22 / 150
第一部
第21話 神の恵み? ☆
しおりを挟む
「本日はお日柄も良く~お招きありがとうございます。ただいまご紹介に預かりましたマルサネ・ゲンメでございます」
あぁ、これじゃ結婚式のスピーチじゃないのっ…。
膝のガクガク、止まれ~。
「えっと……大公様、ソーヴェ様、おめでとうございます? 」
しまった。二人の結婚式じゃないんだから。
おめでとうはなかったぁ!
じゃあ、正解は何だぁ!!
事前に色々覚えたスピーチ、何にも役にたってないじゃん。
頑張って貴族の挨拶とか検索したのに……。
顔が強ばって、ひきつっていくのが自分でも分かる。これ、マルサネの顔だから、ビジュアル的に悲惨だろうな。
よし、取り敢えず謝ろう。
謝って終わっとこ。
「今まで私の素行で皆様にご迷惑をかけてすみませんでしたっ、これからは心を入れ換えて頑張りますっ!」
心っていうか、中身ごと入れ代わってるけどね。
「私に出来ることであれば、今後はこの国のために全力で取り組んで参ります。皆様、どうかマルサネ・ゲンメ。マルサネ・ゲンメをよろしくお願いいたします」
私は大声で一気に捲し立てた後、大公と群衆に深々と頭を下げた。
嗚呼、最後は選挙カーの最終日みたいになっちゃったよ……。
私、声には自信があったから、若い頃ウグイス嬢のバイトしてたことがあって……つい出ちゃったわ。
清き一票って言わなかっただけ、自分を褒めよう…。
再び、どよめく群衆。
(「猿姫が謝ってるぞ!」
「どうした?何かの茶番か?」
「挨拶は妙な言い回しだが、敬語使って喋ってる……」)
「ぶはっ。貴女、面白い人になったわね。マルサネ」
ソーヴェ様が口元を押さえ、笑いをこらえながらこちらを見ていた。
「一生懸命な挨拶、大義であった」
大公から平然とした声がかけられたが、大公の口元もぷるぷる震えてる。
絶対、笑うのを堪えているわよ、あれ。
「今後は心を入れ換えて我が国の為に働くと良い」
さすが、国主。耐えて厳格な表情に戻る。
「貴女に何か出来ることなんかあって?マルサネ。何か一つでも取り柄があったかしら?」
隣から蛇姫に公然と因縁をふっかけられる。
全く、イヤな女だわ。
思わず、キッと睨みつける。
「おお、怖い顔ですこと。いつもみたいにキーキー言って、暴れ狂うつもりですの?」
「暴れないわよ。取り柄があるかどうかは、貴女以外に判断してもらえばいいわ」
「ふん、生意気ね。じゃあ、今ここで何かしてみなさいよ」
「は?」
「貴女に出来ることがあればね」
「どういう意味かしら?」
「貴女ができるのは、せいぜい猿真似ぐらいってことよ。そうね、猿回しはお出来になって?」
「言ってくれるわね……」
しまった。
公衆の面前で蛇姫とバトってしまった。
でも、後には引けないわ。
こんな、自分の娘みたいな小娘に負けるもんですか。
私はユッカ大公の前に進み出て、頭を下げた。
「大公様。突然ですが、私の願いをお聞き届け下さいますでしょうか?」
「何だ?申してみよ」
「お祝いに今から一曲、披露させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「何を言い出すの?マルサネ。貴女の歌なんか冗談じゃないわよ。貴女、キーキー叫ぶだけの国宝級音痴じゃないの」
私の申し出に、蛇姫が白い目を向けてきた。
あら、マルサネ音痴だったの。
まぁ、そうかもね。野放し教育で誰も何も、マルサネには教えて来なかったみたいだから。
「ほぅ。マルサネが歌う、というのか。よろしい、許可しよう」
「ありがとうございます」
私は胸を張って息を大きく吸った。
よし。
私は、一礼するとゴスペルソングの定番を歌いはじめた。
……♪~♪♪~
あぁ、いい声量が出るわ。気持ちいい。
マルサネは腹筋が鍛えてあるから、腹式呼吸もバッチリ。高音も若いし、綺麗に伸びる。
私は目を瞑って、自分の中から天井へ音を絞り出すような感覚で、歌を紡ぐ。
ザワザワしていた会場も、シン……と静まりかえり、「素晴らしき神の恵み」のメロディーが異世界に響く。
気がつくと、私は万雷の拍手に包まれていた。
大公も立ち上がって拍手している。
わぁ、スタンディングオベーションだぁ……。
私は頬を染めて、深々と挨拶をした。
蛇姫は呆気にとられてこちらを見ている。
へへ~ん、蛇姫め。ザマーみろ。
町内カラオケ大会連続優勝、学生時代はゴスペルコンテストでグループ優勝、ママさんコーラスで鍛えた伝説の律子さまの歌声を舐めるなっての。
あ、声帯はマルサネかぁ。まぁ、基本的に歌は身体の使い方、声の出し方次第ってことよ。
不思議なもので、昔から歌ってる時だけは緊張しないの。プロの歌手になる程の根性はなかったけど……私、人前で歌うのは結構好きなんだよね。
それにしても、さすが万国共通のメロディー。
異世界でも通用して良かったわ。グッジョブ!律子。
あぁ、これじゃ結婚式のスピーチじゃないのっ…。
膝のガクガク、止まれ~。
「えっと……大公様、ソーヴェ様、おめでとうございます? 」
しまった。二人の結婚式じゃないんだから。
おめでとうはなかったぁ!
