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第四章:八年間の友情
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しおりを挟む――ジェニと別れ,二人は町に出た。
昨晩,命を絶った町人や賊の遺体がまだたくさん横たわっている。建物も,何建か崩れてしまっていた。
痛ましい光景。全て全てが直るまでに,時間が掛りそうである……。
スウェンが全力疾走していると,エイダは少し遅れ気味だった。苦しそうな表情をしていたのに気付く。
「ゴホッ……ゴホッ」
「おいエイダ? 咳,大丈夫か」
「ええ……平気。それより,ジャックが……」
スウェンは立ち止まり,エイダの肩を優しく支えた。
ふと,空を見上げると,何かが飛んできた。城の方から続々と。大きな航空機であった。先頭には,見覚えのある船。
――ロバウト号?
「まさか」
嫌な予感がした。
ジャックの――顔が頭によぎる。
急に,怖くなってしまい,足が凍りついた。
「ジャック……そこにいるのか」
スウェンは両手を大きく上げて,だんだん近付いてくる航空機に向かって叫んだ。
「俺だ,俺だよ。ジャック!」
どんなに大声を出しても,聞こえないのはスウェンは分かっていた。大鎌を取り出し,両手でそれを振りはじめた。
――“間に合わなかった”
そんな言葉を捨てて。
「エイダも,ここにいる。俺たちは,帰ってきたんだ。また三人で旅をしよう。ジャック! 気付いてくれよ……!」
虚しく,スウェンの声は航空機の音で掻き消されていった――。
と,この時,エイダが前に出てバッグの中から短剣を取り出しては,それを大きく空に向けた。
「ジャックー! ただいま! ただいまー! 私たち帰ってきたよー!」
スウェンに負けないくらい,エイダは叫んでいた。その彼女の姿に,とても感激する。スウェンが彼女を見つめながら固まっているとエイダはこちらを振り向き,笑顔で言う。
「ほらスウェン。ボーッとしてないで,ジャックを呼ばないと!」
「……ああ!」
町のど真ん中で,二人は彼を呼び続けた。
航空機はどんどんこちらに近付いてくる。
――あの航空機たちは,これから戦争に行くのだ。今までのスウェンには,戦争などとは全くの無縁であった。きっと,想像を絶するほど恐ろしいものだろう。
それでもスウェンは,たった一人の友に会いたかった。ただそれだけの想いを胸に,彼に自分の存在を伝えようとした。
しかし――,
「ジャック……?」
やはり,現実など甘いものではなかった。
叫び声をまるで無視し,航空機たちは彼らの頭上をあっという間に通りすぎていくのだ。静止すらしてはくれない。
航空機たちを見つめたまま,スウェンは鎌を下に向けた。
「置いていくのか……?」
――どうして。どうして行ってしまう!
スウェンは後ろを振り向いた。よろけながらも,すぐさま走り出す。
「スウェン!」
エイダも共に。
“永遠にさよなら”
感情に振り回された自分が思わず口にしてしまったそんな言葉が、現実になるなんて絶対に嫌だった。
二度とジャックに会えなくなるなど。
考えられない。考えられるはずもない。
誰よりも彼のことを想っているのに!
「待ってくれ」
彼らを追い掛けながら,スウェンは再び叫ぶ。
「待ってくれ……行かないでくれ。ジャック!!」
情けない声――。
溢れるそうになる涙をグッと堪え,スウェンは手足を激しく振った。見る見るうちに,距離は離されていく。
(待ってくれ、お願いだよ)
スウェンの心の叫びも虚しく
数十分もすれば,完全に彼らを見失ってしまった。
――いつの間にか,何もない広大な砂原にたどり着いていた。
強い風が乱暴に砂を掻き乱す。
――ジャックは,行ってしまった
「ハァ……ハァ。……スウェン」
息を切らせながら,エイダがスウェンの背中に手を置いた。二人はその場に倒れる。
絶望。
たったひとつのその言葉が,スウェンの心を苦しめるのだった。
――なぜ,こんなことに
これほど残酷な運命があるのだろうかと,スウェンは問いかけたくなった。
涙なんて,流したくない。しかし――ずっとずっと堪えてきた悲しみさえも,ここまでで限界なのだろうか。
手が壊れてしまいそうになるほど砂を握り締め,スウェンは後悔に溺れた。
(ジャックは八年間,俺に嘘をついてきた。あいつは,王子だった。I・Bの力を利用するために,あいつは俺に近付いた。俺はそれが許せなかった。だから俺はあいつを殴り,あいつから離れたんだ。でも……あいつは俺を大切な友だちだと言ってくれた。八年間,築き上げてきたこの関係は,こんな形で終わるはずがなかった。俺が悪い……俺が悪い! 俺があいつから離れたせいでこんなことになったんだ!)
スウェンは自分で自分に苦しみの刃物を胸に刺した。――しかしそんな時だ。
スウェンの背後に,突然誰かの気配が現れたのだ。
「――スウェン」
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