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第十七章
152,災いの炎
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リュウキは、彼のことをじっと見つめた。一点を見据えるだけで冷や汗が流れる。僅かな集中力でも苦しい。
だけど、真実を知りたい──
強く、強くそう思った。
(あれ……?)
すぐさま違和感に気づく。ナナシの身体には、普通の人間とは異なる部分があった。
耳がまるで猫耳のようだ。しかも、臀部からは長い尾が生えている。彼の爪や牙はとんでもなく鋭かった。普通の人間ではあり得ない。
まさか、ナナシはナナシではなかったのか。ヤエの大切な友──ハクであるというのか。
(なんということだ……)
ハクは真っ赤な目をして唸り声を上げる。大きな白い身体はあちこち血がこびりつき、埃で汚れていた。右手──つまり、前の右脚部分がなくても、彼は勇ましく三本の「脚」だけで立ち上がった。
(そうか……そうだったのか。もう、とっくに旅は終わっていたんだね)
リュウキが人間と化け物の狭間でもがいているうちに、ヤエは記憶を取り戻し、ハクも戻ってきていた。本来の旅の目的は全て果たしている。
そう思うと、リュウキは気が楽になった。
これで、彼女は幸せに暮らしていけるのだと。
(どうかお願いだ)
もう一度、リュウキは懇願した。氷の剱に目を向ける。
この苦しみから一刻も早く解放されたかった。
(もう終わりなんだ。その剱で、どうか僕を殺してくれ……)
リュウキは残り僅かの力で身体を動かした。シュウが手に持つ氷の剱に狙いを定める。
「リュウキ様、止まって下さい。でなければあなたを斬りますぞ!」
シュウは目を見開き、そう忠告してくる。
だがリュウキは決して止まらない。
──斬ってほしい、斬ってくれ。この首を冷たい剱で斬り落としてくれ。
美しく透明に輝く刃は、リュウキの生命を奪う準備をするかのように鋭さが増していった。
化け物になる前に。世界を燃やし尽くしてしまう前に。
──僕が僕でなくなる前に。
自らの生命を絶ちたかったのだ。
たが──それを許さない者がいた。ヤエだ。泣き叫び、冷たい眼差しを向けてきた。彼女は躊躇うことなくリュウキの前に立ちはだかり、両手を広げるのだ。
(ヤエ? 何をしているんだ。このままでは君は、僕の炎に飲み込まれてしまうぞ)
リュウキはカッと目を開く。どうにかして自らの暴走を止めたかった。しかし、もう遅い。止まれない。無理だ、どう考えてもだめだ。
彼女が炎の龍に引きずり込まれてしまう!
「うっ……!!」
痛ましい声を漏らす彼女は、あっという間に灼熱の炎に包まれてしまった。
「ヤエ!」
「ヤエ!!」
「ヤエさん!」
仲間たちが一斉に彼女の名を叫ぶ。だが、誰もこの炎には近づけない。
どうすればいい。一体、どうすれば。このままではヤエが焼身して死んでしまう。
焦ったリュウキは、震える手で目前にいる彼女の身体を掴んだ。どうにかして炎の龍から引き剥がそうとするが、全く力が入らない。それどころか、炎は勢いを増し、リュウキの意思など無視してどんどん彼女を引き寄せてしまう。
(君に死んでほしくない。このままでは僕の火で君を殺してしまうことになる。嫌だ、そんなの絶対に嫌だ!!)
リュウキが拒絶しようとするほど、噴き出る炎の温度が更に上昇していった──
だけど、真実を知りたい──
強く、強くそう思った。
(あれ……?)
すぐさま違和感に気づく。ナナシの身体には、普通の人間とは異なる部分があった。
耳がまるで猫耳のようだ。しかも、臀部からは長い尾が生えている。彼の爪や牙はとんでもなく鋭かった。普通の人間ではあり得ない。
まさか、ナナシはナナシではなかったのか。ヤエの大切な友──ハクであるというのか。
(なんということだ……)
ハクは真っ赤な目をして唸り声を上げる。大きな白い身体はあちこち血がこびりつき、埃で汚れていた。右手──つまり、前の右脚部分がなくても、彼は勇ましく三本の「脚」だけで立ち上がった。
(そうか……そうだったのか。もう、とっくに旅は終わっていたんだね)
リュウキが人間と化け物の狭間でもがいているうちに、ヤエは記憶を取り戻し、ハクも戻ってきていた。本来の旅の目的は全て果たしている。
そう思うと、リュウキは気が楽になった。
これで、彼女は幸せに暮らしていけるのだと。
(どうかお願いだ)
もう一度、リュウキは懇願した。氷の剱に目を向ける。
この苦しみから一刻も早く解放されたかった。
(もう終わりなんだ。その剱で、どうか僕を殺してくれ……)
リュウキは残り僅かの力で身体を動かした。シュウが手に持つ氷の剱に狙いを定める。
「リュウキ様、止まって下さい。でなければあなたを斬りますぞ!」
シュウは目を見開き、そう忠告してくる。
だがリュウキは決して止まらない。
──斬ってほしい、斬ってくれ。この首を冷たい剱で斬り落としてくれ。
美しく透明に輝く刃は、リュウキの生命を奪う準備をするかのように鋭さが増していった。
化け物になる前に。世界を燃やし尽くしてしまう前に。
──僕が僕でなくなる前に。
自らの生命を絶ちたかったのだ。
たが──それを許さない者がいた。ヤエだ。泣き叫び、冷たい眼差しを向けてきた。彼女は躊躇うことなくリュウキの前に立ちはだかり、両手を広げるのだ。
(ヤエ? 何をしているんだ。このままでは君は、僕の炎に飲み込まれてしまうぞ)
リュウキはカッと目を開く。どうにかして自らの暴走を止めたかった。しかし、もう遅い。止まれない。無理だ、どう考えてもだめだ。
彼女が炎の龍に引きずり込まれてしまう!
「うっ……!!」
痛ましい声を漏らす彼女は、あっという間に灼熱の炎に包まれてしまった。
「ヤエ!」
「ヤエ!!」
「ヤエさん!」
仲間たちが一斉に彼女の名を叫ぶ。だが、誰もこの炎には近づけない。
どうすればいい。一体、どうすれば。このままではヤエが焼身して死んでしまう。
焦ったリュウキは、震える手で目前にいる彼女の身体を掴んだ。どうにかして炎の龍から引き剥がそうとするが、全く力が入らない。それどころか、炎は勢いを増し、リュウキの意思など無視してどんどん彼女を引き寄せてしまう。
(君に死んでほしくない。このままでは僕の火で君を殺してしまうことになる。嫌だ、そんなの絶対に嫌だ!!)
リュウキが拒絶しようとするほど、噴き出る炎の温度が更に上昇していった──
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