じゃあ、正解は何だぁ!!
事前に色々覚えたスピーチ、何にも役にたってないじゃん。
頑張って貴族の挨拶とか検索したのに……。
顔が強ばって、ひきつっていくのが自分でも分かる。これ、マルサネの顔だから、ビジュアル的に悲惨だろうな。
よし、取り敢えず謝ろう。
謝って終わっとこ。
「今まで私の素行で皆様にご迷惑をかけてすみませんでしたっ、これからは心を入れ換えて頑張りますっ!」
心っていうか、中身ごと入れ代わってるけどね。
「私に出来ることであれば、今後はこの国のために全力で取り組んで参ります。皆様、どうかマルサネ・ゲンメ。マルサネ・ゲンメをよろしくお願いいたします」
私は大声で一気に捲し立てた後、大公と群衆に深々と頭を下げた。
嗚呼、最後は選挙カーの最終日みたいになっちゃったよ……。
私、声には自信があったから、若い頃ウグイス嬢のバイトしてたことがあって……つい出ちゃったわ。
清き一票って言わなかっただけ、自分を褒めよう…。
再び、どよめく群衆。
(「猿姫が謝ってるぞ!」
「どうした?何かの茶番か?」
「挨拶は妙な言い回しだが、敬語使って喋ってる……」)
「ぶはっ。貴女、面白い人になったわね。マルサネ」
ソーヴェ様が口元を押さえ、笑いをこらえながらこちらを見ていた。
「一生懸命な挨拶、大義であった」
大公から平然とした声がかけられたが、大公の口元もぷるぷる震えてる。
絶対、笑うのを堪えているわよ、あれ。
「今後は心を入れ換えて我が国の為に働くと良い」
さすが、国主。耐えて厳格な表情に戻る。
「貴女に何か出来ることなんかあって?マルサネ。何か一つでも取り柄があったかしら?」
隣から蛇姫に公然と因縁をふっかけられる。
全く、イヤな女だわ。
思わず、キッと睨みつける。
「おお、怖い顔ですこと。いつもみたいにキーキー言って、暴れ狂うつもりですの?」
「暴れないわよ。取り柄があるかどうかは、貴女以外に判断してもらえばいいわ」
「ふん、生意気ね。じゃあ、今ここで何かしてみなさいよ」
「は?」
「貴女に出来ることがあればね」
「どういう意味かしら?」
「貴女ができるのは、せいぜい猿真似ぐらいってことよ。そうね、猿回しはお出来になって?」
「言ってくれるわね……」
しまった。
公衆の面前で蛇姫とバトってしまった。
でも、後には引けないわ。
こんな、自分の娘みたいな小娘に負けるもんですか。
私はユッカ大公の前に進み出て、頭を下げた。
「大公様。突然ですが、私の願いをお聞き届け下さいますでしょうか?」
「何だ?申してみよ」
「お祝いに今から一曲、披露させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「何を言い出すの?マルサネ。貴女の歌なんか冗談じゃないわよ。貴女、キーキー叫ぶだけの国宝級音痴じゃないの」
私の申し出に、蛇姫が白い目を向けてきた。
あら、マルサネ音痴だったの。
まぁ、そうかもね。野放し教育で誰も何も、マルサネには教えて来なかったみたいだから。
「ほぅ。マルサネが歌う、というのか。よろしい、許可しよう」
「ありがとうございます」
私は胸を張って息を大きく吸った。
よし。
私は、一礼するとゴスペルソングの定番を歌いはじめた。
……♪~♪♪~
あぁ、いい声量が出るわ。気持ちいい。
マルサネは腹筋が鍛えてあるから、腹式呼吸もバッチリ。高音も若いし、綺麗に伸びる。
私は目を瞑って、自分の中から天井へ音を絞り出すような感覚で、歌を紡ぐ。
ザワザワしていた会場も、シン……と静まりかえり、「素晴らしき神の恵み」のメロディーが異世界に響く。
気がつくと、私は万雷の拍手に包まれていた。
大公も立ち上がって拍手している。
わぁ、スタンディングオベーションだぁ……。
私は頬を染めて、深々と挨拶をした。
蛇姫は呆気にとられてこちらを見ている。
へへ~ん、蛇姫め。ザマーみろ。
町内カラオケ大会連続優勝、学生時代はゴスペルコンテストでグループ優勝、ママさんコーラスで鍛えた伝説の律子さまの歌声を舐めるなっての。
あ、声帯はマルサネかぁ。まぁ、基本的に歌は身体の使い方、声の出し方次第ってことよ。
不思議なもので、昔から歌ってる時だけは緊張しないの。プロの歌手になる程の根性はなかったけど……私、人前で歌うのは結構好きなんだよね。
それにしても、さすが万国共通のメロディー。
異世界でも通用して良かったわ。グッジョブ!律子。
0
お気に入りに追加
142
あなたにおすすめの小説

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。
黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。
差出人は幼馴染。
手紙には絶縁状と書かれている。
手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。
いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。
そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……?
そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。
しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。
どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

真実の愛の言い分
豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」
私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる