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第十六章

146,仲間とともに

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 これ以上、化け物を増やしてはならない。ヤエは強くそう思った。

 恐れることはない。兄や仲間たちがついている。落ち着いて氷の力を発揮すれば、きっと彼を救い出せるはずだ。
 リュウキは幻想で見た偽りの自分を信じてしまっているから、今にも精神崩壊を起こしそうになっている。シシ村で兵士たちに「皇帝」と呼ばれたことで、更に混乱してしまった。彼は世を乱す北の皇帝などではない。心優しい皇子である。
 大きな勘違いを解くだけで良い。

「ヤエ、リュウキ様が怖くないか?」

 シュウは神妙な面持ちだった。
 そんな兄の問いに、ヤエは首を横に振る。

「怖くありません。誠のリュウキ様は、優しいお方です」
「よいだろう。信じる心があれば大丈夫だ。リュウキ様のそばへ行き、ヤエの想いを伝えればよい」

 ヤエの目をしっかりと見つめ、シュウは微笑した。
 今なら、兄の言葉がよく理解できる。

(リュウキ様、必ず私が誠のあなたを取り戻してみせます……!)


 ──それから一行は、再びシュキ城へと足を運んだ。南門の裏側で様子を伺う。

「ますます火の威力がでかくなってやがる……」

 怪訝な顔をしながらハクは呟いた。
 先程よりも熱気が上昇しているのが肌で分かる。

「わたしがヤエをリュウキ様の元へ導く。決して離れるな。怯まずに進むのだ」

 シュウの言葉に、ヤエは迷いなく首肯する。

 焼け焦げた匂いが漂い、最西門の方はだいぶ朽ち果ててしまっていた。シュキ城も原型をとどめないほどに燃え上がり、熱気がここまで漂ってくるほど荒れている。
 深刻な状況を間近で目の当たりにし、ヤエの額から大粒の汗が滴り落ちた。
 すると朱鷺の少女は、満面の笑みをヤエに向けるのだ。

「きっと大丈夫! わたしたちがヤエを援護するし、リュウキも絶対助かるから!」

 そう言うと、ギュッとヤエの両手を包み込んだ。人間の姿の彼女は、本当に美しい。いや、本来の姿ももちろん綺麗だ。こんなにも彼女が清らかに見えるのは、心が優しさに満ちているからなのだろう。

「よし、行くぞ」

 シュウは、低い姿勢で南門の向こう側に一歩を踏み出す。それに続き、ヤエもシュキ城の方へ向かおうとした。
 その時だ。

「待て」

 突然、ハクが低い声を出す。

「嫌な気配がするぜ……」

 ハクの呟きとほぼ同時に、何やら城内が騒がしくなった。
 炎の龍が暴れ回る音ではない。複数の足跡や鳴き声が、爆撃音に混ざって聞こえてきたのだ。

「あれは」

 城内に湧き出てきたものを確認し、ヤエは目を見開いた。

 口から大量の唾液を垂れ流し、呻き声を上げる動物たち──いや、違う。彼らの目は、もはや正常な生き物のものではなくなっていた。ギョロギョロとした真っ赤な瞳で辺りを見回している。

「たった今、化け物に変貌しちまった奴らだな……」
「最西端の方角からどんどん溢れてくるよ!」

 ハクと朱鷺の少女は呆気に取られるように見据える。
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