【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第六章:終ワラナイ遊ビ

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 その後しばらく道の先を行くと,辺りはどんどん明るくなっていった。
 天井,壁,床など,至るところに大量の明かりが設置されている。
 しかし先に歩けば歩くほど,地面に水たまりが増えていった。そして,いつの間にかスウェンたちは,工場のような所に着いていた。物珍しいものがたくさん目に入る。
 巨大な機械が部屋の中央に設けられていて,作動していないベルトコンベヤーの上に,小さな袋がいくつも並べられていた。工場の端には,何百個もあろうと思われるドラム缶が置かれている。
「何なんだここは……」
 ジャックが小声で言ったのにも関わらず,部屋の向こうまで音は響いた。不思議な所であった。
 出来るだけ足音を立てないで,工場内を当てもなく歩き続ける。
 そして――スウェンはやがて,惨過ぎるものを見つけてしまうのだ。
「うッ……!」 
 正気を失ってしまいそうだ――。 巨大な機械の隠れた所には,生き物の「肉」のようなものがあった。内蔵らしき物体が辺り一面に飛び散り顏の部分がありえない形で凹み,人間なのか数秒考えてからでないと分からない――そんな死体が一体転がっていたのだ……。
「もうダメだ……!」
 我慢できない。スウェンは隅の方に駆け込みそのまま胃の中のものを吐き出した。一日中何も口にしていないはずなのに。
「大丈夫かスウェン! ……もう見るな。離れよう」
 スウェンが口の回りを拭こうとしたその瞬間。急に目の前が真っ暗になった。何が起きたのか,分からない。
 だが,すぐに理解した。部屋中の電気が一斉に消されたのだ。
「な,なんだ……!?」
 ジャックはすぐ横に立っているはずだが彼の姿が全く見えない。 スウェンは焦らずにはいられなかった。
「ジャック! お前,近くにいるよな?」 
「いるって。あんまりでかい声出すんじゃない。 今,奴らに見付かったら,オレたち間違いなく――」
 あたふたするジャックの話の途中で―― 突然,部屋の一番奥の電気がパッとついた。当たり前のように二人の目はそちらに向けられる。
――三人,人間が立っている姿が確認できた。
 胸が騒ぐ。 賊,なのだろうか。 
「――よく来た,スウェン」
 聞き覚えのある太くて低い声がした。スウェンは息を飲んだ。 全身に電気が流れるような緊張が走る。
 ついに,全ての終わりが始まった――。 
「――エドガーか!」
 声を限りに,スウェンは叫んだ。鎌を背中から出し構えるが,両手が酷く震え始める。
「エドガー! ティファニー姫は,どこにいる!」
 ジャックは素早く弓矢を取り出し,鬼のような恐ろしい顔付きに変わった。 
「くくく……ジャッシー王子か。そんなに怖い顏をするな。 まずはこいつらの相手でもしてろ。話はそれからだ」
 そう言うと,エドガーの両側を挟んで立っていた二人の男が,こちらに飛び掛ってきた。
 男どもの姿を目にしてスウェンは,全身が燃えるように熱くなった。一気に汗が流れる。 
「お前ら……ルーカスとボビーだな!」 
 そう,目の前にいたのは,さんざん戦ってきたのに死に損ない賊どもだったのだ。 
「ぎゃははは! また会ったな,スウェン・ミラー。 それにジャッシー王子!」 
「とうとうお前らを殺れる日が来たぞ」
  奴らはニヤニヤしながら,ハンマーを振り下ろしてくる。 ジャックはひょいとかわせたようだが,スウェンは頭部を鋼鉄部分で思い切り殴られた。 
「スウェン! お前平気かよ!?」 「ああ。痛くもない」 
 I・Bの力は完全にスウェンの体を守るようになったため,このような攻撃は全く無効であった。
「貴様……。その頭蓋骨剥き出しにしてやる!」 
 と叫ぶとルーカスはスウェンの前に立ち,何度もハンマーをぶつけてきた。 
 ジャックのことを完璧に無視し,ボビーも後ろから加勢してくる。 
 意味が分からない,この状況。 スウェンはただ黙ってじっとしていた。人を殴って,明らかに奴らは楽しんでいる。 
(何なんだ,こいつら)
――こいつらが,エイダの両親を こんな奴らが,エイダの人生をめちゃくちゃにしたんだ そう考えるとスウェンの心は,この上ない怒りに満ちた。 
 ハンマーで殴ってくる馬鹿どものことをじっと見つめる。スウェンはそんな悪党たちの血を,舐め回してやろうと思った。 

“狂者”の時間がやってきたのだ――。 

……『殺セ』

 応援,ありがとうゴザイマス 「アハハハハハ!!  アーハハハハハハハハハハハハ!!」 
 スウェンは狂乱した。笑いながら,鎌を地面にぶつける。 
「イカレたな……ミラーめっ!」 
 白髪男が言うと,スウェンの腹をハンマーで殴ってきた。 
(だから無駄なんだよ) 
 よろけることもなく,スウェンは白髪の背後に回り込み,奴の顔面を両手で掴んだ。親指でそいつの両目を押さえ付け,ぐりぐりと目玉をほじくった。もともと片目がなかったので,ひとつしかえぐり取ることができなかった。 いや――これだけでも大満足である。 
「うぎやぁぁぁぁぁあああ」 
 白髪は喚き,ばたっと倒れた。
(人生お疲れ)
 スウェンはそいつの胴体を踏みつけて,手の中の目玉をぐしゃっと握り潰した。どろどろした感触がする。 
――ああ気持ちがいい 
「スウェン,お前……!」
 横から,ジャックの声。いちいち反応する気にもならない。
 スウェンは,次の獲物――ハゲ野郎を目で探す。
(見つけた) 
 獲物は,まるで化物でも見ているような,怯えた目をこちらに向けている。 
(血が欲しい血が欲しい血を浴びたい) 
 スウェンは風のように速く,獲物の目の前まで飛んでいった。
 奴は何かを叫びながら腹を殴ってくるが,やはりスウェンには効かない。構わずに獲物の首筋を締め付け,そこに鎌の刃先を当ててやった。
「イカれた野郎めっ……! やめろ!!」 
 聞耳を持たず,スウェンはニヤッと笑った。そいつの首の中を,鎌の刃で一気に斬りつける。 噴水のように,たくさんの血が噴き出た。 
「アハハハハハアハハハハハアハハハハハ」 
――ああ楽しい。楽し過ぎる 
 不要となった生首を地面に叩き付ける。それより下の物体は,放っておいても勝手に倒れた。 
 スウェンは当然のように,次の獲物を目で探る。見つけたのは,エドガー・シュタイナー。 
(ぶっ殺してやる)
 走り出そうとすると――, 
「スウェン!」 
 ジャックに肩を掴まれた。 
――なにをする? 
 邪魔な手を払いスウェンは血を舐める。このまま行こうとした。
「おい待てよスウェン!!」 
 後ろから強力な体当たりを食らわせられた。これにはさすがのスウェンもよろけてしまう。 
「……何なんだよっ!」 
「いいから…… 目を覚ませよスウェン!」 
 と言ってジャックは,今度は強烈なビンタを仕掛けてきた。 
――その瞬間,今までのがまるで嘘のようにスウェンの興奮は一気に冷めた。 
「…………」
 眉間に皺を寄せるジャックを前にして,何も言葉が出なかった。
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