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第二章
手と手を合わせて
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彼女はゆっくりとこちらへ歩み寄った。それから、俺の顔をぐっと覗き込むんだ。
この瞬間に、甘い香りがふわっと漂ってくる。
たった今までイライラしていたはずなのに。負の感情が、俺の中から瞬時に消え去っていく。
……変だな。胸がドキドキする。彼女の目を上手く見ることができなくなってしまう。
「サエさん」
「なに?」
「サエさんは、俺を見てどう思う?」
「え……どう思うって?」
突拍子のない俺の問いかけに、彼女は戸惑ったような表情を浮かべた。
ハッとして、俺は無理に続きの言葉を並べていく。
「俺はみんなと違うから、だから……そのっ」
どうしても、上手く言葉が出てこなかった。
自分でもよくわからない。どうしてこんなことを彼女に投げかけているのか。
俺の心音は、どんどんと騒がしくなる一方だ。
俺はなにを求めているんだろう。
「あなたは日本人よ」とフォローでもされたいのか? 自分から慰めを求めるなんてどうかしてる。
これ以上はいけない。彼女を困らせてしまうから。
ふと冷静になり、俺はこの質問を取り消そうとした──
「なんだかよくわからないけど。あなたを見たってどうも思わないわ」
「……えっ?」
俺よりも〇・一秒先に、彼女が口を開いた。それも、うんざりしたように、ハッキリとした口調で。
「あなたが他の人と違う? そんなわけないじゃない」
思いもよらない言葉に、俺は唖然とする。
ちらっと彼女の顔に目を向けると、その瞳はまっすぐで、そして透き通っていた。嘘を言っているようには見えない。
正直俺は、とても動揺していた。
「俺は、こんな見た目をしているんだぞ。赤毛で青い目をしていて、肌だって白い。心は日本人なのに、本当の日本人じゃないんだ。……国籍は、イギリスなんだよ」
そこまで俺が喋ると、彼女は肩をすくめた。眉間にしわを寄せるその顔は、どこか切なさが交ざっている。
「気にしちゃ、ダメよ」
微かに、彼女の声が震えた気がした。
「国籍なんてどうでもいいって思ってる。イヴァンはイヴァンなんだから。あなたはどこにでもいる普通の男子高校生よ」
彼女はゆっくりと右手を伸ばすと、突如として俺の左手を握ってきたんだ。
予想外の出来事に、俺の全身がカッと熱くなった。
「サ、サエさん……?」
情けないほどに声が裏返ってしまう。
どきまぎする俺とは裏腹に、彼女は至って冷静だった。おもむろに俺の手のひらと自らの手のひらを重ねるんだ。
初めて触れる、彼女の指先。細くて小さくて、でも、とても柔らかくてあたたかい。
俺の心臓が、さらに高鳴った。俺の手の先から彼女の中へ、この心音が届いてしまいそうだ。
手と手を重ね合わせたまま、彼女はこう言った。
「私たちは、同じ人間よ。自分が何者かなんて迷う必要はない。人種がどうであれ、同じ空の下で生きているの」
誰からも言われたことのない言葉の数々に、俺は息を呑む。
変に慰めようとはしていない、けれど、俺の中に居座り続けるモヤモヤを自然と取り除いてくれるような力が、彼女の言葉には存在していた。
俺の手のひらをさっと放し、彼女は小さく息を吐く。
「で? どこにでもいる普通の男子高校生イヴァン・ファーマーは、どうして急に変なことを訊いてきたの?」
腕を組み、訝しげに問いかけてくる彼女はどこか不満げだった。
……そうだよな。いきなり変な質問をしたのは俺だ。彼女にとってはわけがわからないだろうな。
「ま、別に話したくなければ無理に訊かないから安心して」
これは、彼女なりの気遣いなんだろう。
俺の中にある、心の扉が開放される。そんな感覚がした。
いいかな、彼女にだったら。話してみても……。
この瞬間に、甘い香りがふわっと漂ってくる。
たった今までイライラしていたはずなのに。負の感情が、俺の中から瞬時に消え去っていく。
……変だな。胸がドキドキする。彼女の目を上手く見ることができなくなってしまう。
「サエさん」
「なに?」
「サエさんは、俺を見てどう思う?」
「え……どう思うって?」
突拍子のない俺の問いかけに、彼女は戸惑ったような表情を浮かべた。
ハッとして、俺は無理に続きの言葉を並べていく。
「俺はみんなと違うから、だから……そのっ」
どうしても、上手く言葉が出てこなかった。
自分でもよくわからない。どうしてこんなことを彼女に投げかけているのか。
俺の心音は、どんどんと騒がしくなる一方だ。
俺はなにを求めているんだろう。
「あなたは日本人よ」とフォローでもされたいのか? 自分から慰めを求めるなんてどうかしてる。
これ以上はいけない。彼女を困らせてしまうから。
ふと冷静になり、俺はこの質問を取り消そうとした──
「なんだかよくわからないけど。あなたを見たってどうも思わないわ」
「……えっ?」
俺よりも〇・一秒先に、彼女が口を開いた。それも、うんざりしたように、ハッキリとした口調で。
「あなたが他の人と違う? そんなわけないじゃない」
思いもよらない言葉に、俺は唖然とする。
ちらっと彼女の顔に目を向けると、その瞳はまっすぐで、そして透き通っていた。嘘を言っているようには見えない。
正直俺は、とても動揺していた。
「俺は、こんな見た目をしているんだぞ。赤毛で青い目をしていて、肌だって白い。心は日本人なのに、本当の日本人じゃないんだ。……国籍は、イギリスなんだよ」
そこまで俺が喋ると、彼女は肩をすくめた。眉間にしわを寄せるその顔は、どこか切なさが交ざっている。
「気にしちゃ、ダメよ」
微かに、彼女の声が震えた気がした。
「国籍なんてどうでもいいって思ってる。イヴァンはイヴァンなんだから。あなたはどこにでもいる普通の男子高校生よ」
彼女はゆっくりと右手を伸ばすと、突如として俺の左手を握ってきたんだ。
予想外の出来事に、俺の全身がカッと熱くなった。
「サ、サエさん……?」
情けないほどに声が裏返ってしまう。
どきまぎする俺とは裏腹に、彼女は至って冷静だった。おもむろに俺の手のひらと自らの手のひらを重ねるんだ。
初めて触れる、彼女の指先。細くて小さくて、でも、とても柔らかくてあたたかい。
俺の心臓が、さらに高鳴った。俺の手の先から彼女の中へ、この心音が届いてしまいそうだ。
手と手を重ね合わせたまま、彼女はこう言った。
「私たちは、同じ人間よ。自分が何者かなんて迷う必要はない。人種がどうであれ、同じ空の下で生きているの」
誰からも言われたことのない言葉の数々に、俺は息を呑む。
変に慰めようとはしていない、けれど、俺の中に居座り続けるモヤモヤを自然と取り除いてくれるような力が、彼女の言葉には存在していた。
俺の手のひらをさっと放し、彼女は小さく息を吐く。
「で? どこにでもいる普通の男子高校生イヴァン・ファーマーは、どうして急に変なことを訊いてきたの?」
腕を組み、訝しげに問いかけてくる彼女はどこか不満げだった。
……そうだよな。いきなり変な質問をしたのは俺だ。彼女にとってはわけがわからないだろうな。
「ま、別に話したくなければ無理に訊かないから安心して」
これは、彼女なりの気遣いなんだろう。
俺の中にある、心の扉が開放される。そんな感覚がした。
いいかな、彼女にだったら。話してみても……。
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