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第十五章
131,再会
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──身体が軽い。あたたかみも感じる。死の直前は想像していたものとは全く違っていた。こんなにも心地が良いものなのだなんて。
ハクは目を閉じながら、最後に夢想した。
彼女を──ヤエを守る為に、大勢の敵と戦っているのだ。右肩から下を無くしたというのに、力はみるみる漲り、攻防する自分の姿が見えた。
死ぬ間際であっても、まだ諦めきれない。彼女を守りたいという想いが消えない。往生際が悪い。無念だ。こんなボロボロの身では、まともに戦えるわけもないのに。
「……ちょっと、無茶しすぎないでね?」
「ん?」
ハクの妄想を遮断するように、またもや女性の声が聞こえた。少し焦ったような、でも呆れたような口調。
「もう、大丈夫だからね。ほら、目を開けてみて、ナナシさん?」
ナナシ?
心の中でハクは首を傾げる。
(ヤエたちに正体を隠す為に適当に名乗ったものだぞ……)
ハッとした。一気に意識が呼び起こされる。
一度は幻覚だと思ったが、どうやらそれは違ったらしい。
目を開けると、たしかにいるのだ。朱鷺の彼女が。
「おはよう、やっと起きた」
おっとりした表情で、彼女はハクを見ている。
ハクの胸が高鳴る。
「あんたは……あの日に会った朱鷺だよな」
「そうでーす。覚えていてくれたんだね!」
くすくすと可愛らしく笑う朱鷺の少女を見て、ハクは固まってしまう。
どういうことだ? なぜ彼女がここに?
「どういうことだって頭がこんがらがってるね?」
「……おう」
「助けに来たんだよ。ナナシさんたちがとっても危ない目に遭っているから」
「わざわざこんな遠いところまで飛んできたのか。翼がボロボロじゃねえか」
美しい羽根がところどころ抜けていて、なおかつ黒ずんでいた。どれだけ急いでここまで来たのか考えなくても分かる。
それでも彼女は笑みを絶やさない。
「頑張ってるナナシさんたちの力になりたいだけだよ。右肩と前脚が片方なくなっちゃったね……」
「……ああ、しくじった。あのリュウトの野郎、思った以上に強い。甘く見てた俺の失態だ」
ハクはふと自分の右肩があった箇所を見る。あれほど出血していたのに、今はなぜか止まっていた。絶望的なあの痛みもなぜだか全く感じない。
「どういうことだ──?」
ハクは首を捻る。
すると、朱鷺の少女がハクのなき右肩にそっと触れるのだ。
「わたしの力であなたの傷を癒やしたの」
「癒やし……? ああ、あんたの特異能力か」
「とりあえず、死は免れたね!」
「……でかい仮が出来たな」
「でもね、引きちぎられた右肩はもう元に戻せないの。ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「だって……」
そこで彼女の表情がみるみる暗くなっていく。目を潤わせ、身体を震わせる。
「あと少し遅かったら……あなたは本当に死んでいたよ。あんなに血だらけになって、瀕死の状態だったんだもの。驚いたし、恐かった……!」
「お、おい。何だよ。泣くな」
朱鷺の少女の声は、どんどん震えていく。甲高い声で泣き始め、ハクに抱きついた。
「死なんて今更恐くねぇよ」
「どうしてそんなこと言うの!?」
「どうしてって……覚悟がないと戦いには赴けねえよ」
「でも今死んじゃったら、大事な人も守れないしこの世の平安を手に入れる前に命が尽きることになる! そうでしょ!?」
その言葉に、ハクはたちまちヤエの顔を思い出した。たしかに死の間際、彼女を守ることが出来なくなると悲しい気持ちになった。
シュウが必死になって人間たちが争う世の中を正したいという想いにも、協力出来なくなってしまう。
今死ぬべきではない。
べそをかく朱鷺の少女を眺めながら、ハクはふと笑う。
「でも俺は生きながらえた。あんたのおかげでな」
「えっ……?」
「本当に、感謝している」
「ナナシさん……!」
ハクは目を閉じながら、最後に夢想した。
彼女を──ヤエを守る為に、大勢の敵と戦っているのだ。右肩から下を無くしたというのに、力はみるみる漲り、攻防する自分の姿が見えた。
死ぬ間際であっても、まだ諦めきれない。彼女を守りたいという想いが消えない。往生際が悪い。無念だ。こんなボロボロの身では、まともに戦えるわけもないのに。
「……ちょっと、無茶しすぎないでね?」
「ん?」
ハクの妄想を遮断するように、またもや女性の声が聞こえた。少し焦ったような、でも呆れたような口調。
「もう、大丈夫だからね。ほら、目を開けてみて、ナナシさん?」
ナナシ?
