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第四章:八年間の友情
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それから三日は過ぎた。
三人はキャラン街に滞在していた。キャラン街はパウダントシティよりも活気ある所で,夜も眠ることはない。昼間には子供や大人がせっせと働く姿が見られた。
そんな時,スウェンたちは街の中心にある商店街を朝からぶらついていた。
「ねえ,そういえば――二人は誰を探して旅なんてしてるの?」
ジャックのことを向きながら,エイダは尋ねた。
「……エドガー・シュタイナーって男を探してるんだ」
「エドガー……何ですって?」
「シュタイナー,だ。その男とどうしても会わなければいけないんだ」
「……そう。大変ね」
エイダはそう言い,肩をすくめた。
「――お前,何も知らないだろ。役に立たない奴だよな」
「何ですって!」
スウェンがふざけていると,エイダはキッとこちらを睨みつけた。
(短気な女だなぁ)
また口喧嘩が始まりそうだったが,すぐさまジャックが間に入って二人を止める。いつの間にかこれが当たり前のことになっていた。
「シュタイナーについて詳しいことはまだ分からないんだけど――奴は,デザイヤ帝国にいるようなんだ」
「えっ,そこって……賊たちの国でしょ」
「そうだ」
「どうして危険までおかして?」
これにはスウェンが返答してやった。
「I・Bについて知りたいんだ」
「何よそれ」
「俺の身体のことだ。俺はどんな怪我を負ってもすぐ完治する。骨折しても,一週間のうちに元通りになってしまう」
その話を聞くと,エイダはじっとスウェンを見つめた。何とも言えないような表情をしていた。
「信じてないだろ,お前」
「……当たり前じゃない」
馬鹿にしたような口調でエイダは言う。そんな態度に,スウェンは舌打ちをした。
いい加減,彼女と他愛ないことで喧嘩をするのに嫌気が差してきた。それでも言い争いは,少ししたことで繰り広げられるだろうが――。
商店街には肉屋や八百屋,洒落た喫茶店などなどたくさんの店が並んでいる。
「安いよ」と商人に声を掛けられたりもしたが,スウェンたちはただただ見物するだけだった。
一体,いつまでこの町でウロウロしているつもりなのか。常に先頭を歩くジャックが,なかなか次に行こうとしないのでスウェンは気になっていた。もう十分,この街で休息を取れたので次の目的地に行っても良いはずである。スウェンがそんなことを考えている,まさにその時だ。
「……ジャ,ジャックー!」
どこからともなくジャックの名を呼ぶ,聞き覚えのない声がした。
振り向いてみるとそこには,レモン色の髪を生やす,何とも弱々しい顔付きをした小柄な男がいた。汗をかきながら,こちらに駆け付けてきた。スウェンの知らない人だった。
「ブライアン! どうしてここに」
「すまん……町に戻ってほしくてさ」
ジャックからブライアンと呼ばれたこの男,会って早々訳の分からないことを言い出した。
「誰だ?」
スウェンは困惑しながら聞いた。
「ああ,悪ぃ。オレの友だちだよ」
「そうです! 竹馬の友です! あ,僕,ブライアン・スペラーと申します。お二人はジャックのお連れ様ですね?」
「俺はそうだが,こっちの女は全くの赤の他人だ」
何言ってるのよ,と訴えるような目つきで,エイダはさりげなくスウェンの足を踏みつけてきた。不快な気分になった。
――それにしてもジャックの友人が,なぜこんな所にいるのだろう。どうして居場所が分かったのか,不思議でならなかった。
無表情でしばらく考え込み,ジャックは言う。
「町に戻れって,なにかあったのか」
「あのな……町が賊に襲われたんだ。それで,君のお母さんが大怪我して――ジャックに会いたがってたんだ……」
静かにブライアンはそう述べた。慌てた様子もなく。
何だか……妙な話だとスウェンは思ってしまっ「そうか……お袋が。よく来てくれたブライアン。……悪いスウェン。こういう訳だから,町まで一緒に来てくれないか」
「嫌だ」と言う気は,スウェンはさらさらなかった。自分の意見を言うだけ無駄だと,分かっていたからである。
「何かよく分かんないけど,行かないといけないんだろ。俺は構わないが……」
そう言うと,ジャックとブライアンはなぜか二人で顏を見合わせ,微笑んでいた。町が襲われたというのに,やや呑気ではないか。
三人が揃って歩きだそうとしたとき。
「待って……」
後ろで,エイダがかすれた声で言った。
すっかり,彼女の存在を忘れていた。
「私も連れてって」
「え?」
「私も,連れていってよ」
何を言い出すかと思えば――
スウェンは眉をぴくりと動かした。
「お前も来る気かよ。旅人じゃないなら,この町に残ればいいだろ。エイダは俺たちの旅には無関係だ」
「……」
「一緒に来たって意味ないし,それに――」
と,言い掛けたところで,スウェンはハッとした。言い過ぎたかもしれない。エイダは切なそうな顏をした。スウェンはまずいと思い,無意識に髪を掻いた。
――悪いのは自分だ。
恥ずかしさを抑えてスウェンは言い直す。
「あ。いや,悪かった。嘘だ。お前の気持も考えないで酷いことを……」
「いいわ。気にしてない。私が邪魔ならはっきり言って」
「あぁ? 邪魔だなんて一言も……」
スウェンは途中で口を閉じた。
先ほどのようにジャックが間に入り,そして意味深な台詞を口にした。
