上 下
43 / 48
 2章.不意討ちの祭と風の試練

5.不意討ちの収納ボックス

しおりを挟む

 私はカウンターに置かれた、ガマ口財布を手に取った。
 開けてみる。
 ガマ口の中には、そこの見えない闇が広がっていた。怖っ!


「今財布と言ったか? これは財布なのか?!」

「え? うん、どうみても財布だよ?」


 いきなり詰め寄ってきた、おっちゃんのデカイ顔に驚きつつ、私は肯定した。


「ふ~む、やはり渡り人の持ち物だったか、だがこれで合点がいった!」


 そう言うとおっちゃんは顔を離し、私の持ったガマ口財布を指差した。


「それはな、何故か金しか入れられないマジックバッグなのだ!」

「そうなの?」

「そうだ! 本来マジックバッグとは、生きているもの以外なら、容量が許す限り何でも収容できるものだ! そのマジックバッグのように、機能が限定されているなど通常ではありえん!」


 鼻息荒く力説するおっちゃん。
 おっちゃんって、何かを解説すんの大好きだよね。


「本来マジックバッグは風の神の権能の内だ。俺様もこれを手に入れた時に、風の大神殿にまで足を運び、視てもらったことがある。しかし、何もわからなかった所か、風の神殿で作られた物ではない、と言うではないか」


 マジックバッグって、風の大神殿で作られてたんだ。
 それに何で風の神様の権能なんだろう? 
 関係あるの?


「何を言っている。昔から何かを運ぶのは風と決まっておろうが! 故に風の神は商売の神でもある! だから、マジックバッグという、運ぶのに最適な魔道具をを作れるのだ!」


 風の便りとか、風の噂とかも風がついてるしね。
 風というと、私の中ではタンポポの綿毛が飛んでいるイメージが強い。
 確かに風は何かを運ぶもので、商品の流通なんかとは切り離せない商人が、信仰する気持ちもわかる気がする。


「納得した! でも、風の大神殿で作られていないってことは、誰が作ったのこれ?」

「貴様と同じ渡り人に決まっとろうが! それを見ただけで財布とわかったのが、いい証拠だ!」


 確かにそうだ。わざわざガマ口財布をマジックバッグにするとか、前の渡り人は何をしてんだよ。


「試しに何か入れていい?」

「構わんが、金以外は弾かれるぞ?」


 いいのいいの、物は試しって言うでしょ?
 もしかしたら、渡り人だけは制限無しかもしれないしね。
 私はナイフを取り出してガマ口に入れようとした。


「おまっ! 止めっ!」


 おっちゃんの制止虚しく、バチッ! と弾かれたナイフが私の顔面を掠め、セヨンさんの足元に突き刺さった。
 

「ぎゃー!」

「バカ! トンボ! バカ!」

「弾かれると言っただろうが!」


 いや、もっと軽い抵抗があるぐらいかなって思うじゃん! 手が痺れる程の力で弾かれるなんて、思わないじゃん!
 オフの日仕様で、防具を身に着けていなかったセヨンさんもガチギレである。


「くそー! うっかり神めー!」

「女の子、くそ言わない! 創造神様、関係ない!」

「うぅ~、すみませぇん」

「まったく、これでわかっただろう? 金以外は弾かれる!」


 セヨンさんに怒られてしまった。
 ただ、おっちゃんの言葉で思い出した事があった。


「弾かれて飛んだナイフの所為で、言うの遅れたけど、弾かれた瞬間、壁魔法の力を感じたよ」

「何? では、このマジックバッグは、壁魔法を使って作られているというのか?」

「ん~多分? ガマ口の中に壁魔法で囲った部屋があるんじゃないかな?」


 私は2人に壁魔法の特性について語った。

 壁魔法で囲った内側は、実は壁魔法の術者がある程度いじれるのだ。
 これは以前にスライム討伐の教訓から編み出した、臭いを遮断する壁。それを作る実験中にわかった事だ。
 臭いだけでなく、物の選別もできた。
 トンボ式アイテムボックスの中に、様々な硬貨を入れて、銀貨のみ壁を通り抜けられるようにしたいと念じると、空に浮いたアイテムボックスの中から、銀貨だけが落ちたのだ。
 もし壁の中の設定で、囲った内部の面積よりも空間をねじ曲げて広げられるなら、このマジックバッグみたいな物も作れるかもしれない。


