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第四章
もっと近づきたい
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その後、一時間以上イングリッシュローズの庭を散策した。休日ということもあり、多くの人が訪れていたが、俺の眼中にはもはや彼女しか映らない。
散歩中はほとんど彼女が話をしていて、俺は聞き役に回った。花に関する知識や想いを熱く語る彼女の顔を見ているだけで幸せだ。
「──ごめんなさいね、私ばかり喋って」
ベンチに腰かけ、彼女は我に返ったようにそう口にした。俺も、彼女の隣にそっと座る。
ほんの少しだけ、お互いの距離が近くなったように感じた。
「俺はサエさんの話が聞けて嬉しいし、楽しいよ」
ありのままに言えば、こんなにも口数が多い彼女を初めて見た。意外に思ったけれど、喜びの方が断然大きい。
やはり、アカネから聞いた噂はただの噂にすぎない。根拠のないゴシップなんかに惑わされてはダメだ。
今、目の前にいる彼女自身を見る方が重要。普段はクールなオーラを醸しているのに、花を愛でる姿はとても生き生きとしている。時折見せる笑顔が綺麗で、さりげない優しさで他人に手を差し伸べてくれる人。
俺が見ている彼女が本物なんだ。
風が囁くように、甘い香りを運んでくる。薔薇の爽やかな匂いが、より一層心を穏やかにしてくれた。
こんなにもムードが最高な場所で、彼女と一緒にいることが奇跡に思う。それと同時に、こんな願望が芽生えた。
──彼女に、もっと近づきたい。抱きしめたい。
お互いの肩が、触れ合いそうなほど近くにいるというのに。俺の欲は大きくなる一方だ。
突然抱きしめたりしたら、驚かせてしまうかも。嫌がられてしまうかも。それとも、怒られてしまうかも。
欲求と理性が、俺の中で戦っていた。彼女と二人きりの時間を過ごせるだけでも幸せなはずなのに。
反面、行動しなければこれ以上なにも始まらないと思った。
そうだ。悩んでいたって、仕方がない。
右手を伸ばし、俺は彼女の肩に腕を回す。勢いに任せ、華奢な体を強く抱き寄せた。
この瞬間、やわらかいぬくもりが俺の胸に伝ってくる。彼女から香る甘い匂いは、薔薇の花よりも癒しを与えてくれた。
「……イヴァン……?」
驚いたような声を出す彼女。表情は見えないが、もしかして緊張している?
俺の方は、言うまでもなく緊張している。
心臓がこれまでにないほど爆音を上げて大変なんだ。
嫌がられるなら、突き放してもらってもよかった。想いを伝える前にこんなことをしたら、戸惑わせてしまう。
だが、しばらく待ってみても、彼女はなにもしてこない。「やめて」とも言わない。抵抗しない。
その心情を読み取るのは難しいが、拒絶されていないと思いたかった。
「サエさん」
俺は、誰かを好きになるのが初めてだ。駆け引きとかもわからないし、デートの仕方だって知らない。
だけど彼女を想う気持ちに嘘はなく、日に日に好きという感情が大きくなっていくんだ。
悩む時間がもったいない。伝えたいときに伝える。これが一番、重要なんじゃないかな。
「俺、サエさんのことが、」
好き。
残りの二文字を声に出して言いたい。それなのに、喉元で止まってしまった。
自覚するよりも遥かに俺は緊張していた。
いつまでも最後のひとことを口にしない俺に疑問を持ったのか、彼女はおもむろに顔を上げた。
頬は真っ赤になっていて、瞳の奥まで熱くなっている気がした。
続きの言葉を、繫ぐんだ。素直に、まっすぐに、想いを綴ろう。
彼女の目をじっと見つめ、俺が意を決した、そのときだった。
「あれー? 玉木さん?」
散歩中はほとんど彼女が話をしていて、俺は聞き役に回った。花に関する知識や想いを熱く語る彼女の顔を見ているだけで幸せだ。
「──ごめんなさいね、私ばかり喋って」
ベンチに腰かけ、彼女は我に返ったようにそう口にした。俺も、彼女の隣にそっと座る。
ほんの少しだけ、お互いの距離が近くなったように感じた。
「俺はサエさんの話が聞けて嬉しいし、楽しいよ」
ありのままに言えば、こんなにも口数が多い彼女を初めて見た。意外に思ったけれど、喜びの方が断然大きい。
やはり、アカネから聞いた噂はただの噂にすぎない。根拠のないゴシップなんかに惑わされてはダメだ。
今、目の前にいる彼女自身を見る方が重要。普段はクールなオーラを醸しているのに、花を愛でる姿はとても生き生きとしている。時折見せる笑顔が綺麗で、さりげない優しさで他人に手を差し伸べてくれる人。
俺が見ている彼女が本物なんだ。
風が囁くように、甘い香りを運んでくる。薔薇の爽やかな匂いが、より一層心を穏やかにしてくれた。
こんなにもムードが最高な場所で、彼女と一緒にいることが奇跡に思う。それと同時に、こんな願望が芽生えた。
──彼女に、もっと近づきたい。抱きしめたい。
お互いの肩が、触れ合いそうなほど近くにいるというのに。俺の欲は大きくなる一方だ。
突然抱きしめたりしたら、驚かせてしまうかも。嫌がられてしまうかも。それとも、怒られてしまうかも。
欲求と理性が、俺の中で戦っていた。彼女と二人きりの時間を過ごせるだけでも幸せなはずなのに。
反面、行動しなければこれ以上なにも始まらないと思った。
そうだ。悩んでいたって、仕方がない。
右手を伸ばし、俺は彼女の肩に腕を回す。勢いに任せ、華奢な体を強く抱き寄せた。
この瞬間、やわらかいぬくもりが俺の胸に伝ってくる。彼女から香る甘い匂いは、薔薇の花よりも癒しを与えてくれた。
「……イヴァン……?」
驚いたような声を出す彼女。表情は見えないが、もしかして緊張している?
俺の方は、言うまでもなく緊張している。
心臓がこれまでにないほど爆音を上げて大変なんだ。
嫌がられるなら、突き放してもらってもよかった。想いを伝える前にこんなことをしたら、戸惑わせてしまう。
だが、しばらく待ってみても、彼女はなにもしてこない。「やめて」とも言わない。抵抗しない。
その心情を読み取るのは難しいが、拒絶されていないと思いたかった。
「サエさん」
俺は、誰かを好きになるのが初めてだ。駆け引きとかもわからないし、デートの仕方だって知らない。
だけど彼女を想う気持ちに嘘はなく、日に日に好きという感情が大きくなっていくんだ。
悩む時間がもったいない。伝えたいときに伝える。これが一番、重要なんじゃないかな。
「俺、サエさんのことが、」
好き。
残りの二文字を声に出して言いたい。それなのに、喉元で止まってしまった。
自覚するよりも遥かに俺は緊張していた。
いつまでも最後のひとことを口にしない俺に疑問を持ったのか、彼女はおもむろに顔を上げた。
頬は真っ赤になっていて、瞳の奥まで熱くなっている気がした。
続きの言葉を、繫ぐんだ。素直に、まっすぐに、想いを綴ろう。
彼女の目をじっと見つめ、俺が意を決した、そのときだった。
「あれー? 玉木さん?」
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