24 / 150
第一部
第23話 君の名は?
しおりを挟む
「え…?」
低音のうっとりするようなバリトンボイスが耳に響く。
「君がリエージュだね?先だってカフェで会った元気な君の忠実なメイドが、わざわざミスターユッカのページを折り曲げたユッカナウを廊下で沢山配っていたよ」
声の主の方に視線を向けると…、
そこに立っていたのは、サングリア・エスト。
ユッカ大公その人だった。
「あ、ああ…のっ」
私は酸欠の金魚のように口を無様にパクパクさせた。
「本当に男どもときたら…。サラックも急に声をかけないの。マルサネがびっくりしてるじゃないの」
ソーヴェ様が私の肩を安心させるように抱いてくれた。
じんわりと触れられた肩が温かい…。
思わず、もう亡くなってしまった私の実母を思い出して泣きそうになる。
「大丈夫?マルサネ」
「大丈夫です。すみません」
私は、目尻を拭ってソーヴェ様に微笑みかけた。
「あら、笑顔がめちゃくちゃ可愛いじゃない。ねぇ、サラック」
「あ、う、うん」
慌てた様子で返事をするエスト大公。
そういえばさっきから、ソーヴェ様はエスト大公のこと、サラックって…。
やっぱり?やっぱり!!
「ミスターユッカって…もしかして?」
「騙すつもりはなかったんだが…」
ゴニョゴニョと答えるエスト大公。
何だかその様子が可愛らしくてつい、私は笑ってしまった。
「笑われてるわよ、サラック。貴方、あえて言わなかったんでしょ。若い子と関われておじさんは喜んでました、って言えないから」
「勘弁してくれよ、ソーヴェ」
ソーヴェ様のセリフにエスト大公の大きな身体が小さく縮こまったように見えた。
「ハイハイ、じゃあ邪魔者は消えますからね。ごゆっくり。あら、ヴィンったら、いつの間にか居なくなってる…」
ソーヴェ様は私に向かって軽くウィンクをすると、小部屋を出ていった。
「……」
「あのぉ…」
気まずい。
だって、だってぇぇぇ…!!
マルサネがリエージュだとバレてしまった。
ミスターユッカがエスト大公だってことも私的にはショックだったけど、それ以上に猿姫の分際であの文章、って、思われてるかと思うと泣きたくなるぐらい恥ずかしい。
そうだ。また、あれだ。謝っとこ。
土下座とかしたらいいのかな?
「すまなかった。本当に嘘をついたりするつもりはなかったんだ…」
私が土下座する前に先にエスト大公が口を開いた。
「はぁ…」
「ソーヴェの言うとおりだと思う。私はミスターユッカとして、君とやり取りをして楽しかった。毎週、楽しみで仕方なかった。大公ではなく、一人の人間として君にあの、カフェで会った時から惹かれていたんだ」
「それは…、私も同じです。大公さま。私にとっても、とても楽しく、そしてとても苦しい日々でした」
「私はサングリア・サラック・エスト、君の名前を教えて貰えないだろうか」
「え…?どういう意味でしょうか?」
「それを君は私に言わせる気か?」
痛いほど真剣な眼差しが私を射抜く。
マルサネ・ゲンメ、って、答えを期待してる訳じゃなさそうよね…。
と、いうことは?!
名前って…?
私の名前、私の名前は…!
もうこの人には、バレても仕方ないんじゃないだろうか。
むしろ、私の中に私でありたいっていう気持ちがある気がする。
それをぶつけてみよう。
受け止めて貰えかったらそれはその時だわ。
「私はリツコ…。サワイ、リツコです」
低音のうっとりするようなバリトンボイスが耳に響く。
「君がリエージュだね?先だってカフェで会った元気な君の忠実なメイドが、わざわざミスターユッカのページを折り曲げたユッカナウを廊下で沢山配っていたよ」
声の主の方に視線を向けると…、
そこに立っていたのは、サングリア・エスト。
ユッカ大公その人だった。
「あ、ああ…のっ」
私は酸欠の金魚のように口を無様にパクパクさせた。
「本当に男どもときたら…。サラックも急に声をかけないの。マルサネがびっくりしてるじゃないの」
ソーヴェ様が私の肩を安心させるように抱いてくれた。
じんわりと触れられた肩が温かい…。
思わず、もう亡くなってしまった私の実母を思い出して泣きそうになる。
「大丈夫?マルサネ」
「大丈夫です。すみません」
私は、目尻を拭ってソーヴェ様に微笑みかけた。
「あら、笑顔がめちゃくちゃ可愛いじゃない。ねぇ、サラック」
「あ、う、うん」
慌てた様子で返事をするエスト大公。
そういえばさっきから、ソーヴェ様はエスト大公のこと、サラックって…。
やっぱり?やっぱり!!
「ミスターユッカって…もしかして?」
「騙すつもりはなかったんだが…」
ゴニョゴニョと答えるエスト大公。
何だかその様子が可愛らしくてつい、私は笑ってしまった。
「笑われてるわよ、サラック。貴方、あえて言わなかったんでしょ。若い子と関われておじさんは喜んでました、って言えないから」
「勘弁してくれよ、ソーヴェ」
ソーヴェ様のセリフにエスト大公の大きな身体が小さく縮こまったように見えた。
「ハイハイ、じゃあ邪魔者は消えますからね。ごゆっくり。あら、ヴィンったら、いつの間にか居なくなってる…」
ソーヴェ様は私に向かって軽くウィンクをすると、小部屋を出ていった。
「……」
「あのぉ…」
気まずい。
だって、だってぇぇぇ…!!
マルサネがリエージュだとバレてしまった。
ミスターユッカがエスト大公だってことも私的にはショックだったけど、それ以上に猿姫の分際であの文章、って、思われてるかと思うと泣きたくなるぐらい恥ずかしい。
そうだ。また、あれだ。謝っとこ。
土下座とかしたらいいのかな?
「すまなかった。本当に嘘をついたりするつもりはなかったんだ…」
私が土下座する前に先にエスト大公が口を開いた。
「はぁ…」
「ソーヴェの言うとおりだと思う。私はミスターユッカとして、君とやり取りをして楽しかった。毎週、楽しみで仕方なかった。大公ではなく、一人の人間として君にあの、カフェで会った時から惹かれていたんだ」
「それは…、私も同じです。大公さま。私にとっても、とても楽しく、そしてとても苦しい日々でした」
「私はサングリア・サラック・エスト、君の名前を教えて貰えないだろうか」
「え…?どういう意味でしょうか?」
「それを君は私に言わせる気か?」
痛いほど真剣な眼差しが私を射抜く。
マルサネ・ゲンメ、って、答えを期待してる訳じゃなさそうよね…。
と、いうことは?!
名前って…?
私の名前、私の名前は…!
もうこの人には、バレても仕方ないんじゃないだろうか。
むしろ、私の中に私でありたいっていう気持ちがある気がする。
それをぶつけてみよう。
受け止めて貰えかったらそれはその時だわ。
「私はリツコ…。サワイ、リツコです」
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる