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第一部
第26話 ランチで既視感!☆
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「浮かない顔ですね、お嬢様。Aランチはお口にあいませんでした?」
ルーチェが自分のBランチと交換しましょうか?と気を使ってくれた。
いや、美味しい。
美味しいんだけどね……。
シェフのオススメAランチは間違いなく、当たり。行列する価値あるよ。
魚のソテーも蕩けるし、パスタも絶品。
でもね。
ここ、カフェ「リエージュ」に来ると思い出しちゃうんだもん。
この前にここに来た時のこと……。
私はナイフを皿に置いた。
「お食べにならないと元気がでませんよ」
何事も前向きなルーチェに叱られる。
「だって、このフード食べにくいのよ?取ってもいいかしら?」
私は毎度お馴染み巨大黒フードを被せられていたので、ルーチェに反論してみた。
「そうですね~。でも今日はそのままでもうちょっと、頑張って下さい」
「もうちょっと?」
「はい、もうちょっとです」
謎の笑いを浮かべるルーチェ。
あれ?ルーチェ、何か企んでる?
「相席お願いしま~す」
やって来たのは、デカい帽子を目深に被った背の高い男性。
既視感?
「宜しいですか?」
深い、低いゾクッとするような男の色気のある低音の声。
私の大好きな声……。
「どうぞ」
ルーチェがにこやかに私の向かいの席を勧める。
ルーチェ、あんた、知ってたわね……。
でも、どうやって?
「サラック様……」
私の呼びかけに、目の前の男は帽子をとった。
「体調はどう?」
優しい表情を浮かべたユッカ大公が私を心配そうに見つめていた。
「はい、何とか…」
「あれからずっと伏せていたと聞いたので」
思わず、私はルーチェを見た。
ズル休み、チクったわね……。
ルーチェは私の視線を受けて突然、立ち上がって言った。
「私、食べ過ぎたのかお腹が痛くなりました。ちょっと失礼いたします」
退出時、私に頑張れポーズを寄越すルーチェ。
わざとらし過ぎる……芝居下手ねぇ。
「おやおや、彼女には気を使って貰ったらしい」
サラック様も苦笑していた。
「どうしてこちらへ?」
「ソーヴェがどうも、さっきの彼女と示しあわせてくれてね」
「ソーヴェ様が?」
「ソーヴェは君のことをいたく気に入ったようだよ」
サラック様がソーヴェ、ととても親しそうに話されるので、ツキンとした痛みが胸に刺さる。
独身で咲き誇る薔薇のようにゴージャスな、カルゾの女公主であるお優しいソーヴェ様。
こないだの夜会では、思わずお二人におめでとうございます、なんて言ってしまったが本当にお似合いのお二人……。
「ありがとうございます。よろしくお伝え下さいませ」
少し冷たいような声色になってしまった自分に自己嫌悪。
「ソーヴェと私は何もないよ。親友の妻で付き合いの長い友人の一人だ。まぁ、四公なので政治的な繋がりも深いが」
「え?どうしてそんな……」
「気にしているようだったので。余分なことを言ったかな?」
「いえ……」
自分の嫉妬が見透かされたようで、恥ずかしい。
「サラック様も何かお食べになりますか?」
「そうだな、では同じものを」
「はい」
店員を呼び出して手短に同じAランチを注文する。
「そう言えば、ミスターユッカは休載でしたね」
「大事なリエージュがお休みしていたのでね」
大事な、という言葉にまた反応してしまう私。
そんなこと言われたら、女は期待してしまいますよ、サラック様……。
「その件についてなのですが、今回を機にリエージュは卒業とさせていただこうかと思って……」
「何故?」
「紙面上で、ミスターユッカとリエージュがお付き合いする事が苦しくなってきたからです」
「迷惑だった?」
「いいえ、とても嬉しかったですわ」
「では、この間の貴女の話と関係があるということかな?リツコ」
リツコ呼びに嬉しくて思わず、胸が震える。
「はい。私はやはり、存在してはいけないものなんじゃないかと思います。なので……リエージュとしてミスターユッカの好意に甘えることは出来ません」
「私は姿かたちはどうでも貴女が居てくれると嬉しい。存在してはいけないものだなんて、自分を責めて悲しいことを言わないで欲しい。私は、リツコ、貴女にここにいて欲しい。それだけではダメだろうか?」
熱をこめた口調でサラック様は私を見つめた。
また、視界がボヤけて、私の頬に熱いものが伝っていく。
なんだかすっかりあれから私は、涙もろくなってしまったような気がする。
「あぁ、また泣かせてしまった」
良いトシなのにオロオロして、紙ナプキンやおしぼりを私の前に積み上げるサラック様が可愛くて、愛しい。
ゴメンね、マルサネ。
私の中に眠っているかもしれない、マルサネに心の中で話しかける。
私、この人を好きになっても良いかしら?
