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第十五章
134,彼女を捜し求めて
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遂に、意識を手放す覚悟を決めた。思考を停止し、闇に沈んでゆこう。
さようなら、ヤエ。今までありがとう。君と出会い共に旅をして本当に楽しかった。たとえ誠の化け物になろうとも、意識の奥底で君の倖せを願い続けよう。
──リュウキが闇に落ちる、正に寸前のことであった。
『……助けて』
遙か彼方から、叫び声が聞こえた気がした。
『リュウキ様、助けて』
いや、気のせいではない。
彼女だ。彼女の悲痛の声が、リュウキの耳に響いてきた。
(ヤエ、か……?)
精神を保とうと、リュウキはもう一度重い瞼を開いた。
目の前は、相変わらず真っ赤に染まっている。身体は、巨大な炎に包まれて宙を浮いたままだ。
(どこだ。どこにいる……?)
今にも失いそうな意識で、リュウキは力を振り絞って彼女の姿を捜した。目線を下ろす。
最初に目に付いたのは、大きな建造物であった。まるで王が住むような、立派な佇まい。黒い屋根の部分に銅像が飾られており、龍の姿をしている。敵を威嚇するかのように、口を大きく開いて牙を剥き出しにし今にも動きだしそうだ。
建物の周辺には角楼があり、目を凝らしてよく見てみると──そこには何人もの兵士たちが立っていた。皆こちらを見上げ、唖然としているようだった。
どうやら今リュウキが浮いている場所は、城の上のようだ。あの兵士たちは城を守っているのだろう。
そこで一つ疑問が生まれる。
このような所に、彼女がいるわけがない。
リュウキはそう思ったが──
「助けて……助けて!!」
またもや、叫び声がリュウキの耳まで届いた。今度ははっきりと聞こえる。
(やはりヤエか。どこにいるんだ……!?)
途端にリュウキの身体に力が漲る。全身を包む炎は更に熱を上げ、巨大化していった。
勝手に動く自分の身体に逆らい、彼女を捜した。進行方向を変え、声がした方へ流れる。
風に乗り、城下町のある場所まで行き着いた。嘘みたいに誰もおらず、しんと静まり返っている。
(ヤエ……)
リュウキは彼女の名を呼びかけようとしたが、声に出すことがどうしても出来なかった。
(危険な目に遭っているのか? 助けたい、助けたい……!)
どんなに心が壊れそうでも、この気持ちだけは変わることはない。
彼女の笑顔が見たい。守り通したい。
──僕が僕でなくなる前に。
彼女を守る為に精神を立て直さなければ!
彼女を愛する資格がなくても関係ない。
リュウキは自分自身の気持ちに嘘をつきたくなかったのだ。
さようなら、ヤエ。今までありがとう。君と出会い共に旅をして本当に楽しかった。たとえ誠の化け物になろうとも、意識の奥底で君の倖せを願い続けよう。
──リュウキが闇に落ちる、正に寸前のことであった。
『……助けて』
遙か彼方から、叫び声が聞こえた気がした。
『リュウキ様、助けて』
いや、気のせいではない。
彼女だ。彼女の悲痛の声が、リュウキの耳に響いてきた。
(ヤエ、か……?)
精神を保とうと、リュウキはもう一度重い瞼を開いた。
目の前は、相変わらず真っ赤に染まっている。身体は、巨大な炎に包まれて宙を浮いたままだ。
(どこだ。どこにいる……?)
今にも失いそうな意識で、リュウキは力を振り絞って彼女の姿を捜した。目線を下ろす。
最初に目に付いたのは、大きな建造物であった。まるで王が住むような、立派な佇まい。黒い屋根の部分に銅像が飾られており、龍の姿をしている。敵を威嚇するかのように、口を大きく開いて牙を剥き出しにし今にも動きだしそうだ。
建物の周辺には角楼があり、目を凝らしてよく見てみると──そこには何人もの兵士たちが立っていた。皆こちらを見上げ、唖然としているようだった。
どうやら今リュウキが浮いている場所は、城の上のようだ。あの兵士たちは城を守っているのだろう。
そこで一つ疑問が生まれる。
このような所に、彼女がいるわけがない。
リュウキはそう思ったが──
「助けて……助けて!!」
またもや、叫び声がリュウキの耳まで届いた。今度ははっきりと聞こえる。
(やはりヤエか。どこにいるんだ……!?)
途端にリュウキの身体に力が漲る。全身を包む炎は更に熱を上げ、巨大化していった。
勝手に動く自分の身体に逆らい、彼女を捜した。進行方向を変え、声がした方へ流れる。
風に乗り、城下町のある場所まで行き着いた。嘘みたいに誰もおらず、しんと静まり返っている。
(ヤエ……)
リュウキは彼女の名を呼びかけようとしたが、声に出すことがどうしても出来なかった。
(危険な目に遭っているのか? 助けたい、助けたい……!)
どんなに心が壊れそうでも、この気持ちだけは変わることはない。
彼女の笑顔が見たい。守り通したい。
──僕が僕でなくなる前に。
彼女を守る為に精神を立て直さなければ!
彼女を愛する資格がなくても関係ない。
リュウキは自分自身の気持ちに嘘をつきたくなかったのだ。
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