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第十五章
135,最西門
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※
息が苦しい。走っても走ってもあの男は──リュウトは追いかけてくる。
「殺す、殺してやる、愚かな女め」
なんと恐ろしい形相か。
延々と地響きが鳴り渡り、大地の揺れは激しくなるばかり。
絶対に捕まってはならない……!
これでもかというほどに、ヤエは全速力で逃走していく。
──やがて前方に、巨大な建造物が見えてきた。周囲は巨大な壁に囲まれていて、鉄製であろう巨大な門には「最西門」と記されている。
(最西……? まさか、あそこは……)
ヤエは助けを求めようと門へ向かって更に加速した。足の感覚がほぼない。体力も限界に達してしまいそうだ。それでも構わずに、風を切って駆け抜ける。
すると──こちらの存在に気づいたのであろう、数名の兵士たちが角楼から顔を出した。皆、ヤエと同じ黄土色の鎧を纏っている。
西兵だ。
「やはり、シュキ城なのね……!」
確信した。
こちらを見下ろす兵たちに向かって、ヤエは声の限り叫んだ。
「助けて! お願いです、最西門を開けて……!」
息が上がり、掠れた声しか出ない。
兵たちは状況を察したのだろう、最西門が徐々に開かれていく。
西兵の鎧を纏うヤエは仲間だと思われたらしい。兄のシュウが備えてくれた西兵の鎧が、正に救いとなった。
「早く中へ!」
驚いたような顔をして兵たちが手招きをしている。
門内へ避難すれば、一時的にでもリュウトから逃れられる! ヤエは苦しくも力を振り絞って大地を駆けていく。
「待て、待て! ヤエ! 朕から逃れられると思うなよ!!」
背後からリュウトの罵声が浴びせられる。地響きは更に酷くなっていった。
決して後ろを振り向かない。ヤエは何とか門の目前まで走り着いた。今にも崩れそうになる足で門内に足を踏み入れ、それと同時に倒れ込んでしまった。
「おい、お前。大丈夫か!?」
心配するように、他の西兵たちが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「早く……門を……閉めて……!」
呼吸が乱れる中、ヤエは必死に訴えた。
リュウトがシュキ城へ攻め入ってきてしまっては、ここにいる者は全員殺されてしまう。
振り返ると、両腕の筋肉が更に増大したリュウトの姿があった。二〇〇歩先まで迫り来ている──!
「あいつは、化け物なの……! 早く……門を閉めて!!」
もう一度ヤエが声を絞り出すと、兵たちは慌てたように最西門を閉ざしていく。
「待て、待つのだ。ヤエ、ヤエ!! 待て──」
眉間に深い皺を刻み、真っ赤な目でこちらを睨むリュウトは門の向こう側で叫び続けた。頑丈な鉄製の門が完全に閉ざされても、地響きは止まない。
しかし閉門後は奴の声が遠くに感じるようになった。ヤエの気持ちは束の間、落ち着きを取り戻す。
「おい! 一体何があったんだよ!」
目を丸くする兵士たちは混乱した様子だ。
どうにか呼吸を整え、ヤエは声を震わせながら答えた。
「あの者は……北の皇帝、リュウトです」
「な、何……!?」
兵士たちの顔はみるみるうちに青ざめていく。
「なぜ北国の皇帝がシュキ城にっ?」
「幻草成分を浴びて化け物になったという噂があるぞ……」
ざわつく兵士たちの顔を眺めながら、ヤエは真剣な声で話を続ける。
「あの者の狙いは私です。すぐにこの門も破られるでしょう。あなたたちを巻き込みたくありません。今すぐお逃げ下さい」
「はっ? 何言ってるんだ? なぜ北の皇帝がお前のような一般兵を狙う?」
「それは──話すと長くなります。時間がありません。とにかく今すぐにこの場から立ち去りましょう!」
ヤエが力説するも、兵たちは顔を見合わせながら複雑な表情を浮かべる。それから、ゆっくりと首を横に振るのだ。
「それは、出来ない」
「なぜです? 留まっていたら必ず殺されますよ!」
「そんなことを言われても、このシュキ城を守ると陛下とお約束をしたのだ!」
「そうだ、殺されるのが恐くて城を捨てるわけにはいかねぇ!」
息が苦しい。走っても走ってもあの男は──リュウトは追いかけてくる。
「殺す、殺してやる、愚かな女め」
なんと恐ろしい形相か。
延々と地響きが鳴り渡り、大地の揺れは激しくなるばかり。
絶対に捕まってはならない……!
これでもかというほどに、ヤエは全速力で逃走していく。
──やがて前方に、巨大な建造物が見えてきた。周囲は巨大な壁に囲まれていて、鉄製であろう巨大な門には「最西門」と記されている。
(最西……? まさか、あそこは……)
ヤエは助けを求めようと門へ向かって更に加速した。足の感覚がほぼない。体力も限界に達してしまいそうだ。それでも構わずに、風を切って駆け抜ける。
すると──こちらの存在に気づいたのであろう、数名の兵士たちが角楼から顔を出した。皆、ヤエと同じ黄土色の鎧を纏っている。
西兵だ。
「やはり、シュキ城なのね……!」
確信した。
こちらを見下ろす兵たちに向かって、ヤエは声の限り叫んだ。
「助けて! お願いです、最西門を開けて……!」
息が上がり、掠れた声しか出ない。
兵たちは状況を察したのだろう、最西門が徐々に開かれていく。
西兵の鎧を纏うヤエは仲間だと思われたらしい。兄のシュウが備えてくれた西兵の鎧が、正に救いとなった。
「早く中へ!」
驚いたような顔をして兵たちが手招きをしている。
門内へ避難すれば、一時的にでもリュウトから逃れられる! ヤエは苦しくも力を振り絞って大地を駆けていく。
「待て、待て! ヤエ! 朕から逃れられると思うなよ!!」
背後からリュウトの罵声が浴びせられる。地響きは更に酷くなっていった。
決して後ろを振り向かない。ヤエは何とか門の目前まで走り着いた。今にも崩れそうになる足で門内に足を踏み入れ、それと同時に倒れ込んでしまった。
「おい、お前。大丈夫か!?」
心配するように、他の西兵たちが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「早く……門を……閉めて……!」
呼吸が乱れる中、ヤエは必死に訴えた。
リュウトがシュキ城へ攻め入ってきてしまっては、ここにいる者は全員殺されてしまう。
振り返ると、両腕の筋肉が更に増大したリュウトの姿があった。二〇〇歩先まで迫り来ている──!
「あいつは、化け物なの……! 早く……門を閉めて!!」
もう一度ヤエが声を絞り出すと、兵たちは慌てたように最西門を閉ざしていく。
「待て、待つのだ。ヤエ、ヤエ!! 待て──」
眉間に深い皺を刻み、真っ赤な目でこちらを睨むリュウトは門の向こう側で叫び続けた。頑丈な鉄製の門が完全に閉ざされても、地響きは止まない。
しかし閉門後は奴の声が遠くに感じるようになった。ヤエの気持ちは束の間、落ち着きを取り戻す。
「おい! 一体何があったんだよ!」
目を丸くする兵士たちは混乱した様子だ。
どうにか呼吸を整え、ヤエは声を震わせながら答えた。
「あの者は……北の皇帝、リュウトです」
「な、何……!?」
兵士たちの顔はみるみるうちに青ざめていく。
「なぜ北国の皇帝がシュキ城にっ?」
「幻草成分を浴びて化け物になったという噂があるぞ……」
ざわつく兵士たちの顔を眺めながら、ヤエは真剣な声で話を続ける。
「あの者の狙いは私です。すぐにこの門も破られるでしょう。あなたたちを巻き込みたくありません。今すぐお逃げ下さい」
「はっ? 何言ってるんだ? なぜ北の皇帝がお前のような一般兵を狙う?」
「それは──話すと長くなります。時間がありません。とにかく今すぐにこの場から立ち去りましょう!」
ヤエが力説するも、兵たちは顔を見合わせながら複雑な表情を浮かべる。それから、ゆっくりと首を横に振るのだ。
「それは、出来ない」
「なぜです? 留まっていたら必ず殺されますよ!」
「そんなことを言われても、このシュキ城を守ると陛下とお約束をしたのだ!」
「そうだ、殺されるのが恐くて城を捨てるわけにはいかねぇ!」
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