7 / 53
第一章
彼女を探し求めて
しおりを挟む◆
一日中、考えていた。彼女のことを。ちゃんと礼を言いたいと。
隙あらば外を眺め、彼女の姿を探した。
移動教室のときも、昼食のときも、体育のときも。ばったり会えないかと期待していた。
だが、そんなに事が上手くいくはずもない。
そもそもこの学校は、学年によって校舎が分かれている。よほどのきっかけがなければ、彼女に会うチャンスは訪れないだろう。
だとすれば──
帰りのホームルーム。一日のさよならを告げる号令がかかった直後、俺は鞄を持って猛ダッシュで校門へと向かった。
「おい、ファーマー! 廊下は走るな!」と、ガチ鬼の怒号が聞こえたが、気づかないふりをして昇降口を抜け出した。
一年の棟は敷地内の一番奥側にあって、他学年に比べると校門から多少の距離がある。
すでに上級生たちが下校を始めていた。
彼女は、まだ帰っていないよな?
わからないが、今日はバイトが休みだし時間ならいくらでもある。校門前で待っていれば、きっと会えるはず。
会いたい気持ちはあるのだが、礼を伝えたい気持ちも大きかった。礼を伝えるなら、早い方がいい。
頭を巡らせ校門に行き着いた頃には、すっかり息が上がっていた。ひとまず呼吸を落ち着かせ、俺は帰路に就く生徒たちを一人一人確認していく。
何人かが不思議そうな顔をしながらチラチラとこちらを見てきて、怪訝な表情を向けてくる輩までいた。相手と目が合ってしまったときには、やたらと気まずい空気が流れた。
中には「こいつはなぜ赤毛に染めてやがるんだ?」と思った奴もいるのかもしれない。明らかに文句がある顔をしているクセに、直接絡んではこないんだ。
俺の赤毛が憎たらしいか? そう問いかけてやってもいいが、無駄な揉め事はやめておこう。好奇の目で見てくる輩なんて無視するが一番。
多少のイラつきを抱えながらも、俺は彼女の姿を探し続けた。
──だんだん帰宅する人数が増えていく。
同級生たちも校門にぞろぞろとやって来た。その波に紛れたクラスメイトの数人が「まだ帰らないのか、イヴァン!」と声を掛けてきたりもした。
だが俺は、首を横に振って適当にあしらうのみ。つまらなそうに去っていく同級生たちを横目に、俺はその場から微動だにしなかった。
人の波がピークに達した頃、一人ずつ目で追うのがさすがに難しくなってきてしまう。前が詰まるのほどの数。下手をすれば、彼女を見失ってしまうかもしれない。
門の隅に寄り、俺はとにかく集中して目を配る。
十分、二十分と時が経ち、やがて人の流れは落ち着きを見せてきた。
校庭から、運動部が盛んに活動をするかけ声が鳴り響いてくる。活動のない生徒たちはほとんど帰っただろう。
……ダメだな。彼女を見つけられない。もしかして、見失ってしまったのか。それとも、彼女は部活に入っているのだろうか。
最終下校時刻は六時。現在は、四時半。あと一時間半は待ってみるべきか。
正直、そこまで待つのは退屈だ、なんて思った。せっかくここまで粘ったのに、帰るのも惜しい。
ひと目でいいから彼女に会いたい。そんな想いが、俺の中に存在していた。
退屈だっていい。最後まで待ってみよう。
その前にひと休みをしたいと、俺の喉は飲み物を欲していた。
校内にはいくつか自販機がある。ここから一番近いのは、食堂前だったかな。たしか、二年の棟の一階にあったはず。
まだ一度も利用したことがない食堂を目指し、迷いそうになりながらも歩みを進めた。二年の昇降口を通り過ぎ、全くひと気のない道を進む。こっちで合っているのだろうかと不安を抱えながらも、とりあえず奥の方へ進むと──
「あった」
思わずひとりごとが漏れる。
食堂入り口のすぐ横に立つ自販機。やっと見つけたところで、俺はハッとした。
自販機の真横にあるベンチに、一人の女子生徒が座っていた。足を組み、何かの分厚い本を読みながら、ワイヤレスイヤホンを耳に当てている。
綺麗な黒いショートボブは、西陽に照らされ、今日も一段と輝いて見えた。
間違いなく、彼女だった。
本来の探しものを見つけた瞬間、俺の胸が高鳴った。勢いよくベンチの前に立ち、彼女と視線を合わせるためにサッと跪つく。
「こんなところにいたんだね!」
彼女がイヤホンをしていてもお構いなしに、俺はガツガツと話しかけてみせた。
こちらの存在に気づいた彼女は、案の定というべきか、驚いたように目を見開くんだ。
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
【完結】サルビアの育てかた
朱村びすりん
恋愛
「血の繋がりなんて関係ないだろ!」
彼女を傷つける奴は誰であろうと許さない。例えそれが、彼女自身であったとしても──
それは、元孤児の少女と彼女の義理の兄であるヒルスの愛情物語。
ハニーストーンの家々が並ぶ、ある田舎町。ダンスの練習に励む少年ヒルスは、グリマルディ家の一人息子として平凡な暮らしをしていた。
そんなヒルスが十歳のとき、七歳年下のレイという女の子が家族としてやってきた。
だが、血の繋がりのない妹に戸惑うヒルスは、彼女のことをただの「同居人」としてしか見ておらず無干渉を貫いてきた。
レイとまともに会話すら交わさない日々を送る中、二人にとってあるきっかけが訪れる。
レイが八歳になった頃だった。ひょんなことからヒルスが通うダンススクールへ、彼女もレッスンを受けることになったのだ。これを機に、二人の関係は徐々に深いものになっていく。
ダンスに対するレイの真面目な姿勢を目の当たりにしたヒルスは、常に彼女を気にかけ「家族として」守りたいと思うようになった。
しかしグリマルディ家の一員になる前、レイには辛く惨い過去があり──心の奥に居座り続けるトラウマによって、彼女は苦しんでいた。
さまざまな事件、悲しい事故、彼女をさいなめようとする人々、そして大切な人たちとの別れ。
周囲の仲間たちに支えられながら苦難の壁を乗り越えていき、二人の絆は固くなる──
義兄妹の純愛、ダンス仲間との友情、家族の愛情をテーマにしたドラマティックヒューマンラブストーリー。
※当作品は現代英国を舞台としておりますが、一部架空の地名や店名、会場、施設等が登場します。ダンススクールやダンススタジオ、ストーリー上の事件・事故は全てフィクションです。
★special thanks★
表紙・ベアしゅう様
第3話挿絵・ベアしゅう様
第40話挿絵・黒木メイ様
第126話挿絵・テン様
第156話挿絵・陰東 愛香音様
最終話挿絵・ベアしゅう様
■本作品はエブリスタ様、ノベルアップ+様にて一部内容が変更されたものを公開しております。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる