6 / 56
第一章:金色の神様
6
しおりを挟む
「なぁ,君。大丈夫だったかい?」
「あ,うん。……ありがとう」
この時スウェンは,自分を助けてくれた恩人の顏を初めて見た。
きれいな黒い瞳と輝いた色白の肌。金髪のロングヘアはサラサラだった。スウェンよりも三~四つ,年が上だろう。この人を見掛けたことがある。
「き,君。たしかさっきの人じゃない?」
「えっ?」
「ほら,さっきぼくが道で思いきり君にぶつかっちゃって……」
「……ああ」
その人はスウェンがこの店に来る途中,たまたま出会ったあの美少年だったのだ。この人が,助けてくれたなんて――。
「本当に助かったよ! でも大丈夫なの? あんな騒ぎ起こしちゃって」
「うん,大丈夫だろ。オレ,ああいうのとよく喧嘩するし」
少年は当たり前のようにそう言った。
「そんなことより,君の名前は?」
「スウェンだよ。スウェン・ミラー」
「……そうか。変わった名前だな。オレの名前は――一応,ジャック・マーティンだ。気軽にジャックって呼んでくれよな」
「う,うん。……一応ジャック……ね」
このジャックという少年,なかなか面白そうな人だ。悪い人間ではないだろう。スウェンは思わず微笑した。
「なぁスウェン。君はいつも,あの野郎共に酷いことをされてるのか?」
「……うん,そうだよ」
「そうか――最低だな! でももう安心しろよ。今日から君は友だちだからな! オレが守ってやる」
「……え?」
ジャックの言葉を聞いたスウェンは,わっと泣き出しそうになった。
この人生の中で,誰からも言ってもらえなかった言葉――こんな自分と,ジャックは友だちになってくれるなんて。
まるで夢を見ているようだった。
スウェンは今まで一度も味わったことのない,嬉しい気持ちになった。
「――スウェンは,笑ってる顏の方が似合うな」
「えぇ?」
「ジョーダン。そうだ,怪我してるだろ? オレが見てやるよ」
「いや……その」
蹴られたあとの傷は,すでになくなっていた。痛みだって感じない。もちろん,I・Bのおかげで。
「どうした。さっきので何箇所もやられてるだろ?」
「ううん,もう……治ってるよ」
ジャックは首を傾げた。当然のことだ。
仕方なくスウェンは,自らの腹を見せながら彼に説明をした。
「ほら,ここ,さっきやられた所だけど……傷なんてどこにもなくなっているだろう?」
「す,すげぇ。……どうなってるんだ!」
ジャックは目を丸くしていた。
「ぼくの身体は,何かの病気にかかってるみたいなんだ」
「病気?」
「どんな怪我を負っても,すぐに完治してしまう。I・Bって呼んでるんだけど,この病気の原因は全く分からないんだ」
ジャックは小さく頷くと,黙りこくってしまった。こんな話をジャックにしたところで,何の意味もないだろう。
しかし他人にI・Bのことを言ったのは,これが初めてだった。
スウェンは彼のことをじっと見つめる。
「うーん」
と,ジャックが口を開いた。
「こりゃ……珍しい病気,だな」
そう言ったまま,あとに続く言葉は何もなかった。別に期待していたわけではないが,何ともあっけない返事にスウェンは肩を落とす。
少し沈黙が続いてから,ジャックは明るい声でスウェンに言った。
「そういえば何か買うつもりでここに来たんだろ。もうあの野郎共はいなくなったんだし,買っちまえよ」
買いたいのは山々だったが,それができないのだ。
スウェンは首を横に振った。
「どした?」
「……買えないんだ」
「金がないのか」
「……うん」
じゃあ何しに来たんだ,とでも思われただろうか。スウェンは恥ずかしくなった。
「――だったら仕方ないよな」
「……」
「オレが奢ってやるよ」
「えェ?」
思いがけない言葉を聞いて,スウェンは思わず声が裏返った。ジャックの表情はいたって真面目である。
スウェンは戸惑った。
彼はそれほど金持ち,という感じはしない。気前がいいのか,それとも単に親切なのか。どちらにせよ,人に物を奢ってもらうなんてことスウェンには考えられなかった。
絶対に断らなければならない。
よく考えて,スウェンは自分が同情されているんだと思った。はっきり言ってそういうのは大嫌いであった。
「ジャック……同情だったらやめてくれ」
