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 2章.不意討ちの祭と風の試練

7.不意討ちと盗賊

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 夜の見張りは、常に2人が起きて1人ずつ交代しいく方式になった。
 私は最初と最後だけ起きればいい順番にしてもらった。
 楽した分は朝食の準備をする事でお返し。
 順調に行けば、今日の昼過ぎには風の大神殿に着くはずだ。

 朝食後、直ぐにテントの圧縮して出発した。


「Cランクに上がるには、盗賊とかの討伐記録がないとダメって、ギルマスが言ってたんだけど。クレイさんって、盗賊とか……殺したことある?」

「あるよー、護衛依頼の途中で襲われ時は返り討ちにしたし、盗賊退治なんて依頼もごくたまにあるからねー」

「そんな依頼もあるんですね」

「普通なら領軍の仕事だけど、相手の人数が少ないと、こっちに回ってくるんだよー。でも、人を殺したくないなら、リッチとか邪精霊、オーガなんかの喋る魔物の討伐でも、ランクは上がったはずー。難易度は段違いに高いからオススメしないけどねー」


 邪精霊は知らないけど、リッチとオーガは地球でも強キャラとして出てくる事が多いよね。
 

「なにかアドバイスとかってないですかー?」


 おっと、喋り方が移ってしまった。
 なんか特徴的で真似したくなるんだ。
 猫の目亭のミウちゃんの気持ちがよくわかる。


「ん~、アドバイスかー……月並みになるけど、盗賊の事はゴブリンだって思えばいいよー」

「見つけ次第の抹殺推奨……ですか?」

「そうだよー。オレは人が好きなんだよねー。だから、オレの好きを害する奴は、人じゃなくて敵なんだよなー」


 ああ、その理屈はよくわかる。
 私の大事なものを壊す奴は敵。
 シンプルな分わかりやすかった。


「ありがとうございます」

「トンボ、次、御者台」


 休憩の時間になったのか、セヨンさんが私を呼びに来てくれた。
 ついでとばかりに聞いてみる。

「セヨンさんは盗賊退治したことありますか?」

「ある。盗賊人困らす、冒険者、盗賊倒す、当たり前」


 久しぶりに出たね。
 セヨンさんの冒険者節が。


「ありがとうございます、セヨンさん」

「んー、なんかいるねー……馬車かな? トンボちゃんとセヨンは、急いで御者台に上がってー」


 その時、いつもより少しだけ真剣な声でクレイさんが指示を出した。
 一番高い所に居るから、何かを発見するのは一番早いはずだ。


「前方400メートル先、街道を塞ぐように馬車が横倒しになってるよー! パッキーさんは馬車の速度を落として、シャルムスとレインは警戒を強めて、トンボちゃんとセヨンはパッキーさんの直衛についてねー!」


「わ、わかりました!」

「「わかった!」」

「ん!」

「了解!」


 私とセヨンさんはパッキーさんを挟む様に、御者台に座った。


「馬車が壊れたフリして、助けるために近付くと襲いかかる。ってのは、盗賊の常套手段だ。パッキーの旦那どうする、時間は掛かるが迂回するのも手だぜ?」

「……いえ、本当に馬車が壊れているなら、手助けしないとなりませんから、このまま行きましょう!」


 シャルムスさんの忠告に、パッキーさんは少し考え、それでも進む道を選んだ。
 なるほど、護衛に見つかっても、パッキーさんみたいな正義感の持ち主相手だと、近づいてくるのか。
 これは常套手段にもなりますわ。
 でも、まだ盗賊と決まった訳じゃない。


「ならば御者を代わろう。パッキーさんは念のために荷台の方に隠れてくれ」

「は、はい!」


 パッキーさんに代わりレイン姉が手綱を握る。


「では、ゆっくりと近付くぞ! トンボちゃんも、覚悟はいいな?」

「はい! 後私にいい考えがあります!」


 馴れた様子のレイン姉達に任せるのもいいけど、どうせならリスクは少ない方がいいよね。
 
 
「あっ、すみません! 私は行商人なのですが、荷を載せた馬車が壊れて、街道を塞いでしまい困っていたのです。荷と馬車を街道脇に移動させるのを手伝ってくれませんか?」


 馬車に近付くと、髭もじゃなおじさんが揉み手しそうな笑顔で話しかけてきた。
 怪しい。
 それとも、盗賊かもって先入観があるからそう感じるだけ?


「お前は1人か……他に同行者は?」


 レインさんが確認の為に声を掛ける。


「はい私1人です。ですが1人では馬車を動かせず……」

「だってトンボちゃん」

「わかりました、手伝いますね!」


 おじさんの返事を受けて、私はあらかじめ立てておいた作戦通りに、壁魔法を発動させた。


「壁魔法『エレベーター』! 上へ参ります!」


 馬車を壁魔法で囲み、アイテムボックスの要領で浮かせる。
 高く高く、もし人が馬車から落ちたら、大怪我するであろう高さまで。

 コンテナを覚えてからは、時間は掛かるが重さの調整もできるようになった。
 馬車1台なら私の魔力ギリギリ一杯を込めれば持ち上げられる。
 レイン姉と話している間に準備はしていたんだ。


「なっ?! 何をしてんだ!!」


 高く浮かび上がった馬車を見て、唖然としていたおじさんの顔が凶悪な表情に歪んだ。


「何って手伝ってるんですよ? どうせ馬車を退かしたら放置しないといけないんですよね? だったら風の大神殿までなら、このまま運んであげますよ!」


 私が笑顔で返すと、おじさんが言葉に詰まる。
 本当に商人ならこのまま運んであげればいいし、もし馬車の中に人が隠れていれば……。


「なんで飛んでんだよ?!」

「知るかよ!」

「下ろせー! 俺は高い所がダメなんだ!」


 浮いた馬車から数人の男達が顔を出して叫んでいる。
 あんな風に顔を出すよね。


「あれれ? 1人だったはずでは?」


 わざとらしく首を傾げて見せれば、おじさんは舌打ちを1つして、背後に隠していた短剣を抜いた。


「おい! やれっ!」


 おじさん、正体を表した盗賊が、街道脇の森に向かって叫ぶと、1本の矢が私めがけて飛んできた。
 残念! 森に仲間が潜んでいる可能性も想定済みだ!
 レイン姉が飛んできた矢を、剣で叩き落とそうとする。
 しかし、それよりも速く、弐式手甲が飛んできて矢を弾いた。

「あっ! ずるいぞセヨン!」

「早い者勝ち、トンボは、ワタシが守る」
 
「喧嘩すんなよーっと!」


 クレイさんは、睨み合う2人をたしなめながら矢を放った。
 クレイさんの矢は、私を狙った矢が飛んできた方へ飛んでいき、小さな悲鳴と何かが落ちる音が聞こえた。
 どうやら木の上に潜んでいたらしい。


「はい、確保! これ以上暴れると、おっさんのナイフがザクッといくぜ?」


 そして短剣を抜いた盗賊は、既にシャルムスさんに捕まっていた。

 
「くそ! なんなんだよテメェら!」

「聞きたい? 聞きたいの? ならば教えよう! 私達こそラプタス最強の矛と盾! 『不意討ち』のトンボ!」

「『大鎧』の、セヨン」

「「2人揃って、『グル・グルヴ』!」」

 
 練習したかいあって、ビシッと名乗りをあげる事ができた!


「むっ、プラス『チームTF』だ!」

「はははっ、トンボちゃん達は面白いことするねぇ!」

「うん、楽しそうだねー」


 私達の名乗りに、何が不満なのかギャーギャー騒ぐ盗賊を無視して、森にいた狙撃手と一緒に縛り上げる。
 大神殿には騎士がいるそうなので、上の盗賊と一緒に連れていき、引き渡すことにした。
 これで私もCランクになれるかな?





ーーーーーーーーーー

 まだトンボが人を殺すのを、アリにするかナシにするか迷っています。


 
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