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第一部
第22話 本日のミッション!☆
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「素晴らしい。マルサネ、見事な歌声であった。それでは各々、今宵は宴を存分に楽しまれよ」
という大公からのお褒めの言葉の後、大公の御前から集まった人々は解散し、自由な感じで宴は始まった。
会場の熱気と共に、私の高揚感もすっと冷えてきた。
蛇姫の挑発にのって音痴のマルサネがゴスペルは流石にまずかったんじゃない?
やらかしちゃった感満載で、もうとっとと帰ってしまおうとキョロキョロ、帰り道を探していた私はあっという間に好奇心いっぱいの人々に囲まれた。
「マルサネ様、素晴らしゅうございましたわ、初めて聞く歌でしたが、一体何という歌ですの?」
「私、感動して涙が出てしまいましたわ」
「是非、もう一度歌って下さいませ」
「えっ……と。あのぉ……」
押し寄せる群衆に焦る私。
「皆様、申し訳ないけど私が先約よ。マルサネは借りるわね」
「ソーヴェ様!」
アワアワしている私を助けてくれたのは、本日の主役の一人、カルゾ女公だった。
私と同じぐらい長身の迫力美女に手をひかれ、奥の小部屋に引き入れられる。
「ここなら誰も入ってこれないわ」
ソーヴェ様はいたずらっ子のように私にウィンクした。
「えぇと。ありがとうございました」
とりあえず私はお礼を言って頭を下げた。
あ、親子だけに金色の輝く髪だけじゃなくてお顔の作りもヴィンセント様に良く似てる……。
私はうっとりとソーヴェ様を見つめてしまった。
「何か私についていて?」
面白そうにソーヴェ様が私を覗きこむ。
「申し訳ございません……ヴィンセント様にやはり似てらっしゃるなぁと」
「ふふ……そうね。でも最近は父親にそっくりになってきたわ」
複雑な顔をしてソーヴェ様は呟いた。
「そうなんですね。まぁ、男の子ですし。イヤなところは全部旦那様に似ちゃいますよね~」
つい、ママ友感覚で返事をしてしまった私。
「ハハハ……貴女本当に面白いわね。確かに、困ったところは旦那様にそっくりよ。こないだの会議で見たでしょ?一途といえば聞こえがいいけど、あんなものはただの執着よ。融通も聞かないし、本当にあの子、父親そっくり」
「おや、こんなところで息子の悪口ですか?」
「ヴィンセント様!」
母譲りのお日様のように輝く金髪、整い過ぎてどことなく冷たくも見える美貌の主が現れた。
「久しぶりですね、マルサネ。先ほどの歌声、見事でした」
やったぁ、会えた!
本日のミッションチャレンジ! チャンス到来っ。
「ありがとうございます」
「素敵な響きだったけど、初めて聞く音楽だったわ。不思議な言葉の歌詞ね。どういう意味なの?」
そっか。讃美歌……奴隷とかの概念もこの世界にあるんだろうか…どうやって説明しよう……。
「えっと…、アメイジングいや、恩寵…、う~ん、まぁ、生きてる恵みに感謝します、というような意味です」
「へ~、一体どこで?貴女が考えたわけではないでしょ?」
まさか、異世界の歌ですとも言えないし……あ、そうだ。この世界も便利な先生がいるじゃん!
「じ、Gnetですっ。昔の伝承とか珍しいものが私、好きなんです」
「そうなんだ。どこの伝承かしらね。グルナッシュの北の果ての騎馬の民かラミナの南にある妖しい国々かしら」
「多分、その辺だと思います!」
私の苦しい言い訳に一応納得してくれたソーヴェ様。
Gnetあって良かった……。
よし、ミッション行くわよ!ヴィンセント様に聞こう。
「ところであのぅ、ヴィンセント様。アルルはご一緒ではないんですか?」
「何故そんなことを?」
ヴィンセント様に凍りつきそうなぐらい冷たい口調で返されて、続きを尋ねる勇気を失う私。
怖い……。
私、何かいけないことを言ったかしら?
「やめなさい、ヴィンセント。彼女は名前を出しただけじゃないの。減るもんじゃあるまいし」
ソーヴェ様がヴィンセント様の頭を軽く叩く。
「減りますから……」
「ごめんなさいね、マルサネ。この子、アルルに会えなくておかしくなってるのよ」
「えっ!会えない?……じゃ、もう蛇姫にっ!」
ソーヴェ様の言葉に悲鳴のような声をあげる私。
「は?カルドンヌがどうしたの?」
ソーヴェ様が真剣な顔になって私を見た。
「え?蛇姫に誘拐されたんじゃ?」
「何の話です?」
更にブリザードのような凍てつく表情でヴィンセント様も私を見つめる。
「先日、私、蛇姫に言われたんです。アルルの居場所を教えろ、教えないなら私の名前でアルルを呼び出すと。呼び出して、切り刻んでやると聞くに耐えない恐ろしいことを並べ立てるので、何とかアルルに伝えたくて…」
「……」
無言のヴィンセント様から、ゆらっと氷点下の殺気が立ち上る。
「カルドンヌは本当に懲りない娘ねぇ」
ソーヴェ様が深く溜め息を吐いた。
「安心しなさい、アルルは無事よ。多分」
「多分?ですか……」
「そう。アルルは今、この国にはいない。カルドンヌも国外まで追っていくとは思わないわ」
「国外……」
「そう。ある意味、この世界で一番セキュリティがしっかりしてる場所に居るわ」
「は……ぁ」
そっかぁ、アルルは今ユッカに居ないのか。
良かった……。
気を張って戦闘モードでこの夜会に乗り込んで来たので、私は一気に力が抜けた。
「安心しましたか?リエージュ?」
という大公からのお褒めの言葉の後、大公の御前から集まった人々は解散し、自由な感じで宴は始まった。
会場の熱気と共に、私の高揚感もすっと冷えてきた。
蛇姫の挑発にのって音痴のマルサネがゴスペルは流石にまずかったんじゃない?