「何言ってるんだ? 別にそんなんじゃないよ。買いたいもんあるんだろ」
「それはそうなんだけど……」
「だろ? だから奢ってやんだ。
何でも好きな本選べよ」
「……」
なぜだろう。なぜジャックは,ここまでしてくれるのだろう。
スウェンには分からなかった。
「ねぇ……ジャック。ぼくたち,たった今出会ったばかりなんだよ。無理することないからね。
君がすごくいい人なんだってことは,よく分かったから」
「……無理,だと?」
急にジャックの顔付きが変わった。
「勘違いすんな! オレはただ,君の役に立ちたいだけなんだよ。無理なんてしてねぇ」
ジャックに怒鳴られ,スウェンはしばらくの間何も言えなくなった。なぜここまでムキになる必要があるのか。
「あ,うん。……ありがとう」
この時スウェンは,自分を助けてくれた恩人の顏を初めて見た。
きれいな黒い瞳と輝いた色白の肌。金髪のロングヘアはサラサラだった。スウェンよりも三~四つ,年が上だろう。この人を見掛けたことがある。
「き,君。たしかさっきの人じゃない?」
「えっ?」
「ほら,さっきぼくが道で思いきり君にぶつかっちゃって……」
「……ああ」
その人はスウェンがこの店に来る途中,たまたま出会ったあの美少年だったのだ。この人が,助けてくれたなんて――。
「本当に助かったよ! でも大丈夫なの? あんな騒ぎ起こしちゃって」
「うん,大丈夫だろ。オレ,ああいうのとよく喧嘩するし」
少年は当たり前のようにそう言った。
「そんなことより,君の名前は?」
「スウェンだよ。スウェン・ミラー」
「……そうか。変わった名前だな。オレの名前は――一応,ジャック・マーティンだ。気軽にジャックって呼んでくれよな」
「う,うん。……一応ジャック……ね」
このジャックという少年,なかなか面白そうな人だ。悪い人間ではないだろう。スウェンは思わず微笑した。
「なぁスウェン。君はいつも,あの野郎共に酷いことをされてるのか?」
「……うん,そうだよ」
「そうか――最低だな! でももう安心しろよ。今日から君は友だちだからな! オレが守ってやる」
「……え?」
ジャックの言葉を聞いたスウェンは,わっと泣き出しそうになった。
この人生の中で,誰からも言ってもらえなかった言葉――こんな自分と,ジャックは友だちになってくれるなんて。
まるで夢を見ているようだった。
スウェンは今まで一度も味わったことのない,嬉しい気持ちになった。
「――スウェンは,笑ってる顏の方が似合うな」
「えぇ?」
「ジョーダン。そうだ,怪我してるだろ? オレが見てやるよ」
「いや……その」
蹴られたあとの傷は,すでになくなっていた。痛みだって感じない。もちろん,I・Bのおかげで。
「どうした。さっきので何箇所もやられてるだろ?」
「ううん,もう……治ってるよ」
ジャックは首を傾げた。当然のことだ。
仕方なくスウェンは,自らの腹を見せながら彼に説明をした。
「ほら,ここ,さっきやられた所だけど……傷なんてどこにもなくなっているだろう?」
「す,すげぇ。……どうなってるんだ!」
ジャックは目を丸くしていた。
「ぼくの身体は,何かの病気にかかってるみたいなんだ」
「病気?」
「どんな怪我を負っても,すぐに完治してしまう。I・Bって呼んでるんだけど,この病気の原因は全く分からないんだ」
ジャックは小さく頷くと,黙りこくってしまった。こんな話をジャックにしたところで,何の意味もないだろう。
しかし他人にI・Bのことを言ったのは,これが初めてだった。
スウェンは彼のことをじっと見つめる。
「うーん」
と,ジャックが口を開いた。
「こりゃ……珍しい病気,だな」
そう言ったまま,あとに続く言葉は何もなかった。別に期待していたわけではないが,何ともあっけない返事にスウェンは肩を落とす。
少し沈黙が続いてから,ジャックは明るい声でスウェンに言った。
「そういえば何か買うつもりでここに来たんだろ。もうあの野郎共はいなくなったんだし,買っちまえよ」
買いたいのは山々だったが,それができないのだ。
スウェンは首を横に振った。
「どした?」
「……買えないんだ」
「金がないのか」
「……うん」
じゃあ何しに来たんだ,とでも思われただろうか。スウェンは恥ずかしくなった。
「――だったら仕方ないよな」
「……」
「オレが奢ってやるよ」
「えェ?」
思いがけない言葉を聞いて,スウェンは思わず声が裏返った。ジャックの表情はいたって真面目である。
スウェンは戸惑った。
彼はそれほど金持ち,という感じはしない。気前がいいのか,それとも単に親切なのか。どちらにせよ,人に物を奢ってもらうなんてことスウェンには考えられなかった。
絶対に断らなければならない。
よく考えて,スウェンは自分が同情されているんだと思った。はっきり言ってそういうのは大嫌いであった。
「ジャック……同情だったらやめてくれ」
「何言ってるんだ? 別にそんなんじゃないよ。買いたいもんあるんだろ」
「それはそうなんだけど……」
「だろ? だから奢ってやんだ。
何でも好きな本選べよ」
「……」
なぜだろう。なぜジャックは,ここまでしてくれるのだろう。
スウェンには分からなかった。
「ねぇ……ジャック。ぼくたち,たった今出会ったばかりなんだよ。無理することないからね。
君がすごくいい人なんだってことは,よく分かったから」
「……無理,だと?」
急にジャックの顔付きが変わった。
「勘違いすんな! オレはただ,君の役に立ちたいだけなんだよ。無理なんてしてねぇ」
ジャックに怒鳴られ,スウェンはしばらくの間何も言えなくなった。なぜここまでムキになる必要があるのか。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

竜焔の騎士
時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証……
これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語―――
田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。
会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ?
マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。
「フールに、選ばれたのでしょう?」
突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!?
この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー!
天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

前世は元気、今世は病弱。それが望んだ人生です!〜新米神様のおまけ転生は心配される人生を望む〜
a.m.
ファンタジー
仕事帰りに友達と近所の中華料理屋さんで食事をしていた佐藤 元気(さとう げんき)は事件に巻き込まれて死んだ。
そんな時、まだ未熟者な神だと名乗る少年に転生の話をもちかけられる。
どのような転生を望むか聞かれた彼は、ながながと気持ちを告白し、『病弱に生まれたい』そう望んだ。
伯爵家の7人目の子供として転生した彼は、社交界ではいつ死んでもおかしくないと噂の病弱ライフをおくる
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
詐騎士
かいとーこ
ファンタジー
ある王国の新人騎士の中に、1人風変わりな少年がいた。傀儡術(かいらいじゅつ)という特殊な魔術で自らの身体を操り、女の子と間違えられがちな友人を常に守っている。しかし実はその少年こそが女の子だった! 性別も、年齢も、身分も、余命すらも詐称。飄々と空を飛び、仲間たちを振り回す新感覚のヒロイン登場!

転生しても、私の特異体質は治らない
とうか
ファンタジー
周りの人と自分が違うこと気づいた時にはもう遅く、いろいろ苦労をしてきた主人公が異世界に転生して、なおらなかった特異体質を使って人生を謳歌する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる