあり……。

 結果的には、掲示板のヒットから広告をのせているエスト家の商品売り上げを伸ばす、というウィル様の戦略にのせられた面もございますが、サービス精神旺盛なウィル様のおかげで楽しい妄想タイムを過ごさせて頂きましたわ。

 
 だから、日々、主人の観察を欠かさない私達にはわかるんです。

 最近のヴィンセント様が、憂いを秘めた何ともセクシーな表情をされて、ボンヤリ物思いに耽っていらっしゃることが。
 

 多分、あれです。

 恋ですよ、恋。


 恐らく、初恋でいらっしゃいます。
 あんなに女の扱いに慣れた様子なのに、まさかの恋愛童貞なのでしょうか。

 相手の方はユッカの令嬢ではなく、アディジェのスーパーモデル、アルルのようです。同性の私達からみても、うっとりしてしまうほど可愛い、整った小さいお顔、細い手足。抜群のスタイル。文句のつけようのないお相手ですわ。

 どちらの熱烈なファンも納得のカップルと世間的にも大喜び。最近、御成婚はいつ?みたいな特集本もよく売れているようです。 

 まぁ、ウィルブラン様以外なら、妖精のようなアルルぐらいの美貌じゃないと、ヴィンセント様には釣り合わないとは思います。

 本当にお二人のお子が出来たらどんなに美しいことでしょうねぇ。


 そうそう。

 私、先日お二人の仲睦まじい姿を大公宮でお見かけいたしましたの。
 何か大きな会議のある朝で、前日から打ち合わせと称して大公宮のウィル様の所に泊まられた、ヴィンセント様のお着替えを届けた時のことでした。


 あれは完全にヴィンセント様の方がゾッコンですね。
 恥ずかしいのか、真っ赤に可愛らしく頬を染めて抵抗するアルルを強引に抱き上げて、それはまぁ嬉しそうに、呆れ顔のウィル様と連れだって歩いていらっしゃいました。

 先代のカルゾ公メンフィ様も、初めて会った時からソーヴェ様一筋を貫かれたというのは、有名な話ですもの。明らかにお血筋でしょうか。


 珍しくデレデレとした様子のヴィンセント様でしたが、まぁこれ以上もないお似合いのお二人でしたわ。
 大公宮に勤めている私の友人から、ウィル様もアルル狙いで、実は取り合って三角関係ではないかという情報もありますが、その説は私が目撃した感じだと、「ない」と思います。



 ……まぁもうこんな時間!
 こんなところで油を売ってたらまた上司に叱られてしまいますわ。

 朝礼に急がなくては。



 ……あら?

 せっかく急いで事務室に駆け込んだのに、珍しく上司がまだ来てないようです。


 うちの上司ですか?

 えっと、ナルドさんという、ここに勤めて十何年の堅物です。多分三十代半ばぐらいでしょう。

 クソ真面目で融通が聞かなくて…。一言でいうと仕事は出来るかもしれませんが、面倒くさいタイプです。仕事でも、必要な事以外、あんまり私は喋ることもないですね。


「ん?」
 何気に裏庭の方角を見たら煙が細く上がっていました。

 ボヤだといけないので、とりあえず確認に行くと裏庭の隅にかがみ込んでいる見覚えのある後ろ姿が……。


「何故、燃えないのだ。一体、何の素材……このまま不燃ゴミに出すとバレるだろうか……」
 何だか、ブツブツ聞こえてきます。

 ゴミ?
 私の上司、ナルドさんは何故こんなところでコソコソとゴミを燃やしておいでなのでしょうか……。
 不燃ゴミ置き場がわからないとか?
 それならお声がけした方が親切かしら。
 

「何をしていらっしゃるのですか?」

「あわぁぁぁ~っ!!!」
 私が何気に声をかけたところ、腰を抜かさんばかりにパニックになったナルドさん。

「きゃっ」  
 あまりに大きな声だったのでこっちがビックリです。

「あちっ!!」
 ナルドさんは、私の視界から隠すようにして、なにやらブスブスと煙をあげる物体や灰をかき集めると、側においてあったGnet通販の箱にまとめて投げ入れました。

「大丈夫ですか?お手伝いいたしましょうか?」
「いや、いい」
 一応、私が声をかけたところ、すごい勢いでブンブンと頭を左右に振って断られました。

「マリン、何か見ましたか?」
 箱を閉めて、背後に隠し持つナルドさん。

 まだ、ブスブス燃えてたゴミもあったのに大丈夫かしら?余程見られたくないものだったの?

「いいえ。何も見えませんでしたわ」
「そうですか」
 目に見えて、ホッとするナルドさん。

 一体、何なんだろ。

「それでマリン、どうかしました?」
 どうかしたって……あんたがボヤ出してたから来たんだよ、と言いたかったけど必死で隠してるみたいだったからグッと我慢した。
 大人だわ、私。


「もう朝礼の時間ですよ?」
「あぁ、もうそんな時間ですか。これを片付けたら直ぐに行きますから」
 
 そう言うと燃えカスを入れた箱を必死に抱え、ダッシュでロッカー室の方へナルドさんは走って行きました。


「何これ……」

 慌てて箱に詰めこんだ時に落ちたのでしょう。
 黒焦げになった、掌サイズのよくわからない機械のような物体が落ちてました。

 ナルドさんの大事なものかもしれません。
 
 一応、届けてあげようと私は拾い上げてしまいました。


「げ……!」
 経験の薄い私でも、その焦げた物体が何かわかってしまいました。友達と興味本位でGnetで覗いてみたことがあるものと恐らく同じモノ……。

「これって……」

 ロー◯ー。
 所謂、大人のオモチャってヤツですよね?
 
 何やってんでしょう。私の上司。

 私はその焦げた物体を包んで、盛大に溜息をつきました。
「どうするの?これ……」

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