「空間の拡張さえできれば、物を限定させることは可能だからね。前の渡り人はこれを、純粋に財布として使ってたんだろうね」

「……壁魔法とは、聞きしに勝る壊れっぷりだな。神の権能すら模倣するとは」

「壁魔法、凄い。調べたトンボも、凄い」

「いや、ははは……」


 つい調子に乗って実験しまくって、魔力がなくなって倒れたのは内緒だよ!
 そうだ、魔力切れと言えば、昨日サナと模擬戦をして確認できた事があったんだ。


「おっちゃん私さ、魔力の回復が異様に早くなったんだけど、大丈夫かな?」

「それはいつからだ?」

「多分、スタンピードで倒れたて、目が覚めてから」

「ふむ……以前、魔力ポーションを使った魔力量の底上げ訓練の話をしたな、覚えているか?」


 確か、魔力を使い切っては、魔力ポーションを飲んで回復させて、魔力量の上限を上げようって訓練だったはず。
 ただ、死人が出てしまうような狂気の訓練で、直ぐに廃れたんだっけ?


「そうだ。その訓練を貴様は実践したのだろう? スタンピードの最中に」

「あっ」


 そうか、私狂気の訓練してました。


「でも、魔力量は上がってないよ私?」

「訓練はあくまでも、魔力量の上限を上げてみようという実験的なものだったのだ。実験では、魔法を多く撃てるようになったと言われていたが、何度も同じ魔法を撃つことで、魔力の効率的な編み方を覚え、結果多く撃てるようになっただけなのかもしれん」

「じゃあ、私のは?」

「仮説だが、魔力ポーションの大量接種により、魔力経路が拡張したのかもしれない。通り道が広くなれば、当然通れる量も増えるという事だからな」


 そこで言葉を切ると、おっちゃんは難しい顔で私の顔を見てきた。


「普通なら、体感出来るほど魔力経路が広がれば、その余波で全身の神経もボロボロになるハズなんだが……本当に身体に異常はないんだな?」

「トンボ……」


 おっちゃんの言葉に、セヨンさんまで泣きそうな顔を向けてきた。


「大丈夫だよ! 多分うっかり神の仕業じゃないかな?」


 私の身体を再生させる時に、損傷した部分は再生させたけど、広かった魔力経路は損傷と認識されなかったとか。
 うっかり神ならやってそう。


「ふむ、あの光った時か……」

「ピカピカ、してた」

「うっかり神もたまには良いうっかりもするんだなぁ」


 私はウンウン頷きながら感慨にふける。
 余計な事をさせない方が、やっぱりいいんだよ。うっかり神は。


「じゃあ、問題なさそうかな?」

「恐らくは、だがな。不調を感じたら直ぐに言えよ!」

「わかった! ただし! 次この前みたいなことになったら、潰すからな?」

「う、うむ……!」


 この前とは、あの絶壁事件の事だ。もう1度目の粛清はしたけど、二度あることは三度ある派の私は、三度目は与えない主義なのだ。


「トンボ、次、何かあったら、真っ先に、話す、わかった?」

「うっ、すみません」


 またセヨンさんに怒られてしまった。
 相談されなかったのが不服だったらしい。
 

「でも、特に問題ないなら、これはかなりの戦力アップですよ。昨日サナ相手に確かめた結果、1分間に5枚ぐらいなら、魔力の回復が同じ位で追い付きます。魔力量は増えてないので、いきなり強い壁は作れませんが、凄い時間を掛ければ、魔力ポーションを使わず、あの時の壁魔法も再現できそうです」


