14 / 48
1章.無能チート冒険者になる
14.無能チートは『グル・グルヴ』
しおりを挟むやって来ました冒険者ギルド!
我ながら図太い神経しているので、枕が変わったら眠れない、なんてことはなく。昨晩はぐっすり眠り、朝食も美味しくいただいたので、元気はつらつです。
という訳で、さっそく依頼を確認しに、クエストボードへ近くと、後ろから声をかけられた。
「おい、ちょっといいか?」
「ん? げっ!」
変な悲鳴をあげてしまったが、それも致し方ない、何故なら、振り向くとそこに、昨日のグズ野郎と、その仲間が立っていたのだから。
「昨日の報復に来たんだな?! 返り討ちだ!」
愚かなりグズ野郎。声をかけて、不意打ちの利をみすみす手放すとは!
逆にこっちが先手を取る!
「トンボ、待つ。話聞く」
足を振りかぶり、母直伝の金的潰しのをしようとした私を止めたのは、冒険者仕様の、セヨンさん(大鎧バージョン)だった。
「おい! この嬢ちゃん、躊躇なく股関蹴り上げようとしたぞ?!」
「それは、昨日の態度、悪かった所為。自業自得」
「ぐっ、確かにそうだが……」
なんと、グズ野郎とセヨンさんは、普通にお喋りをはじめたではないか。
私は、訳がわからず、口を開けてそれを見ていた。
「……どういうことなの?」
思わず吐いて出た疑問にセヨンさんが答えた。
「ロジャー、確かに酒癖最悪。でも、普段は、普通に良い冒険者。新人の面倒、よく見てる」
「酔っぱらうと、どうしても口と態度が悪くなってなぁ。しかし、酒は好きだから、ついつい飲み過ぎちまうんだなぁ」
だなぁじゃねーよ。なんだそのDV夫みたいなのは。
ただ、罰が悪そうに頭をかいている、グズ野郎改めロジャーを見ると、顔は強面気味だけど、そこまで悪人には見えなかった。
「昨日は嬢ちゃんにも、セヨンにも悪いことしちまったからよ。改めて謝らせてくれ……すまなかった」
しっかりと頭を下げるロジャー。
どうやら、セヨンさんの言っていることは合っているらしい。
「はぁ、罰としてランク下げられた見たいですし、ギルマス直々のお説教も食らったんでしょ? なら、セヨンさんが許すなら、私も許すよ」
「ん、ワタシは、もう気にしてない」
「だそうよ。ただし! またセヨンさんにちょっかいかけたら、次は切り落とす!」
セヨンさんの即答に、やれやれと肩を上げる。
もっとチクチク詰ってもいいのに。
「どこをだよ?! だが、許してくれてありがとよ。嬢ちゃんには、自己紹介がまだだったな。俺はロジャー、『獅子のたてがみ』のリーダーをしている。よろしくな!」
「獅子のたてがみ?」
「ロジャーのパーティー、名前」
私の疑問に答えてくれたのは、セヨンさん。
「なんで『獅子のたてがみ』なの?」
「えっ、カッコいいだろ?」
「理由が下らないなっ?!」
そう言いつつ、少しカッコいいと思っていたのは秘密だ。
「ロジャーがリーダーで大丈夫なの?」
「おいっ! 酷くないか嬢ちゃん!」
「私は真壁蜻蛉だよ。蜻蛉さんって呼びなよ?」
「なんか俺の扱い悪くない?!」
出会いが最悪だったから、当然、敬称はつけない。昨日の事はまだ根に持ってはいるし、扱いは“ゴブリンよりはマシ”程度でいくよ。
「ゴブリンよりマシ……」
顔を引きつらせるロジャーに、後ろで見ていた彼の仲間が、ぎゃはははっ、と耳障りな声で爆笑した。
お前らそれがデフォルトの笑い声かよ!
どうやら彼らの笑いに悪意はなかった様子。
「お前らっ! くそっ、ランク下げられたのは俺のせいだから、強く言えねぇ」
ランク下げられても付いていく辺り、この人達もそこまで悪い人じゃないのかな?
「とりあえず。トンボの嬢ちゃんは、何か困ったことがあれば頼ってくれ。迷惑料がわりに、手伝えることなら手を貸すからよ。じゃあな!」
言いたいことを言って、『獅子のたてがみ』は去っていった。ちゃんと“さん”つけなさいよ。
改めてて、私とセヨンさんは、クエストボードに向きなおった。
「トンボ、依頼は薬草採取にする。新人、みんな通る道」
「なるほど、王道ですね」
セヨンさんの勧めに従い、クエストボードから、常設依頼の『薬草採取』と書かれた依頼票を外すと、受付まで持っていった。
「ひぃ、と、トンボ様?! な、何かご用でしょうか?!」
空いていた受付に行くと、エルティスさんが居た。相変わらず、ビビり過ぎである。
「こんにちはエルティスさん。薬草採取の依頼を受けたいんですが」
下手につっこむと、余計に悪化しそうなので、私はにこやかな笑顔で、依頼票をエルティスさんに手渡した。
「は、はい、採取依頼ですね。トンボ様は薬草がどんなものかご存知でしょうか?」
「すみません、知らないです」
「では、こちらをご覧下さい」
仕事モードになったエルティスさんは、カウンターの下から分厚い本を取り出し、慣れた手つきでページを捲った。
そして、草や花の絵が沢山書かれたページで止めると、見やすい様に、こちらに向けて見せてくれた。
「こちらが薬草の絵になります。薬“草”と言いましても、実は成長しきっても背の低いままの、『スダの木』に生える葉の事を言います」
エルティスさんが指差した所に描かれた絵は、日本で垣根に使われている木に似ていた。違うのは、スダの木の方が、葉っぱが大きい所かな。
それにしても、成長しても背が低いとは、ドワーフみたいな木だな。
「スダの木は根元がうっすら青みがかっていますので、それを目印にするとよろしいかと。それと、一本のスダの木から取れる薬草は、半分までと決まっています。それ以上はスダの木の再生力が追いつかず、枯れる原因になってしまいますので、お気をつけ下さい」
「はい、わかりました!」
なるほど、よく考えられてるなぁ。薬草が無くなったら皆困るしね。調子に乗って取り過ぎないように気をつけよう。
「では、依頼の受注に移ります。依頼の受注は、トンボ様個人だけでよろしいですか?」
「違う。私の、ランク降格作業して、そしたら、トンボとパーティー組む」
私の後ろから鎧の手を伸ばし、エルティスさんに自分の冒険者カードを渡したセヨンさん。
「かしこまりました。では、セヨン様のDランク降格処理をいたします。パーティー申請の受理もしますので、トンボ様の冒険者カードもお預かりします」
「よろしくお願いします」
私達のカードを受けとると、エルティスさんは傍らの魔道具らしき装置に差し込んだ。
キーボードを操作するような手つきで、指を動かしながら、エルティスさんがこちらに顔を向けた。
「パーティーの名前はどうしますか?」
「トンボ、任せた」
「むむっ、責任重大ですね!」
う~ん、パーティー名かぁ。
カッコいい系でいくか、かわいい系でいくか、ネタっぽいのは無しで考えよう。
「セヨンさんが大鎧で、私が蜻蛉切り……あっ、セヨンさんは大鎧って言われるの嫌でしたね。すいません!」
「大丈夫。トンボ、言った通り、私の鎧立派。今は……誇ってる」
「そ、そうですか?」
なら、良かった。
防御のセヨンさんと攻撃の私。二人でそれを極めると言う意味を込めて。
「セヨンさん、ドワーフの言葉で『矛盾』ってなんて言うんですか?」
「ん? 矛盾? それなら……」
そもそも矛盾で通じるのか? と思ったけど、どうやら似たような言葉がこちらにもあったらしい。
「『グル・グルヴ』」
「ぐるぐる?」
「グル・グルヴ。グルは大昔のドワーフ、グルヴは槌。グル、炉を使わず、強い盾と鎧作ったドワーフ。強い防具、グルが振るう槌で作った。だから、防具より、グルの槌、つまり、グルヴの方が強い、人々は思った。そんな昔話」
流暢に話されると、聞き取れなかったけど、単語だけなら聞き取れた。
グル・グルヴ。直訳するとグルの槌。
ドワーフのグルさんは、炉を使わず、金属を叩いて伸ばして防具を作った変わり者で、凄い防具を作るけど、金属を叩いて伸ばした、彼の槌の方が強いんじゃね? って皆思い、グルさんの防具と槌は、本当はどっちが強いのかわからないってこと?
「結局どっちが強かったんですか?」
「わからない。グル、物作る以外、槌振るわなかった、言われてる」
「あくまで鍛冶師であり続けたんですね」
「そう、ワタシも強い鎧作る。グル、リスペクト」
「じゃあ、決まりですね! 私がグルの持つ槌に、セヨンさんがグルの作る鎧に、パーティー名は『グル・グルヴ』で! エルティスさんお待たせしました。私達のパーティー名は『グル・グルヴ』でお願いします!」
「いえ、大変興味深いお話を聞かせて頂きました。では、トンボ様とセヨン様のパーティー名は『グル・グルヴ』で登録します」
はじめて私に、柔らかい自然な笑顔を向けてくれたエルティスさん。しかし、直ぐにキリッとした表情に戻り、操作を続けた。
「はい、セヨン様のランク降格処理と、トンボ様とのパーティー申請、『グル・グルヴ』の薬草採取依頼の受注を完了しましたので、冒険者カードをお返しします」
全ての作業を、あっという間に終わらせたエルティスさんから、冒険者カードを受け取ると、エルティスさんは笑顔を浮かべ、ゆっくりと頭を下げた。
「最近、森の魔物の活動範囲が変わってきたとの報告もありますので、セヨン様、トンボ様、お気をつけ下さい。では、いってらっしゃいませ」
「行ってきます!」
「ん、行ってくる」
エルティスさんに見送られ、私達『グル・グルヴ』は、パーティー初依頼に出発した。
ーーーーーーーーーー
名前の由来は、二人組でなんか参考になるのないかな? と思った時、「魔方陣ぐ○ぐ○」のク○リと○ケの絵が目に入ったから、そこから持ってきました。
グル・グルヴは完全に造語です。“ヴ”はグルと打った時、予測変換でグルーヴとでてきたので、伸ばし棒だけ取って残した結果です。
0
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説
異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか
片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生!
悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした…
アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか?
痩せっぽっちの王女様奮闘記。
けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~
ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か――
アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。
何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。
試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。
第13章が終了しました。
申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。
再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。
この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。
同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。
異世界産業革命。
みゆみゆ
ファンタジー
あらすじ
非モテ軍オタが転生して理想の帝国を樹ち立てる話です。
美末(みすえ)の『手の平』からは色々と出て来ますが、主人公はその『能力』をなるべく使わず、自然な形で産業革命を起こし、世界統一を目指さんとします。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる