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第十八章
163,紅い幻草と炎の戦士
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背筋がゾッとする。
葉先が当たった部分を見ると、きれいにひび割れしてしまった。鉄製であるというのに、葉が鎧を刻むことなど到底あり得ない。
「まさか、生きているのか?」
リュウキは眉間にしわを寄せる。
紅い幻草は、威嚇するように花びらを小刻みに揺らした。その震動によって、甲高い音が響き渡る。
再度リュウキは拳を握りしめた。瞬く間に炎が放出され、巨大化していく。
その様を見て──いや「察知」しているかのように、紅い幻草は大きな子葉をリュウキ目がけて振り落としてきた。
しかし怯まない。リュウキは駆け出し、紅い幻草に向かって両手を翳した。
刹那、鋭い葉が腕や両肩に当たり、鎧はみるみる切り刻まれていく。あっという間に防具の内まで葉先が到達し、身体が切りつけられた。
辺りに血が飛び散り、リュウキは痛みのあまり顔を歪める。それでも攻撃をやめなかった。
「残念だったね。僕は炎の戦士だ。幻草なんて、所詮ただの雑草だよ!」
作り笑いを浮かべ、リュウキは意識を更に集中させる。
みるみるうちに炎は熱を帯び、眩しい光で周囲を照らした。
今の今まで鋭利であった葉にリュウキの火が燃え移る。一部が赤く染まり、すぐに黒くなって炭となっていく──
その僅かな時間。
花びらの隙間から、何か粉のようなものが大量に放出された。
「……うっ!!」
突然の出来事に、リュウキは思わずその粉を勢いよく吸い込んでしまった。
鼻の中へ細かい粒子のようなものが侵入し、甘い香りが全身を巡る。
なんと奇妙な感覚だろうか。身体がおかしなほどに興奮してしまう。
目の前が真っ赤に染まり、全身が熱くなっていった。
まさか、これは、
(紅い幻草の成分か……?)
妙な音を立て、紅い幻草は小刻みに揺れ続ける。まるで甲高い声でリュウキを嘲笑っているようだ。
だが、もう悲観している場合ではない。
全身がどれだけ熱くなっても、興奮していてもどうでもいい。
この世の「元凶」を根元まで全て燃え尽くさなければならないのだから。
「僕は何も怖くないよ。覚悟を決めたからね……」
手のひらから溢れる炎は、閃光を放つ。たちまちのうちに紅い幻草は花も茎も葉も全てが火炎に包まれ、灰となった。
──これだけではまだ足りない。
各地に伸びきった根を燃やし尽くさねばならないのだ。
歯を食いしばり、リュウキは更に炎を巨大化させていく。両腕は痙攣し、血管が浮き出て汗が吹き出た。
力を押し出すほど、目の前が真っ赤になっていった。
リュウキは限界まで力を絞り出すつもりだ。
ここで何もかも終わりにさせる。揺るぎのない決意だ。
「さぁ、終わりにするよ」
地に生える根に、炎が燃え移る感覚がした。力の勢いをつければつけるほど、超特急で極太の根が焼け焦げていく。たしかな感触だ。
紅い幻草が燃えると同時に、周りに植えてある幻草も消滅し始めた。
──まるで、全ての幻草が繋がっているかの如く。
葉先が当たった部分を見ると、きれいにひび割れしてしまった。鉄製であるというのに、葉が鎧を刻むことなど到底あり得ない。
「まさか、生きているのか?」
リュウキは眉間にしわを寄せる。
紅い幻草は、威嚇するように花びらを小刻みに揺らした。その震動によって、甲高い音が響き渡る。
再度リュウキは拳を握りしめた。瞬く間に炎が放出され、巨大化していく。
その様を見て──いや「察知」しているかのように、紅い幻草は大きな子葉をリュウキ目がけて振り落としてきた。
しかし怯まない。リュウキは駆け出し、紅い幻草に向かって両手を翳した。
刹那、鋭い葉が腕や両肩に当たり、鎧はみるみる切り刻まれていく。あっという間に防具の内まで葉先が到達し、身体が切りつけられた。
辺りに血が飛び散り、リュウキは痛みのあまり顔を歪める。それでも攻撃をやめなかった。
「残念だったね。僕は炎の戦士だ。幻草なんて、所詮ただの雑草だよ!」
作り笑いを浮かべ、リュウキは意識を更に集中させる。
みるみるうちに炎は熱を帯び、眩しい光で周囲を照らした。
今の今まで鋭利であった葉にリュウキの火が燃え移る。一部が赤く染まり、すぐに黒くなって炭となっていく──
その僅かな時間。
花びらの隙間から、何か粉のようなものが大量に放出された。
「……うっ!!」
突然の出来事に、リュウキは思わずその粉を勢いよく吸い込んでしまった。
鼻の中へ細かい粒子のようなものが侵入し、甘い香りが全身を巡る。
なんと奇妙な感覚だろうか。身体がおかしなほどに興奮してしまう。
目の前が真っ赤に染まり、全身が熱くなっていった。
まさか、これは、
(紅い幻草の成分か……?)
妙な音を立て、紅い幻草は小刻みに揺れ続ける。まるで甲高い声でリュウキを嘲笑っているようだ。
だが、もう悲観している場合ではない。
全身がどれだけ熱くなっても、興奮していてもどうでもいい。
この世の「元凶」を根元まで全て燃え尽くさなければならないのだから。
「僕は何も怖くないよ。覚悟を決めたからね……」
手のひらから溢れる炎は、閃光を放つ。たちまちのうちに紅い幻草は花も茎も葉も全てが火炎に包まれ、灰となった。
──これだけではまだ足りない。
各地に伸びきった根を燃やし尽くさねばならないのだ。
歯を食いしばり、リュウキは更に炎を巨大化させていく。両腕は痙攣し、血管が浮き出て汗が吹き出た。
力を押し出すほど、目の前が真っ赤になっていった。
リュウキは限界まで力を絞り出すつもりだ。
ここで何もかも終わりにさせる。揺るぎのない決意だ。
「さぁ、終わりにするよ」
地に生える根に、炎が燃え移る感覚がした。力の勢いをつければつけるほど、超特急で極太の根が焼け焦げていく。たしかな感触だ。
紅い幻草が燃えると同時に、周りに植えてある幻草も消滅し始めた。
──まるで、全ての幻草が繋がっているかの如く。
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