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 1章.無能チート冒険者になる

8.無能チートとギルドマスター

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「うるせぇぞ! なに騒いでんだ!」


 セヨンさんにお礼を言われ、うひょい、と喜んでいると、2階へ続く階段から、怒鳴り散らしながら、スキンヘッドの大男が降りてきた。


「あん? ……エル! 説明しろ!」
「は、はい、ギルマス! えっと……酔ったロジャー様がセヨン様に絡んで、女の子が魔法で返り討ちにしました!」


 大男が、まだ呆然としているグズ野郎と、私達を順番に睨んでから、受付カウンターにいるエルさん? に状況説明を求める。
 エルさんは背筋をピンと伸ばし、敬礼でもしそうな勢いで説明した。
 というか、この人ギルマスなの?! 傷だらけの顔は、どう控え目に見ても、ヤの付く職業の人なんですが。


「女の子? お前さん、セヨンの連れか?」
「ギルマス、この子、トンボ。冒険者登録、しに来た。ワタシが保護者」


 恐ろしい顔に睨まれ、私はセヨンさんの後ろに隠れた。
 すかさずセヨンさんが説明してくれる。


「登録前かよ……冒険者同士の喧嘩はご法度だ。ロジャーのパーティーはランクを一つ落とす。保護者だってんなら、セヨンもランクを一つ落としてもらう」
「わかった、それでいい」
「なっ?! なんでだよ?!」
「あん? お前ら酒飲んで絡むの何度目だ? 散々注意してんだろうが! なんなら除名処分でもいいんだぞ!」


 セヨンさんはその決定を受け入れたが、ランクを落とすと言われ、ようやく我に返ったグズ野郎の方は、一度反論しようとして、ギルマスに怒鳴られ力なく項垂れた。
 ていうかロジャーって、海賊の王様かお前。似合わないぞ。
 グズ野郎はざまぁだが、私にだって言いたいことはある。


「ちょっと待った! なんでセヨンさんまでランクってのを落とされないといけないの!」
「……お前さん魔法使ったんだろ? しかも、そこの剣を見りゃ、殺傷能力十分な威力ってわかる魔法をだ。普通なら憲兵に突き出されても文句は言えないんだぜ?」
「うっ……」


 私の短絡短気のアホ! セヨンさんは私の壁魔法が攻撃に使えないって思ってるから、魔法の使用についての注意をしなかったんだ!
 考えてみれば、実際に使えるかわからないし、下手したらグズ野郎ごと、真っ二つの可能性もあったのか。我ながら恐ろしいぜ!
 それでもセヨンさんを巻き込むのは、私自身が許せなかった。


「それなら、ギルドの管理責任はどうなんですか?! そもそも喧嘩がご法度なのに、飲酒して絡むような奴を放置してるの? 注意だけじゃなく、冒険者が多く利用するここでは、禁酒をさせればいいでしょ! 酒場はここだけじゃないんだから!」


 私はグズ野郎達を指差して力説する。
 指を差されたグズ野郎は、完全に酔いが覚めたのか、ばつの悪そうな顔をしている。


「それに、もし私が依頼人だったらどうするの? 大口の依頼をする上客になるかも知れないのに、酔って絡むグズの所為で台無しになる所だったんだよ! 周りで無関係そうにしている他の人も、そうなって損するのはあなた達なんだから、絡まれそうなら止めないでどうするの!」


 更に、周りで面白い見世物を楽しむように笑っている冒険者に言及し、睨みつけた。
 何人かの冒険者はスッと目を反らした。
 

「受付の人も、そういうのを防ぐのも仕事でしょ? 自分じゃ判断できないなら、即座に上司……ギルマスを呼ぶぐらいすべきでしょ!」


 今度はエルさんに視線を向けると、ギルマスに睨まれた時と同じように、背筋を伸ばし固まった。おかしいな、睨んではいないんだけど。


「以上のことから、今回のようなことを、防ぐ決まりや空気を作れなかった冒険者ギルド側にも、非はあると思います!」


 そこのとこ、どうなんですか? と、気分は謝罪会見の記者だね。
 

「はぁ、まったくよく口が回る奴だな。確かに、こっちにも反省すべき点はある。しかし、決定は覆らん。そもそも、ランクの降格はセヨンが望んでいることだ」
「はえ?」


 私はセヨンさんの方を見る。
 きっと、今の私は心底間抜けな顔をしていただろう。


「保護者、わざわざ言う必要、なかった。トンボに責任、いかないようにも、ある」


 だけど、とセヨンさんが話を続ける。
 要は、冒険者にはランクがあり、同じパーティーを組むには、同じランクか、上下1つ以内じゃないといけないらしい。
 寄生と呼ばれる、実力詐称のランクアップ行為を防ぐ為の決まりとのこと。
 そして、登録するとEランクから始まり、セヨンさんはCランクの冒険者。


「トンボとパーティー組む、Cランク無理、最低でも、Dランクなる必要ある」
「えっと、じゃあ……」
「ギルマス、それ察した。トンボ、無駄骨?」
「うわぁぁ! 私完全に余計なこと言ってた?! というか、もしかして……」


 私全方位に喧嘩売ってない?
 崩れ落ちて膝をつく私。


「ああ~、私の冒険者生活が早くも終わってるぅ~」
「大丈夫、トンボ、私の為に怒った、わかってる」
「うう……セヨンさん……」


 セヨンさんが私の頭を撫でてくれた。
 ゴツゴツした鎧の手が痛い。


「くっくっくっ、いやいや、あのセヨンが保護者なんて言い出した時は、まさかと思ったが、ちゃんとやれそうじゃないか」


 それを見てギルマスが笑う。強面すぎて、悪巧みしているようにしか見えない。恐いです。


「それに、安心しろ嬢ちゃん。なんだかんだ、荒っぽいのが多いのが冒険者だ。今回ここまで言ってのけたんだ。お前さんを侮るやつはいなくなる。義理を重んじる奴も多いから、お前さんの行動は好意的に見られるさ」


 顔に似合わず、優しいことを言ってくれるギルマス。ノリがいいのも多いのか、その言葉に何人かの冒険者がサムズアップで応えた。


「とりあえず……エル! 新規の登録だ! 受付てやれ! 俺は酔ってバカなことした奴等に説教をする!」


 ギルマスが言うと、はいぃ、とエルさんが涙声で返事した。
 そのまま、とんでもない力でグズ野郎達を引きずり、2階に戻っていくギルマス。
 抵抗もできず階段ですりおろされる姿を見ると、少しは溜飲が下がった。あっ、頭ぶつけた痛そう。


「トンボ、冒険者登録、する」
「はい!」


 今度こそ、私は冒険者になるんだ!





ーーーーーーーーーー

 我輩は元冒険者のギルマスである。名前はまだ無い。
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