【完結】Good Friends

朱村びすりん

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第四章:八年間の友情

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 ジャックのその一言で,エイダも一緒に行くことが決定された。
 とんだ寄り道になるが,ジャックの故郷に訪問するのは,実のところ今回が初めてのこととなる。スウェンは内心,少しわくわくしていた。
――話を聞いてみれば,キャラン街からジャックの町まで,結構距離があるらしい。
 そこで,ブライアンが近くのエアポートに案内してくれた。なんとそこに,貸し切りの航空機があるのだという。そんな金がどこから湧いてくるのか,また更に疑問が生まれた。
――実際に足を運び,実物の航空機を見てスウェンは肝を潰した。
「ロバウト号という,巨大航空船です。客船としても用いられているのですが,何と時には戦闘機としても活躍します。環境に優しく,エンジンなどの騒音は――」
 と,いきなりブライアンはその航空機の専門的な説明をし始めた。
 興味がないのでスウェンは半分以上聞いていなかった。
 隣でジャックが苦笑しながら,ブライアンを見つめていた。
 ぶちまけた話,スウェンは人生の中で一度も乗り物に乗ったことがない。
 航空機に乗るのが楽しみだ,というような言葉は思い浮かばない。むしろ不安という二文字が,スウェンの心を襲った。
 船が,空を飛ぶなんて。
――もし墜落してしまったら,どうしよう?
 馬鹿みたいな不安を抱えつつ,ブライアンの案内でそのロバウト号という船の入口まで行き着いた。
 本当に本当に,巨大な船であった。
――現代,賊などの犯罪を防止する対策の為に,航空機等を利用する際は,一般人・旅人問わず凶器になりそうな物は乗務員に預けなければならないらしい。
(物騒な世の中だもんな)
 つくづく,スウェンは思う。

 しばらくすると,どこからともなく三人の大男たちがやって来た。三人とも,たくましい筋肉マッチョ。
 ブライアン以外,その場にいた全員が荷物検査を受ける。スウェンは大鎌,ジャックは弓矢を,そしてエイダはバッグに入っていた短剣を持っていかれた。
 大鎌がなくなっただけで,背中がとても軽くなった。
――見るからに豪傑な大男たちに荷物検査をされれば,誰でもおとなしく武器を預けるだろう。スウェンはそう思った。
 やっとの思いで中に案内された。扉のすぐそこに広い通路があり,両端には黄色いシートが何十席と並んでいた。もちろん,乗客はスウェンたち以外いない。
 待ち構えていたのは,ひとりの女性客室乗務員だけであった。
「お待ちしておりました。ようこそ,ロバウト号へ……」
 美貌に溢れた笑顔,その凛々しい声。髪の毛はまるでブルースカイのショートヘア。メイクもばっちりで,赤く光る唇が眩しい。よくひと目惚れされたりして,彼女はモテるタイプだろうとスウェンは本気で感じた。
 この女性,ここで乗務員の仕事をやっているなんて――何だかすごくもったいない気がする。
「すごい! こんなにおっきい航空船に乗るのは初めて!」
 まるで子供のようにはしゃぎながら,エイダは手前の窓側の座席に座った。ジャックとブライアンは,ちゃっかりと違う列に並んで着席した。席は二人用なので,スウェンは仕方なくエイダの隣に座った。
――数分経ったところで,「離陸します」というアナウンスが流れ,航空機が動きはじめた。
 スウェンは外の景色に興味を示した。機体はエンジン音を小さく鳴らしながら,滑走路を直進。やがて空に向かって,上昇を開始した。
 その瞬間,スウェンは鳥肌が立った。しかしそれは先ほどの「落ちたらどうしよう」という恐怖心からではなく,感動の方に心が染まっていたからだ。窓の外に映る,町や人が段々小さくなっていく。ついには米つぶのように,見えなくなっていった。あっという間に機体は雲に差し掛かり,果てしない空の向こうにたどり着いた。
(これは素晴らしい)
 まさに感動ものであった。
 雲の上には,綿のようにふわふわした真っ白な雲が浮いていて,どこを見渡しても水色の大空が広がっている。毎日のように何気なく見ていた太陽の光が,今だけいつもより眩しく感じた。
「ねえ,スウェン」
 と,出し抜けにエイダが声を掛けてきた。一気に感動を奪われた気分になる。
「……何だよ」
「あなたさっき,私のこと本気で邪魔だって言ったでしょ」
「えっ」
 ギクッとした。先ほどのことを,まだ気にしているのか。動揺しつつも,スウェンは窓からの景色を眺め続ける。
「……悪かったって思ってるよ。さっきは本当にごめんな」
「いいのよ,気にしてないから。でも……あんなこと言うんだったら,私をこんな気持ちにさせないで」
「――?」
 エイダの言葉に,スウェンは首を傾げる。だが,スウェンは理解しようとも思わなかった。
 中途半端に,エイダとの会話が終わってしまった。
(眠くなってきたな……)
 深く息を吐き,全身の力を抜く。
 暖かい室温とこの微妙な揺れが,更に眠気を誘う。ゆっくり瞼を閉じると,やがてスウェンはしばし夢の中へと落ちていった。
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