アラフォーの悪役令嬢~婚約破棄って何ですか?~

七々瀬 咲蘭

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第一部

第21話 神の恵み? ☆

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「本日はお日柄も良く~お招きありがとうございます。ただいまご紹介に預かりましたマルサネ・ゲンメでございます」
 あぁ、これじゃ結婚式のスピーチじゃないのっ…。

 膝のガクガク、止まれ~。

「えっと……大公様、ソーヴェ様、おめでとうございます? 」

 しまった。二人の結婚式じゃないんだから。

 おめでとうはなかったぁ!
 じゃあ、正解は何だぁ!!

 事前に色々覚えたスピーチ、何にも役にたってないじゃん。
 頑張って貴族の挨拶とか検索したのに……。


 顔が強ばって、ひきつっていくのが自分でも分かる。これ、マルサネの顔だから、ビジュアル的に悲惨だろうな。

 よし、取り敢えず謝ろう。
 謝って終わっとこ。

「今まで私の素行で皆様にご迷惑をかけてすみませんでしたっ、これからは心を入れ換えて頑張りますっ!」

 心っていうか、中身ごと入れ代わってるけどね。 

「私に出来ることであれば、今後はこの国のために全力で取り組んで参ります。皆様、どうかマルサネ・ゲンメ。マルサネ・ゲンメをよろしくお願いいたします」
 私は大声で一気に捲し立てた後、大公と群衆に深々と頭を下げた。


 嗚呼、最後は選挙カーの最終日みたいになっちゃったよ……。
 私、声には自信があったから、若い頃ウグイス嬢のバイトしてたことがあって……つい出ちゃったわ。

 清き一票って言わなかっただけ、自分を褒めよう…。


 再び、どよめく群衆。
(「猿姫が謝ってるぞ!」
 「どうした?何かの茶番か?」
 「挨拶は妙な言い回しだが、敬語使って喋ってる……」)


「ぶはっ。貴女、面白い人になったわね。マルサネ」
 ソーヴェ様が口元を押さえ、笑いをこらえながらこちらを見ていた。

「一生懸命な挨拶、大義であった」
 大公から平然とした声がかけられたが、大公の口元もぷるぷる震えてる。

 絶対、笑うのを堪えているわよ、あれ。

「今後は心を入れ換えて我が国の為に働くと良い」

 さすが、国主。耐えて厳格な表情に戻る。

「貴女に何か出来ることなんかあって?マルサネ。何か一つでも取り柄があったかしら?」

 隣から蛇姫に公然と因縁をふっかけられる。
 全く、イヤな女だわ。

 思わず、キッと睨みつける。

「おお、怖い顔ですこと。いつもみたいにキーキー言って、暴れ狂うつもりですの?」
「暴れないわよ。取り柄があるかどうかは、貴女以外に判断してもらえばいいわ」
「ふん、生意気ね。じゃあ、今ここで何かしてみなさいよ」
「は?」
「貴女に出来ることがあればね」
「どういう意味かしら?」
「貴女ができるのは、せいぜい猿真似ぐらいってことよ。そうね、猿回しはお出来になって?」
「言ってくれるわね……」


 しまった。
 公衆の面前で蛇姫とバトってしまった。

 でも、後には引けないわ。
 こんな、自分の娘みたいな小娘に負けるもんですか。
 
 私はユッカ大公の前に進み出て、頭を下げた。
「大公様。突然ですが、私の願いをお聞き届け下さいますでしょうか?」
「何だ?申してみよ」
「お祝いに今から一曲、披露させていただきたいのですが、よろしいですか?」
 
「何を言い出すの?マルサネ。貴女の歌なんか冗談じゃないわよ。貴女、キーキー叫ぶだけの国宝級音痴じゃないの」
 私の申し出に、蛇姫が白い目を向けてきた。

 あら、マルサネ音痴だったの。

 まぁ、そうかもね。野放し教育で誰も何も、マルサネには教えて来なかったみたいだから。


「ほぅ。マルサネが歌う、というのか。よろしい、許可しよう」
「ありがとうございます」


 私は胸を張って息を大きく吸った。

 よし。
 

 私は、一礼するとゴスペルソングの定番を歌いはじめた。

……♪~♪♪~

 あぁ、いい声量が出るわ。気持ちいい。

 
 マルサネは腹筋が鍛えてあるから、腹式呼吸もバッチリ。高音も若いし、綺麗に伸びる。

 私は目を瞑って、自分の中から天井へ音を絞り出すような感覚で、歌を紡ぐ。


  ザワザワしていた会場も、シン……と静まりかえり、「素晴らしき神の恵み」のメロディーが異世界に響く。



 気がつくと、私は万雷の拍手に包まれていた。
 大公も立ち上がって拍手している。

 わぁ、スタンディングオベーションだぁ……。
 私は頬を染めて、深々と挨拶をした。

 蛇姫は呆気にとられてこちらを見ている。

 へへ~ん、蛇姫め。ザマーみろ。

 町内カラオケ大会連続優勝、学生時代はゴスペルコンテストでグループ優勝、ママさんコーラスで鍛えた伝説の律子さまの歌声を舐めるなっての。

 あ、声帯はマルサネかぁ。まぁ、基本的に歌は身体の使い方、声の出し方次第ってことよ。
 
 不思議なもので、昔から歌ってる時だけは緊張しないの。プロの歌手になる程の根性はなかったけど……私、人前で歌うのは結構好きなんだよね。


 それにしても、さすが万国共通のメロディー。
 異世界でも通用して良かったわ。グッジョブ!律子。
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