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第二章 箱庭の発展と神の敵対者
9.発展の意義と進展
しおりを挟む領主邸訪問も終わり、視察ついでにガンボ村へ生き物を捕まえに行く予定も立てられた。
通達された予定日まで少し時間があるので、この日の私は、どんな生き物を捕まえるべきか、家でセヨンと相談していた。
「やっぱり最初は虫だけにした方がいいかな?」
「さぁ、生態系ん構築なんて考えた事なかけんなぁ」
とまぁ、話は一向に進まないのだが。
「いっそ壁魔法で森の一部を囲んで、生き物全部転送するってのはどうだ?」
我ながらいい案だと思ったんだけど、セヨンは真面目な顔で首を横に振った。
「そればすりゃこん世界ん生態系が崩るー。そりゃこん世界ば発展させてきた神様に対する冒涜や。贋作も発展、模倣も発展、ばってん、他人ん成果ば奪う者に発展は無か。トンボは箱庭ば発展させるんやろ」
「………………はい、すいません」
普通に叱られた。
言われてみればその通りなので、ぐうの音も出ないぐらいヘコまされたた気分だ。
でも、私は少し急ぎ過ぎているのかもしれない。
早く箱庭の生態系を地球やルスカと同じにしないとって思っていたけど、それは間違いだったんだ。
完全に同じものを作るのは模倣を越えた成果の横取りだから。
私は私の生態系を創るべきなのだ。
地球ではこうだった。
ルスカではこうだった。
そんなの一々考えず、生き物の生きやすい環境を創る。
だって私はまだ神様見習いなのだから。
神様になるにはまだ早い。
「よし! ウジウジ悩むのは止めだ! はじめは虫に決定! 菜園に役立つ奴と落ち葉食ったり土を綺麗にする奴を集める!」
「ん! それでよか! トンボに悩み顔は似合わんけんな!」
神様が神になれなんて言うから、意識してたのかなぁ。
こちとら一月前まで普通の女子高生だったっーの!
そうだよ。私の目標は神に成ることじゃなくて、平穏無事に楽しく暮らすことだったよな。
「菜園に役立つ虫ならミツバチやなかか?」
「そうだな。手作業でやってた受粉も楽になるしな。上手くいけば蜂蜜も取れるかも」
『それは助かるでござる!』
『蜂蜜っすか! いいっすね!』
うんうん、蜂蜜は料理にも使えるし、ハチノコもあれでなかなか美味いんだよな。
「後は……畑ん番人と森ん掃除屋。ヘビミミズとムシャムシとかかな」
「ヘビミミズとムシャムシ?」
「ヘビミミズはそん名前ん通り、ヘビんごたーミミズ。ムシャムシはジパン国ん鎧に似た姿から、ジパン国ん戦士“武者”から取ってムシャムシと呼ばるー虫ばい」
あー、ダイオウグソクムシとか団子虫みたいな見た目なのかな。
落ち葉を食べて細かくしたものを微生物が分解して、それが植物の栄養になる。
おお! それだけで小さな生態系完成じゃないか!
「なら、微生物問題はソルの生物召喚でクリアしてるから、そのヘビミミズとムシャムシってのも捕まえよう。ミツバチ入れて、とりあえずその三種類を確保する!」
しかし、ジパン国ね……米とか味噌とか醤油とかあるのかね。
この国の料理も美味いから、別にまだ恋しい程じゃないが、行ってみるのもありかもな。
『おやつなのだー!』
『おやつの時間です』
方針も決まり、色々なものから解放された気分に浸っていると、ソルとナルが家に飛び込んできた。
「ん~……正解! じゃあおやつにするか!」
薄暗いダンジョンしか知らなかったソルとナルは、時間感覚がかなり人とズレていることが判明した。
昼夜を管理させるつもりが、気分で昼夜を入れ替えるから、昼頃なのに夜になったり、夜中に日が上ったりと滅茶苦茶だったのだ。
だから導入したのが三時のおやつクイズだ。
三時を正確に当てたら、美味いおやつが出てくる。
外れたらおやつのグレードが下がるので、時間を正確に知ろうと努力するようになり、まともに昼夜が過ぎるようになった。
『やったのだーセヨン!』
『当たりましたセヨンさん!』
「よしよし、ようやったな」
万歳しながらセヨンに突撃する二匹。
セヨンに抱きつき、にへへと笑っている。
この数日でわかったのだが、何故か二匹はセヨンによくなついている。
背丈が同じぐらいだからか?
「お前らセヨン好きだよなぁ」
『セヨンの話は面白いのだ!』
『物を大切にしてくれますしね』
セヨンの知識量は凄いから、話を聞くだけでも楽しいかもな。
ダンジョンコアだから、物もある意味同類か。
『それに……』
『懐かしい気配がするのだ!』
「懐かしい気配?」
「…………これが原因か?」
セヨンが腕輪を見せてきた。
そこにはめられた石は、ダンジョンマスターだった死王の魔石。
『おお! 確かにそこからダーナの魔力を感じるのだ!』
『新しく生まれ変わっていたんですね』
魔石は魔物にとって魔力を生み出す器官と言われているらしいが、死王の魔力って危なくないのか?
