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第四章:八年間の友情
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ジャックの奴,また冗談を
スウェンは鼻で笑った。そんな嘘を信じる奴は,まずいない。
しかしジャックは次に,思いもよらない行動を取った。ドレス姿の女性をギュッと抱きしめ,彼女の唇に思いきりキスをしたのだ。
「な,なにしてんだジャック?」
「…………この方は,王国の姫君。ティファニーだ」
「へっ?」
「そして,オレの恋人でもある」
スウェンは言葉に詰まった。茫然自失し,頭を掻きみだす。どう見てもジャックは真剣な眼差し。
嘘,という文字はどこにも見当たらない。
「オレの名は,ジャックなんかじゃないよ。
本名は『ジャッシー・R・フロントン』。王の後継者――つまり王子として生まれたんだ。
この剣は幼いころ,父上から賜ったものだ。弓矢はただの趣味。本業は,狩人じゃないんだよ」
段々,「ジャック」の言っていることが理解できなくなっていく気がした。
スウェンは,まるで何かに心を締め付けられるような,苦しい思いをしていた。
「ごめんな……スウェン。彼等には軽く演技をしてもらったんだ。ブライアンにはキャラン街に着くまで,後を付けさせていた。ここに来るまでにバレるんじゃないかって,ヒヤヒヤしたよ。彼はオレの友だちじゃない。王国の兵士――ただの部下だ」
ブライアンはスウェンに向かって,そっと頭を下げていた。
「ちなみに言うが……勿論,ロバウト号も貸し切ったんじゃない。あの船はもともと,オレの私物なんだ」
呆気に取られ,スウェンは唾を飲み込んだ。
何と言えばいいか迷った。悩んだ挙句,やっと口を開いた。
「お前,どうしてそんな嘘を? 俺が貧乏人だったからあざ笑いに来たのか。ええ,そうなのかよ?」
「違う,そうじゃない! オレは……その。……お前のI・Bの力が借りたくて」
「……なに?」
「オレはお前のために,8年前からI・Bについて調べてきたと言った。あれも偽りだ。
本当は最初から,I・Bの手掛かりとなる人物なんて知ってたんだ……」
「なんだって……!?」
その事実を知らされ,スウェンの顏はカッと熱くなった。べっとりした汗が全身に伝わっていく。
そしてスウェンの両手は,震えた。
「――十歳のとき,お前は足の骨折をしただろう。しかしI・Bの力によってそれはたったの三日で全治した。お前が初めて,身体の異常に気付いた瞬間でもある。原因を知るため,お前は各地の病院に足を運んだ。結局,I・Bのことは何一つ分からなかったようだが」
「……ちょっと待て。どうしてそのことを?」
スウェンは愕然とした。その話は,彼には一切しなかったはずだからだ。
「こういったことは,本人の知らない場所で即刻情報が漏れるものなんだ」
冷静な口調で,彼は目線を下に向けながら続けた。
「世間には決して報道されることはなかったが,まず,I・Bに関してはお前の本国の大統領に知らされた。それから数日後に,同盟国の我が国――エルフィン王国に伝えられた。城の者だけは,お前のことを知っているんだ」
「…………」
彼が,いつにもない話し方をするため,スウェンはとても悲しくなった。
衝撃が強すぎて,周りが見えなくなっていった。目で確認できるのは,自分の前に立っている,ひとりの王子だけだった。
「話のスケールが大きくなるが……どうか聞いてくれ。オレたちの国は今,危機にひんしている。昔から対立し続けているデザイヤ帝国に,こちらの領地が侵略されそうなんだ。先日,帝国が宣戦布告をしてきた。何が目的か明確ではないが,奴らは王国を滅ぼそうとしているんだ」
スウェンはハッとした。彼がなぜ,異様に時間に追われていたか。
その理由が,今わかった。
「デザイヤ帝国の兵力は凄まじく,とてもではないが……戦えない。賊,つまり兵の人口は世界で一番多いと推定されていて――」
「待てよ。そんな問題に,I・Bがどう関連してるって言うんだ!」
「落ち着いてくれ。……その,あのな。デザイヤ帝国の帝王が,実のところエドガー・シュタイナーなんだ」
「……! エドガーがっ?」
信じがたい,嘘のような話。
スウェンは鼻で笑った。そんな嘘を信じる奴は,まずいない。
しかしジャックは次に,思いもよらない行動を取った。ドレス姿の女性をギュッと抱きしめ,彼女の唇に思いきりキスをしたのだ。
「な,なにしてんだジャック?」
「…………この方は,王国の姫君。ティファニーだ」
「へっ?」
「そして,オレの恋人でもある」
スウェンは言葉に詰まった。茫然自失し,頭を掻きみだす。どう見てもジャックは真剣な眼差し。
嘘,という文字はどこにも見当たらない。
「オレの名は,ジャックなんかじゃないよ。
本名は『ジャッシー・R・フロントン』。王の後継者――つまり王子として生まれたんだ。
この剣は幼いころ,父上から賜ったものだ。弓矢はただの趣味。本業は,狩人じゃないんだよ」
段々,「ジャック」の言っていることが理解できなくなっていく気がした。
スウェンは,まるで何かに心を締め付けられるような,苦しい思いをしていた。
「ごめんな……スウェン。彼等には軽く演技をしてもらったんだ。ブライアンにはキャラン街に着くまで,後を付けさせていた。ここに来るまでにバレるんじゃないかって,ヒヤヒヤしたよ。彼はオレの友だちじゃない。王国の兵士――ただの部下だ」
ブライアンはスウェンに向かって,そっと頭を下げていた。
「ちなみに言うが……勿論,ロバウト号も貸し切ったんじゃない。あの船はもともと,オレの私物なんだ」
呆気に取られ,スウェンは唾を飲み込んだ。
何と言えばいいか迷った。悩んだ挙句,やっと口を開いた。
「お前,どうしてそんな嘘を? 俺が貧乏人だったからあざ笑いに来たのか。ええ,そうなのかよ?」
「違う,そうじゃない! オレは……その。……お前のI・Bの力が借りたくて」
「……なに?」
「オレはお前のために,8年前からI・Bについて調べてきたと言った。あれも偽りだ。
本当は最初から,I・Bの手掛かりとなる人物なんて知ってたんだ……」
「なんだって……!?」
その事実を知らされ,スウェンの顏はカッと熱くなった。べっとりした汗が全身に伝わっていく。
そしてスウェンの両手は,震えた。
「――十歳のとき,お前は足の骨折をしただろう。しかしI・Bの力によってそれはたったの三日で全治した。お前が初めて,身体の異常に気付いた瞬間でもある。原因を知るため,お前は各地の病院に足を運んだ。結局,I・Bのことは何一つ分からなかったようだが」
「……ちょっと待て。どうしてそのことを?」
スウェンは愕然とした。その話は,彼には一切しなかったはずだからだ。
「こういったことは,本人の知らない場所で即刻情報が漏れるものなんだ」
冷静な口調で,彼は目線を下に向けながら続けた。
「世間には決して報道されることはなかったが,まず,I・Bに関してはお前の本国の大統領に知らされた。それから数日後に,同盟国の我が国――エルフィン王国に伝えられた。城の者だけは,お前のことを知っているんだ」
「…………」
彼が,いつにもない話し方をするため,スウェンはとても悲しくなった。
衝撃が強すぎて,周りが見えなくなっていった。目で確認できるのは,自分の前に立っている,ひとりの王子だけだった。
「話のスケールが大きくなるが……どうか聞いてくれ。オレたちの国は今,危機にひんしている。昔から対立し続けているデザイヤ帝国に,こちらの領地が侵略されそうなんだ。先日,帝国が宣戦布告をしてきた。何が目的か明確ではないが,奴らは王国を滅ぼそうとしているんだ」
スウェンはハッとした。彼がなぜ,異様に時間に追われていたか。
その理由が,今わかった。
「デザイヤ帝国の兵力は凄まじく,とてもではないが……戦えない。賊,つまり兵の人口は世界で一番多いと推定されていて――」
「待てよ。そんな問題に,I・Bがどう関連してるって言うんだ!」
「落ち着いてくれ。……その,あのな。デザイヤ帝国の帝王が,実のところエドガー・シュタイナーなんだ」
「……! エドガーがっ?」
信じがたい,嘘のような話。
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