ルーチェが自分のBランチと交換しましょうか?と気を使ってくれた。
いや、美味しい。
美味しいんだけどね……。
シェフのオススメAランチは間違いなく、当たり。行列する価値あるよ。
魚のソテーも蕩けるし、パスタも絶品。
でもね。
ここ、カフェ「リエージュ」に来ると思い出しちゃうんだもん。
この前にここに来た時のこと……。
私はナイフを皿に置いた。
「お食べにならないと元気がでませんよ」
何事も前向きなルーチェに叱られる。
「だって、このフード食べにくいのよ?取ってもいいかしら?」
私は毎度お馴染み巨大黒フードを被せられていたので、ルーチェに反論してみた。
「そうですね~。でも今日はそのままでもうちょっと、頑張って下さい」
「もうちょっと?」
「はい、もうちょっとです」
謎の笑いを浮かべるルーチェ。
あれ?ルーチェ、何か企んでる?
「相席お願いしま~す」
やって来たのは、デカい帽子を目深に被った背の高い男性。
既視感?
「宜しいですか?」
深い、低いゾクッとするような男の色気のある低音の声。
私の大好きな声……。
「どうぞ」
ルーチェがにこやかに私の向かいの席を勧める。
ルーチェ、あんた、知ってたわね……。
でも、どうやって?
「サラック様……」
私の呼びかけに、目の前の男は帽子をとった。
「体調はどう?」
優しい表情を浮かべたユッカ大公が私を心配そうに見つめていた。
「はい、何とか…」
「あれからずっと伏せていたと聞いたので」
思わず、私はルーチェを見た。
ズル休み、チクったわね……。
ルーチェは私の視線を受けて突然、立ち上がって言った。
「私、食べ過ぎたのかお腹が痛くなりました。ちょっと失礼いたします」
退出時、私に頑張れポーズを寄越すルーチェ。
わざとらし過ぎる……芝居下手ねぇ。
「おやおや、彼女には気を使って貰ったらしい」
サラック様も苦笑していた。
「どうしてこちらへ?」
「ソーヴェがどうも、さっきの彼女と示しあわせてくれてね」
「ソーヴェ様が?」
「ソーヴェは君のことをいたく気に入ったようだよ」
サラック様がソーヴェ、ととても親しそうに話されるので、ツキンとした痛みが胸に刺さる。
独身で咲き誇る薔薇のようにゴージャスな、カルゾの女公主であるお優しいソーヴェ様。
こないだの夜会では、思わずお二人におめでとうございます、なんて言ってしまったが本当にお似合いのお二人……。
「ありがとうございます。よろしくお伝え下さいませ」
少し冷たいような声色になってしまった自分に自己嫌悪。
「ソーヴェと私は何もないよ。親友の妻で付き合いの長い友人の一人だ。まぁ、四公なので政治的な繋がりも深いが」
「え?どうしてそんな……」
「気にしているようだったので。余分なことを言ったかな?」
「いえ……」
自分の嫉妬が見透かされたようで、恥ずかしい。
「サラック様も何かお食べになりますか?」
「そうだな、では同じものを」
「はい」
店員を呼び出して手短に同じAランチを注文する。
「そう言えば、ミスターユッカは休載でしたね」
「大事なリエージュがお休みしていたのでね」
大事な、という言葉にまた反応してしまう私。
そんなこと言われたら、女は期待してしまいますよ、サラック様……。
「その件についてなのですが、今回を機にリエージュは卒業とさせていただこうかと思って……」
「何故?」
「紙面上で、ミスターユッカとリエージュがお付き合いする事が苦しくなってきたからです」
「迷惑だった?」
「いいえ、とても嬉しかったですわ」
「では、この間の貴女の話と関係があるということかな?リツコ」
リツコ呼びに嬉しくて思わず、胸が震える。
「はい。私はやはり、存在してはいけないものなんじゃないかと思います。なので……リエージュとしてミスターユッカの好意に甘えることは出来ません」
「私は姿かたちはどうでも貴女が居てくれると嬉しい。存在してはいけないものだなんて、自分を責めて悲しいことを言わないで欲しい。私は、リツコ、貴女にここにいて欲しい。それだけではダメだろうか?」
熱をこめた口調でサラック様は私を見つめた。
また、視界がボヤけて、私の頬に熱いものが伝っていく。
なんだかすっかりあれから私は、涙もろくなってしまったような気がする。
「あぁ、また泣かせてしまった」
良いトシなのにオロオロして、紙ナプキンやおしぼりを私の前に積み上げるサラック様が可愛くて、愛しい。
ゴメンね、マルサネ。
私の中に眠っているかもしれない、マルサネに心の中で話しかける。
私、この人を好きになっても良いかしら?
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