「時間がないんだ。ぐだぐだしてる暇はない! エイダ,君も一緒に行こう」
「そう……? ありがとう」
三人はキャラン街に滞在していた。キャラン街はパウダントシティよりも活気ある所で,夜も眠ることはない。昼間には子供や大人がせっせと働く姿が見られた。
そんな時,スウェンたちは街の中心にある商店街を朝からぶらついていた。
「ねえ,そういえば――二人は誰を探して旅なんてしてるの?」
ジャックのことを向きながら,エイダは尋ねた。
「……エドガー・シュタイナーって男を探してるんだ」
「エドガー……何ですって?」
「シュタイナー,だ。その男とどうしても会わなければいけないんだ」
「……そう。大変ね」
エイダはそう言い,肩をすくめた。
「――お前,何も知らないだろ。役に立たない奴だよな」
「何ですって!」
スウェンがふざけていると,エイダはキッとこちらを睨みつけた。
(短気な女だなぁ)
また口喧嘩が始まりそうだったが,すぐさまジャックが間に入って二人を止める。いつの間にかこれが当たり前のことになっていた。
「シュタイナーについて詳しいことはまだ分からないんだけど――奴は,デザイヤ帝国にいるようなんだ」
「えっ,そこって……賊たちの国でしょ」
「そうだ」
「どうして危険までおかして?」
これにはスウェンが返答してやった。
「I・Bについて知りたいんだ」
「何よそれ」
「俺の身体のことだ。俺はどんな怪我を負ってもすぐ完治する。骨折しても,一週間のうちに元通りになってしまう」
その話を聞くと,エイダはじっとスウェンを見つめた。何とも言えないような表情をしていた。
「信じてないだろ,お前」
「……当たり前じゃない」
馬鹿にしたような口調でエイダは言う。そんな態度に,スウェンは舌打ちをした。
いい加減,彼女と他愛ないことで喧嘩をするのに嫌気が差してきた。それでも言い争いは,少ししたことで繰り広げられるだろうが――。
商店街には肉屋や八百屋,洒落た喫茶店などなどたくさんの店が並んでいる。
「安いよ」と商人に声を掛けられたりもしたが,スウェンたちはただただ見物するだけだった。
一体,いつまでこの町でウロウロしているつもりなのか。常に先頭を歩くジャックが,なかなか次に行こうとしないのでスウェンは気になっていた。もう十分,この街で休息を取れたので次の目的地に行っても良いはずである。スウェンがそんなことを考えている,まさにその時だ。
「……ジャ,ジャックー!」
どこからともなくジャックの名を呼ぶ,聞き覚えのない声がした。
振り向いてみるとそこには,レモン色の髪を生やす,何とも弱々しい顔付きをした小柄な男がいた。汗をかきながら,こちらに駆け付けてきた。スウェンの知らない人だった。
「ブライアン! どうしてここに」
「すまん……町に戻ってほしくてさ」
ジャックからブライアンと呼ばれたこの男,会って早々訳の分からないことを言い出した。
「誰だ?」
スウェンは困惑しながら聞いた。
「ああ,悪ぃ。オレの友だちだよ」
「そうです! 竹馬の友です! あ,僕,ブライアン・スペラーと申します。お二人はジャックのお連れ様ですね?」
「俺はそうだが,こっちの女は全くの赤の他人だ」
何言ってるのよ,と訴えるような目つきで,エイダはさりげなくスウェンの足を踏みつけてきた。不快な気分になった。
――それにしてもジャックの友人が,なぜこんな所にいるのだろう。どうして居場所が分かったのか,不思議でならなかった。
無表情でしばらく考え込み,ジャックは言う。
「町に戻れって,なにかあったのか」
「あのな……町が賊に襲われたんだ。それで,君のお母さんが大怪我して――ジャックに会いたがってたんだ……」
静かにブライアンはそう述べた。慌てた様子もなく。
何だか……妙な話だとスウェンは思ってしまっ「そうか……お袋が。よく来てくれたブライアン。……悪いスウェン。こういう訳だから,町まで一緒に来てくれないか」
「嫌だ」と言う気は,スウェンはさらさらなかった。自分の意見を言うだけ無駄だと,分かっていたからである。
「何かよく分かんないけど,行かないといけないんだろ。俺は構わないが……」
そう言うと,ジャックとブライアンはなぜか二人で顏を見合わせ,微笑んでいた。町が襲われたというのに,やや呑気ではないか。
三人が揃って歩きだそうとしたとき。
「待って……」
後ろで,エイダがかすれた声で言った。
すっかり,彼女の存在を忘れていた。
「私も連れてって」
「え?」
「私も,連れていってよ」
何を言い出すかと思えば――
スウェンは眉をぴくりと動かした。
「お前も来る気かよ。旅人じゃないなら,この町に残ればいいだろ。エイダは俺たちの旅には無関係だ」
「……」
「一緒に来たって意味ないし,それに――」
と,言い掛けたところで,スウェンはハッとした。言い過ぎたかもしれない。エイダは切なそうな顏をした。スウェンはまずいと思い,無意識に髪を掻いた。
――悪いのは自分だ。
恥ずかしさを抑えてスウェンは言い直す。
「あ。いや,悪かった。嘘だ。お前の気持も考えないで酷いことを……」
「いいわ。気にしてない。私が邪魔ならはっきり言って」
「あぁ? 邪魔だなんて一言も……」
スウェンは途中で口を閉じた。
先ほどのようにジャックが間に入り,そして意味深な台詞を口にした。
「時間がないんだ。ぐだぐだしてる暇はない! エイダ,君も一緒に行こう」
「そう……? ありがとう」
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