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1章.無能チート冒険者になる
2.チートの名は『壁魔法』
しおりを挟む「ここは、森?」
光がおさまると、私は人気のない深い森の中に立っていた。
目線の高さから身体の大きさは生前と変わらないみたいだ。
赤ちゃんからはじめる転生ではなく、異世界転移に近いのかな。神様も再生するみたいなこと言ってたし。
でも、いきなり森の中とか、異世界ものではよく聞くけど、実際にやられるとすごい不安になる。
「とりあえず、持ち物確認しよう」
まず、身に付けているもの。
動きやすい半袖のシャツにショートパンツ。その上からフード付きのローブを羽織っている。シャツは現代的なゴムではなく、皮の紐で調節するような中世の服のようだった。
足にはブーツを履き、ショートパンツを留めるベルトの背中側に、ナイフが皮のケースに納められたまま吊ってある。
なんか全体的に斥候(スカウト)みたいな格好。
ナイフを抜いてみると、よく磨かれた両刃の刀身に私の顔が映る。
肩よりも少し短めに切り揃えられたショートボブ。少し太めの眉毛。男勝りに気の強そうな眼。生前鏡でよく見た顔だ。
「……姿が一緒なのは地味に嬉しいかも」
向こうの両親が残してくれたものだ、繋がりが残っているようで少し安心した。
「あとは……」
ローブをバッサバッサと捲ってみたり、身体中触って確かめたりした。
が、なんと以上だった。
「……は?」
身ひとつ、ナイフ1本。以上。
はぁ? これマジですか? いやいや、あり得ないでしょ。
いや、待て。そうだ、ここは異世界だった。きっとテンプレートがあるに決まってる。
「という訳で……ステータスオープン!」
ステータスオープン……タスオープン……オープン……プン……。
森の中に私の声が木霊する。
「くっ! アイテムボックス!」
アイテムボックス……テムボックス……ボックス……クス……。
再び私の声が虚しく響いた。正直とても恥ずかしい。
「……嘘でしょ?」
恥ずかしさが、異世界に浮かれ気味だった私の心を、強制的に落ち着かせる。すると焦燥感が徐々に沸き上がってきた。
まさか私、どこともしれない森に、ナイフ1本で放り出された?
「え?」
もしかして、騙された?
いや、あの時の神様は誠意ある対応をしてくれていた……と、思う。
じゃあなんで?
はたと思い出す。あの空間で見た神様の顔。深い隈が刻まれた眼を。
そうだった。あの神様は徹夜し過ぎのうっかりミスで、私の肉体を消滅してくれやがった、うっかりさんだった。つまり、
「あんの神様……」
やってくれたな! きっと、うっかりして荷物の用意を忘れたんだ!
言いがかりに近い言い分だが、実際の所ほぼ合っていた。ただ、飲み食いせず、金銭を使わない神が、人に必要な物をそこまで理解しておらず、護身用にナイフだけを渡した結果である。
「この分じゃチートだって……ってそうだ! チートは?! 私のチートスキル!!」
瞬間、私の頭の中に情報が流れ込んできた。
チートスキルとその使い方。
「壁……魔法?」
壁魔法。それが神様がくれたチートスキルの名前だった。
神様のセンス! 名前ダサいよ!
そんな私の悪態に罰を与える様に、目の前の藪から、緑色の肌をした醜悪な二足歩の生物が姿を表した。
手に太い木の棒を持ったソレの、血走った眼がギョロリと動き、私を捉えた。
「ゴ……ゴブリン?」
私の異世界初遭遇。それは、ファンタジー世界の有名モンスター『ゴブリン』だった。
ーーーーーーーーーー
世の異世界モノの、初手ゴブリンの多さよ。
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