心の中でハクは首を傾げる。
(ヤエたちに正体を隠す為に適当に名乗ったものだぞ……)
ハッとした。一気に意識が呼び起こされる。
一度は幻覚だと思ったが、どうやらそれは違ったらしい。
目を開けると、たしかにいるのだ。朱鷺の彼女が。
「おはよう、やっと起きた」
おっとりした表情で、彼女はハクを見ている。
ハクの胸が高鳴る。
「あんたは……あの日に会った朱鷺だよな」
「そうでーす。覚えていてくれたんだね!」
くすくすと可愛らしく笑う朱鷺の少女を見て、ハクは固まってしまう。
どういうことだ? なぜ彼女がここに?
「どういうことだって頭がこんがらがってるね?」
「……おう」
「助けに来たんだよ。ナナシさんたちがとっても危ない目に遭っているから」
「わざわざこんな遠いところまで飛んできたのか。翼がボロボロじゃねえか」
美しい羽根がところどころ抜けていて、なおかつ黒ずんでいた。どれだけ急いでここまで来たのか考えなくても分かる。
それでも彼女は笑みを絶やさない。
「頑張ってるナナシさんたちの力になりたいだけだよ。右肩と前脚が片方なくなっちゃったね……」
「……ああ、しくじった。あのリュウトの野郎、思った以上に強い。甘く見てた俺の失態だ」
ハクはふと自分の右肩があった箇所を見る。あれほど出血していたのに、今はなぜか止まっていた。絶望的なあの痛みもなぜだか全く感じない。
「どういうことだ──?」
ハクは首を捻る。
すると、朱鷺の少女がハクのなき右肩にそっと触れるのだ。
「わたしの力であなたの傷を癒やしたの」
「癒やし……? ああ、あんたの特異能力か」
「とりあえず、死は免れたね!」
「……でかい仮が出来たな」
「でもね、引きちぎられた右肩はもう元に戻せないの。ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「だって……」
そこで彼女の表情がみるみる暗くなっていく。目を潤わせ、身体を震わせる。
「あと少し遅かったら……あなたは本当に死んでいたよ。あんなに血だらけになって、瀕死の状態だったんだもの。驚いたし、恐かった……!」
「お、おい。何だよ。泣くな」
朱鷺の少女の声は、どんどん震えていく。甲高い声で泣き始め、ハクに抱きついた。
「死なんて今更恐くねぇよ」
「どうしてそんなこと言うの!?」
「どうしてって……覚悟がないと戦いには赴けねえよ」
「でも今死んじゃったら、大事な人も守れないしこの世の平安を手に入れる前に命が尽きることになる! そうでしょ!?」
その言葉に、ハクはたちまちヤエの顔を思い出した。たしかに死の間際、彼女を守ることが出来なくなると悲しい気持ちになった。
シュウが必死になって人間たちが争う世の中を正したいという想いにも、協力出来なくなってしまう。
今死ぬべきではない。
べそをかく朱鷺の少女を眺めながら、ハクはふと笑う。
「でも俺は生きながらえた。あんたのおかげでな」
「えっ……?」
「本当に、感謝している」
「ナナシさん……!」
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