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第六章:終ワラナイ遊ビ
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最高指揮官ジャッシー王子の必死な力説も虚しく,クロックス連邦との交渉は失敗に終わった。
出発前の一時,スウェンは彼に「どうして交渉成立にならなかったんだ」と問う。王子は複雑な顏をして答える。
「同盟国とはいえ,クロックス連邦はもともと武力で解決するのには反対してたからな」
おかしな話だ。スウェンはそう思う。なぜなら,クロックス連邦は大量の兵器を所有しているからだ。
しかし王子は言う。
――昔は国内外で戦闘を繰り返していたが,今では世界で唯一の平和主義国であるんだ、と。
「兵器も処分ができず,ずっと放置しているんだろう」
悲しい顏をして,今の現実を思いながら王子は言った。
今回の戦争の目的は二つ。
王国の姫であるティファニーを救い出すこと。そして帝王エドガー・シュタイナーを討ち,帝国そのものを滅ぼすことだ。
だが,勝敗の結果によっては最悪な事態にもなりかねない。
少しでも,戦力は欲しいものであった。今回のクロックス連邦の兵器が使えないだけで,勝利を手にする希望が消える。
王子の不安は膨らむばかりであった。そして,そんな彼の心を描くかのように,空からは大粒の雨が降り続けていた……。
開戦のときは,近い。
※
夕方――町は雨によって切ない色に染められていた。静かな病院で,アルフレッドは短時間の休憩を取っていた。
いつもならコーヒーをすすりながら体を休めるのだが,今日は違う。独りの,患者の所へ行こうと思ったのだ。
もう誰も彼女の見舞いにくることはない。彼女は――エイダは,独りの患者だった。
日没と共にスウェンたちは,この町を去るらしい。今頃,彼女が泣いている姿が目に浮かぶ。患者のことを慰めるのも,医者の勤めだとアルフレッドは思う。
ゆっくりと階段を上り,彼女がいる病室へと向かった。その部屋は他の者から隔離された,本当に孤独な場所である。
扉の前に立ち,彼は二回ノックをした。
……しかし,エイダからの返事は聞こえてこなかった。もう一度,扉を叩くアルフレッド。
――それでも,声はしなかった。
(寝ているのかな)
一瞬,入るのをやめようかと思ったが,やはりエイダの様子が気になった。
「入りますよー」
優しく言ってから,アルフレッドはドアノブに手を掛けて扉を開けた。
――すると,冷たい空気がアルフレッドの肌に触れる。
今日は大雨が降っているというのに,部屋の窓は開放されていた。
「エイダ……風邪引いちゃいますよ。窓,閉めま――」
言いながら,ベッドの方を向いた。
――そのときアルフレッドは絶句した。
絶対にベッドにいるはずの,エイダがいないのだ……。
「エイダ……? どこへ行ったんだ!?」
焦りながら,アルフレッドは部屋を見回した。彼女の姿は見当たらない。
部屋を飛び出し,病院中を走り回り彼女の姿を探した。
しかし,どこにもエイダはいなかった。
嫌な予感がしてならない。アルフレッドの額からは,汗がいくつも流れ落ちていった。
(エイダ……一体,何を考えているんだ)
アルフレッドの全身がぶるぶる震えた……。
出発前の一時,スウェンは彼に「どうして交渉成立にならなかったんだ」と問う。王子は複雑な顏をして答える。
「同盟国とはいえ,クロックス連邦はもともと武力で解決するのには反対してたからな」
おかしな話だ。スウェンはそう思う。なぜなら,クロックス連邦は大量の兵器を所有しているからだ。
しかし王子は言う。
――昔は国内外で戦闘を繰り返していたが,今では世界で唯一の平和主義国であるんだ、と。
「兵器も処分ができず,ずっと放置しているんだろう」
悲しい顏をして,今の現実を思いながら王子は言った。
今回の戦争の目的は二つ。
王国の姫であるティファニーを救い出すこと。そして帝王エドガー・シュタイナーを討ち,帝国そのものを滅ぼすことだ。
だが,勝敗の結果によっては最悪な事態にもなりかねない。
少しでも,戦力は欲しいものであった。今回のクロックス連邦の兵器が使えないだけで,勝利を手にする希望が消える。
王子の不安は膨らむばかりであった。そして,そんな彼の心を描くかのように,空からは大粒の雨が降り続けていた……。
開戦のときは,近い。
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夕方――町は雨によって切ない色に染められていた。静かな病院で,アルフレッドは短時間の休憩を取っていた。
いつもならコーヒーをすすりながら体を休めるのだが,今日は違う。独りの,患者の所へ行こうと思ったのだ。
もう誰も彼女の見舞いにくることはない。彼女は――エイダは,独りの患者だった。
日没と共にスウェンたちは,この町を去るらしい。今頃,彼女が泣いている姿が目に浮かぶ。患者のことを慰めるのも,医者の勤めだとアルフレッドは思う。
ゆっくりと階段を上り,彼女がいる病室へと向かった。その部屋は他の者から隔離された,本当に孤独な場所である。
扉の前に立ち,彼は二回ノックをした。
……しかし,エイダからの返事は聞こえてこなかった。もう一度,扉を叩くアルフレッド。
――それでも,声はしなかった。
(寝ているのかな)
一瞬,入るのをやめようかと思ったが,やはりエイダの様子が気になった。
「入りますよー」
優しく言ってから,アルフレッドはドアノブに手を掛けて扉を開けた。
――すると,冷たい空気がアルフレッドの肌に触れる。
今日は大雨が降っているというのに,部屋の窓は開放されていた。
「エイダ……風邪引いちゃいますよ。窓,閉めま――」
言いながら,ベッドの方を向いた。
――そのときアルフレッドは絶句した。
絶対にベッドにいるはずの,エイダがいないのだ……。
「エイダ……? どこへ行ったんだ!?」
焦りながら,アルフレッドは部屋を見回した。彼女の姿は見当たらない。
部屋を飛び出し,病院中を走り回り彼女の姿を探した。
しかし,どこにもエイダはいなかった。
嫌な予感がしてならない。アルフレッドの額からは,汗がいくつも流れ落ちていった。
(エイダ……一体,何を考えているんだ)
アルフレッドの全身がぶるぶる震えた……。
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