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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
25.エピローグ
しおりを挟むスタンピードと悪魔との戦いがようやく終わり、あれからもう数日が過ぎた。
ヤーデルは操り人形からは解放されたが、既に魂を弄られていた所為か、廃人の様な状態でフィレオのおっさんに連行された。
おっさんはやるせない表情をしていたが、それも含めて自業自得ってもんだから、気にしない方がいいと思う。
一応王都で正式な裁きが下されるらしい。
私には興味ない話だけど。
ラプタスの街の前に作った壁はもう崩してある。
街の人や冒険者達には、次期Sランク候補のAランク冒険者が全て解決してくれたって説明したらしいけど、それで納得される程度にはSランク冒険者は強いらしい。
まぁ、冒険者達は私がやったって薄々気付いていたみたいだけど、黙っていてくれている。
そうだランクで思い出したけど、私の冒険者ランクがBに上がった。
一支部のギルドマスター権限で上げられるのがBランクまでなんだとか。
断ろうとしたらロジャーに泣きつかれ、渋々了承した。
つまり、ラプタスの街は平和な日常に戻ったのだ。
ただ、箱庭の中はあの戦いの後から、結構騒がしくなった。
「トンボお姉様ー!」
「トンボ姉ちゃん!」
「お姉ちゃーん!」
「お姉さーん!」
カルデラの上に登った妹弟軍団がこちらに手を振っている。
ソルとナル、ミウとリリーの四人だ。
何故リリーが箱庭に居るのか。
それは、事後処理で忙しいフィレオのおっさんがようやく暇になったので、色々説明するために再び箱庭に招待したのに引っ付いて来たのだ。
リリーは、おっさんが私と二人きりでスタンピードに立ち向かったと聞き、あの日も泣きながら心配していたらしい。
今日も二人だけで危ない事をする気じゃないかと、泣きながらおっさんの足にしがみつき離れなかった。
今ではあの通り楽しんでるけど。
「落ちないように気を付けろよー」
といっても、ピンが下に待機してるから問題ないか。
「うーむ、異世界からの転生者か……」
おっさんは私の話を聞いて、腕を組み難しい顔をしている。
「トンボ様にはどこか浮世離れした所がございましたが、それならば納得ですね旦那様」
そう言いながら、ムートンさんが紅茶のおかわりを入れてくれる。
ムートンさんとメリーさんは、流れでそのまま箱庭に招待した。
ちなみにメリーさんはラウと一緒に、カルデラの側でリリー達が落ちないか心配でそわそわしている。
「トンボの話は本当ですよ。私も知らない様な未知の知識を沢山知っていますから」
「疑っている訳ではないが、整理がおいつかん」
同席していたセヨンがフォローしてくれる。
おっさんは眉をひそめながら、こめかみを押さえた。
「そういやセヨン、スキル付きの魔道具はどうだったんだ?」
「まだまだ問題は山積みだ。トンボの世界にある技術から着想を得た、立体魔方陣を利用した幻覚によるスキル想起。それは成功だった」
私がセヨンに話したのは、3DプリンターやVRゲームの話だ。
平面の積み重ねて立体を作る3Dプリンター。
その話を参考に、セヨンは平面の魔方陣を複雑に組み合わせ、球体の魔方陣を作り上げた。
それにより、今までは生活魔法が限界とされていた複雑な魔力回路を、スキル無しでも作れるようになったのだ。
それにより作った幻覚を見せる魔法を魔石にかけ、魂に生前のスキルを使っていた時の状況を擬似的に追体験させ、スキルの想起を図ったらしい。
ようわからん。
「まだスキルの使用に制限がある。特に《死戒の魔眼》はスキルの性質の所為で、死王の死んだあのダンジョンしか再現できなかった」
あの魔眼にとって、最も身近な死が死王になってしまっているのだろう。
「それに魔方陣が大きすぎて持ち運べない」
「あー、あれはデカイよなぁ」
一度見せてもらったが、見た目は馬鹿デカイ球体の前衛芸術だった。
「あれじゃあ、まともに使えないよ」
「だよな~」
「待て待て! お前達は何を言っているのだ! 魔法スキルに依らぬ魔法の発動だけでも十分過ぎる革新であろうが!」
私とセヨンの出した結論に、おっさんが異議を申し立てる。
しかし、セヨンの目指す所はスキルの完全再現と安全な一般普及だ。
それに立体魔方陣は現状、複雑過ぎてセヨンにしか理解できないし作れない。
「悪かったなセヨン……嫌ってた戦いにお前の技術を使わせちまって」
「構わないよ。箱庭を一緒に守る約束だ。ドワーフは嘘を吐かないんだぞ?」
「そうだったな……ありがとうなセヨン」
良い話としてまとまった。
セヨンと話して、立体魔方陣の技術は公表すべきではないという結論を出したのだ。
セヨンの嫌う軍事利用とかに繋がりそうだしな。
「いや、だから……はぁ、もうよい」
「そうしてくれ。それと……後ろ楯しっかり頼んだぜ?」
「むしろ逆な気がするが……お前には大きな借りが出来た。できるだけ協力させてもらうさ」
言質は取ったからな。
私が満足していると、おっさんが突然真剣な顔で口を開いた。
「それで、トンボは今後どうするのだ?」
「どうするって何が?」
「神見習いだと言うのなら、何か使命や試練があるのだろう? 我がラプタス家も力になると誓ったのだ。それを教えてくれ」
まーた覚悟完了した感じになるおっさん。
神に至るため危険な魔獣を倒したり、凄い神器を手にいれたりって考えてんのか?
しかし残念。
「そんなもん無いぞ」
「は? ……いや待て、どういう事だ」
「私が神なのはこの箱庭であって、ルスカは駿河さんの担当なの。だから、この箱庭を発展させていけば、私は勝手に神に成ってるの。わかったか?」
「つまり……使命や試練は?」
「ない! 強いて言えば、ルスカから動物や人々の移住をしないといけないって位か? でもそれも長い目でやっていくさ。ラウやミウみたいな帰る場所のなくなった人を保護してもいい」
「むぅ……」
「今の目標は、いつかセヨンやラウ、ミウが結婚して子どもが出来た時、こっちに住まわせたいって思えるような世界を創る事だな」
「ふははっ……確かに隠居するならもってこいかもしれんな」
え、おっさんいつかこっちに移住すんのかよ。
「ボケたおっさんの世話はしないぞ?」
「そこは私がおりますので……」
「ムートンさんが居るなら安心だな」
「おい! どういう事だ! 俺様はボケんぞ!」
おっさんのツッコミに、自然と場に笑いが起きる。
目標はあくまでも神としての目標だ。
ラプタスの街のトンボとしては、変わらず平穏な人生を望むだけだ。
空を見る。
どこまでも青い空がそこにある。
庭を見る。
子ども達が仲良く遊んでいる。
前を見る。
新たな仲間が笑っている。
私は生きている。
世は全て事も無し。
明日も平穏でありますように。
ーーーーーーーーーーー
第二章・完
お陰様で第二章も無事終了いたしました。
ここでお知らせがあります。
申し訳ありませんが、今後の『箱庭世界の壁魔法使い』の更新を完全不定期にさせて頂きます。
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