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第十六章

139,惨状

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「だいぶ派手にやり合ったようだな……」

 予想以上の惨状に、シュウは小さく息を吐く。シュキ城の入り口へ、やっとの思いで辿り着いたというのに。
 城外の周辺は至る所が荒々しく地割れしており、木々はへし折られ丸焦げになったものまである。

 ゆっくりと馬を歩かせ、シュウは息を呑んだ。
 ここでリュウトとハクたちが闘争したのは状況的に明白。だが──辺りには誰もいないようだ。

 城門に目をやると、それは破壊されていた。ところどころに霜が張っていることに気づき、これはヤエがやったものだと理解する。
 そばには衛兵らしき者もいなかった。

 シュウはこの時点で察する。皆、シュキ城のある最西端の地へと向かったのだろう、と。

 早急に向かわなければならない。
 馬を速歩させて城門をくぐり抜けようとした、その折である。
 シュウはあるものを目撃してしまった。

「これは……?」

 血の海と化した大地に、何か得体の知れないものが転がり落ちているのだ。じっと見つめると──それは、肉の破片に見えた。

「まさか」

 血に染められた「それ」は、本来ならば白く美しい毛を纏っているはずだ。だが今は、無惨にも赤黒くなっている。引きちぎられたであろう部分からは骨などが露出しており、肉の部分には大量の虫が集っていた。
 それを見たシュウは身震いする。

「これは……ハクの脚か」

 ──間違いない。
 物体を覆う毛は虎模様をしている。指先部分には鋭い爪が剥き出しになっていた。いつも狩りや戦の際、ハクはこれを武器として敵を蹴散らしていたのだ。
 長年共に過ごしてきたシュウだからこそ分かる。これが相棒の身体の一部であることを。

「あいつは、無事なのか……?」

 じんわりと、シュウの脇から冷や汗が滲み出る。
 馬具を強く握り締め、慌ててシュキ城へ赴こうとした、その矢先であった。

(あれは)

 東側の方から、砂埃が舞う。その先に、馬に乗った集団がこちらへ向かってきているのが遠方に見えたのだ。シュウは目を細め、じっと彼らを観察する。
 各々武器を所持していて、鎧を纏っていた。

 軍旗も見える。そこには──はっきりと「東」と記されているのだ。

「東軍か……」

 これからシュキ城を攻めようと参ったのだろう。最西端はこれから大混乱に陥る。
 戦を止めなければ。

 シュウは馬を東軍の方へ向ける。すると東兵たちもこちらの存在に気づいたようだ。数百歩先で一度進軍を止める。

「何者だ」

 白馬に乗る立派な翠色の鎧を纏った男がシュウを睨む。将軍だろう。

 出来る限り落ち着いた口調でシュウは答える。

「ソン・シュウと申す」
「ソン……? まさか、北皇帝側近のソン将軍であるか!」

 どよめく兵士たち。
 しかしシュウはゆっくりと首を横に振った。

「正しくは武将だ。今はもう、北国の裏切り者として皇帝に命を狙われている」
「何だと……?」
「それゆえ、争うことは望まぬ。それよりも、今すぐここを立ち去ってほしいのだ」
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