 あまりおおっぴらには言えないけど、3時間位掛ければ作れる気がする。


「それ凄い。でも、無理する、ダメ」

「ならば、時間を掛ければそれの再現も可能なのではないか?」


 おっちゃんの言葉に、私は手にしたままのガマ口財布を見た。


「空間の拡張は……さすがに難しいかも。でも、逆ならいけるかも?」


 空間の拡張は、壁で囲って指定した空間に、大量の魔力を一気に送りつけて、強引に拡張する必要がありそうだった。
 魔力量は変わらない私にはこの方法は無理だ。
 その代わり、壁を内側に収縮させることはできそうだった。
 こっちは中の物を壊さないように、少しずつ魔力を送る必要があるが、私には向いている。
 まぁ、前者の方法ができるなら、こっち時間も掛かる分無駄の極みだけどね。

 試しにカウンターの上にある、組み立て式のテントを、トンボ式アイテムボックスで囲ってみる。
 そして、収縮させる。
 イメージは圧縮布団? ダメだ、空気は抜けるけど空間が縮む訳じゃなかった。
 じゃあ、昔テレビで見た、深海に持って行ったカップ麺の容器。
 深く沈んでいくと、見た目はそのままに段々縮んでいく、発泡スチロール製の容器だ。

 壁に向かって魔力を流していく。
 外側から内側にじわじわと、アイテムボックスごと収縮させながら。
 魔力はかなり使う。
 まだ私の魔力回復の方が勝っているが、それでも一度でも魔力を流すのを止めたら、失敗する気がする。
 慎重に焦らず、じっくりと時間を掛ける。


「できた!」


 どれくらい経っただろうか、限界まで収縮させることができ、壁の中は私の魔力が満ちて安定している。
 それなりの大きさだった、テントを囲ったアイテムボックスは、手のひらサイズの箱になっていた。
 箱の中には、見た目はそのままで、サイズだけが縮んだテントが入っている。


「ふーむ、テントが30分でこのサイズに縮むとは、いやそもそも空間を圧縮? そんなことが可能なのか……壁魔法とはデタラメだな」


 おおう、30分も集中していたのか。
 便利だけど、使い勝手は良くなさそう?


「小さくなった。これ、もどる?」

「戻してみますか? ん~……そい!」


 私が“戻れ”と念じると、収縮したアイテムボックスは、一瞬にして元の大きさに戻った。
 スゲー! リアルポ◯ポ◯カプセルじゃん!
 

「どうやら破損も見られないようだな」

「あのサイズ、持ち運び、便利」

「うんうん、名付けて『トンボ式コンテナ』の完成だ!」


 私は新たな技を編み出した。
 これで『グル・グルヴ』の、ラプタス最高の運び屋の地位は、磐石になったのだ!

 野営道具一式は、お買い上げ後猫の目亭の自室で、時間を掛けて圧縮した。
 地味に辛かった。
 でも、これは色々使えるぞ!

 




ーーーーーーーーーー

 最近無能チートがチートし過ぎてる気がする。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~

ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か―― アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。 何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。 試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。 第13章が終了しました。 申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。 再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。 この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。 同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。

彼女は予想の斜め上を行く

ケポリ星人
ファンタジー
仕事人間な女性医師、結城 慶は自宅で患者のカルテを書いている途中、疲れて寝ってしまう。 彼女が次に目を覚ますと、そこは…… 現代医学の申し子がいきなり剣と魔法の世界に! ゲーム?ファンタジー?なにそれ美味しいの?な彼女は、果たして異世界で無事生き抜くことが出来るのか?! 「Oh……マホーデスカナルホドネ……」 〈筆者より、以下若干のネタバレ注意〉 魔法あり、ドラゴンあり、冒険あり、恋愛あり、妖精あり、頭脳戦あり、シリアスあり、コメディーあり、ほのぼのあり。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

処理中です...