やらかしちゃった感満載で、もうとっとと帰ってしまおうとキョロキョロ、帰り道を探していた私はあっという間に好奇心いっぱいの人々に囲まれた。
「マルサネ様、素晴らしゅうございましたわ、初めて聞く歌でしたが、一体何という歌ですの?」
「私、感動して涙が出てしまいましたわ」
「是非、もう一度歌って下さいませ」
「えっ……と。あのぉ……」
押し寄せる群衆に焦る私。
「皆様、申し訳ないけど私が先約よ。マルサネは借りるわね」
「ソーヴェ様!」
アワアワしている私を助けてくれたのは、本日の主役の一人、カルゾ女公だった。
私と同じぐらい長身の迫力美女に手をひかれ、奥の小部屋に引き入れられる。
「ここなら誰も入ってこれないわ」
ソーヴェ様はいたずらっ子のように私にウィンクした。
「えぇと。ありがとうございました」
とりあえず私はお礼を言って頭を下げた。
あ、親子だけに金色の輝く髪だけじゃなくてお顔の作りもヴィンセント様に良く似てる……。
私はうっとりとソーヴェ様を見つめてしまった。
「何か私についていて?」
面白そうにソーヴェ様が私を覗きこむ。
「申し訳ございません……ヴィンセント様にやはり似てらっしゃるなぁと」
「ふふ……そうね。でも最近は父親にそっくりになってきたわ」
複雑な顔をしてソーヴェ様は呟いた。
「そうなんですね。まぁ、男の子ですし。イヤなところは全部旦那様に似ちゃいますよね~」
つい、ママ友感覚で返事をしてしまった私。
「ハハハ……貴女本当に面白いわね。確かに、困ったところは旦那様にそっくりよ。こないだの会議で見たでしょ?一途といえば聞こえがいいけど、あんなものはただの執着よ。融通も聞かないし、本当にあの子、父親そっくり」
「おや、こんなところで息子の悪口ですか?」
「ヴィンセント様!」
母譲りのお日様のように輝く金髪、整い過ぎてどことなく冷たくも見える美貌の主が現れた。
「久しぶりですね、マルサネ。先ほどの歌声、見事でした」
やったぁ、会えた!
本日のミッションチャレンジ! チャンス到来っ。
「ありがとうございます」
「素敵な響きだったけど、初めて聞く音楽だったわ。不思議な言葉の歌詞ね。どういう意味なの?」
そっか。讃美歌……奴隷とかの概念もこの世界にあるんだろうか…どうやって説明しよう……。
「えっと…、アメイジングいや、恩寵…、う~ん、まぁ、生きてる恵みに感謝します、というような意味です」
「へ~、一体どこで?貴女が考えたわけではないでしょ?」
まさか、異世界の歌ですとも言えないし……あ、そうだ。この世界も便利な先生がいるじゃん!
「じ、Gnetですっ。昔の伝承とか珍しいものが私、好きなんです」
「そうなんだ。どこの伝承かしらね。グルナッシュの北の果ての騎馬の民かラミナの南にある妖しい国々かしら」
「多分、その辺だと思います!」
私の苦しい言い訳に一応納得してくれたソーヴェ様。
Gnetあって良かった……。
よし、ミッション行くわよ!ヴィンセント様に聞こう。
「ところであのぅ、ヴィンセント様。アルルはご一緒ではないんですか?」
「何故そんなことを?」
ヴィンセント様に凍りつきそうなぐらい冷たい口調で返されて、続きを尋ねる勇気を失う私。
怖い……。
私、何かいけないことを言ったかしら?
「やめなさい、ヴィンセント。彼女は名前を出しただけじゃないの。減るもんじゃあるまいし」
ソーヴェ様がヴィンセント様の頭を軽く叩く。
「減りますから……」
「ごめんなさいね、マルサネ。この子、アルルに会えなくておかしくなってるのよ」
「えっ!会えない?……じゃ、もう蛇姫にっ!」
ソーヴェ様の言葉に悲鳴のような声をあげる私。
「は?カルドンヌがどうしたの?」
ソーヴェ様が真剣な顔になって私を見た。
「え?蛇姫に誘拐されたんじゃ?」
「何の話です?」
更にブリザードのような凍てつく表情でヴィンセント様も私を見つめる。
「先日、私、蛇姫に言われたんです。アルルの居場所を教えろ、教えないなら私の名前でアルルを呼び出すと。呼び出して、切り刻んでやると聞くに耐えない恐ろしいことを並べ立てるので、何とかアルルに伝えたくて…」
「……」
無言のヴィンセント様から、ゆらっと氷点下の殺気が立ち上る。
「カルドンヌは本当に懲りない娘ねぇ」
ソーヴェ様が深く溜め息を吐いた。
「安心しなさい、アルルは無事よ。多分」
「多分?ですか……」
「そう。アルルは今、この国にはいない。カルドンヌも国外まで追っていくとは思わないわ」
「国外……」
「そう。ある意味、この世界で一番セキュリティがしっかりしてる場所に居るわ」
「は……ぁ」
そっかぁ、アルルは今ユッカに居ないのか。
良かった……。
気を張って戦闘モードでこの夜会に乗り込んで来たので、私は一気に力が抜けた。
「安心しましたか?リエージュ?」
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