『大丈夫です。彼の今の役目はセヨンさんを守る事ですから。そう願い造られています』
『魂と意識はセットではないのだ。だから魔石になった時点でダーナの意識は消えているのだ』
モヒートの爺さんが孫の為に張り切って造ったからな。
そういやはじめて神様と会った時、私も記憶や意識に一部靄がかかっていた。
あれは普通は死ねば魂から記憶や意識が消える所を、神様が抑えてくれていたからあの程度で済んだのか。
『ダーナさんの《死戒の魔眼》はまだ残ってますね』
『まだ眠っているけどな! あれは凶悪なスキルだったのだ!』
「は?」
「スキルが……残ってる?」
私とセヨンはお互いの顔を見合わせた。
どういう事なの?
『魔石は魔物の魂の塊なのだ!』
『そしてスキルとは魂に焼き付いた刻印のようなものですから』
『普通は全部のレベルや取得が初期化させるけど、たまにダーナの魔石みたいにスキルが残る事があるのだ!』
『ダーナさんにとって《死戒の魔眼》は、よほど思い入れのあるスキルだったんですね』
魂に深く刻まれたスキルは、生まれ変わっても魂に残る。
それが、適性って事なのか。
幼い頃からスキルのレベルが高かったりするのは、前世で思い入れのあるスキルが魂に残っているから……って事か?
地球でいう、前世の記憶がありますみたいな。
「よくそんな事知ってたな?」
『なにを言ってるのだお姉ちゃん。ボク達は壁魔法というスキルの一部で構成された魔石なのだぞ!』
『正確には魔石を参考に生み出された存在ですけどね』
そういやダンジョンコアって、《壁魔法》スキルの一部を与えられた“生きた魔石”だもんな。
「原因は加工や……そうや、前々から仮説はあったんや」
「ん?」
固まっていたセヨンが動き出した。
そして、誰を見るでもなく喋りはじめた。
これはセヨン流の情報整理なんだよな。
「高ランクん魔石ば核にした方が、魔法生物ん知能は高うなる」
魔法生物の核は魔石を加工して作るんだっけ?
「そう、そしてうち達錬金術士は魔石ん知能に変わる部分ば情報リソースと呼んどーったいが、同じ種族ん似た個体であっても、稀に情報リソースに差が生まるー事があるったい」
魔力量の差がそのまま情報リソースの差になってるとか?
「魔力量が少なか魔物より、魔力量ん多か魔物ん方が情報リソースが少なか場合もあった」
魔法特化の魔物が必ずしも情報リソースの多い魔石を持つ訳ではないと。
「そこでうちが立てた仮説こそが、『情報リソースん大きさは、スキルん数とレベルに比例しとー』ちゅうもんやったんや」
確かに、それなら似た個体でも、違う行動をして新しいスキルを取得していたりしたら、情報リソースに差はでるな。
「やけん、うちゃ魔物んスキルは魔石に定着しとーと考えて、魔石ば加工してスキルん再現ができんか実験ば繰り返した。ばってんそれこそが悪手やったんだ!」
うおっ! いきなり叫ぶなビックリするわ!
「スキルは情報リソースに変わっとーけん、加工じゃつまらんかったんばい! もっと早う気付くべきやった!」
まぁ、情報リソースに変わって消えたスキルに、再現もなにも無いわな。
「スキルが強う残っとーはずん高ランク魔石なんて、加工して魔力集積ん媒体にするか魔力伝導率ば上げる触媒にするのが常識や。ばってんスキルば消さん為には、高ランク魔石ばただん装飾品にするような、トンボんごと考えなしな思考が必要やったんや!」
おい! 私をディスるの止めろや!
その言い方だと考えなしなのか考えてるのかわからねぇし!
だけどこれで……。
「つまり……この魔石に焼き付いたスキルを呼び起こせれば、神級魔道具は……人の手で造り出せる?」
『多分可能なのだ!』
『ですが、どうすればスキルが目覚めるかはわかりません』
『かっかっかっ! 我の眼を易々と使えると思うな、ドワーフの娘よ……』
ソルが手にした死王のぬいぐるみを動かしながら、死王のモノマネをしている。
『彼は“ほねほねダーナ君”です。箱庭のぬいぐるみ達の王になる存在ですよ』
ぬいぐるみ“達”?
『セヨンさんから道具と材料を貰って、今僕が作っています』
「ナルは裁縫するのか?」
『……まだ練習中ですけど』
恥ずかしそうに顔を赤くして俯くナル。
普通に可愛い。
今度私も何か買ってきてやろう。
『ボクもぬいぐるみを上手に動かせるように、お兄達とお姉とおままごとってやつをしているのだ!』
楽しそうだな。
私も今度混ぜてもらおう。
「二匹とも頑張ってんなぁ。偉いぞー!」
『『えへへー』』
「困難上等! うちも負けられん! 研究してくるー!」
私が二匹の頭を撫でていると、研究魂に火が着いたセヨンが、地下の研究室に走って行ってしまった。
「これからおやつなのに……セヨンの分は皆で分けるか」
『『わーい!』』
『待っていたでござる!』
『自分もっす!』
「……お前ら居たのか」
いつの間に小さいコタローとカルデラコンビが来ていた。
「おやつは食べる」
気まずそうにセヨンも戻ってきた。
全員食い意地張りすぎだろ。
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