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第十四章
128,拘束されるヤエ
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なぜハクを置いてきてしまったのか。リュウトの恐ろしさは知っていたというのに。
あの男は自らの肉親である前皇后陛下を殺した。素手で、まるで虫を潰すかのように、いともたやすく。
皇后以外にも皇族に仕える者たちが理不尽に生命を奪われた。少しでもリュウトに逆らったり気に入らない発言をしてしまったら、瞬きをした次には絞め殺される。
あの男の野望は人間を滅ぼすこと。本気なのだ。
それを邪魔しようものなら、たとえ化け物でも──ハクであっても許しはしないだろう。
ヤエ一人が加勢に行ったところで役に立たないかもしれない。しかし氷の力を使ってリュウトの動きを少しでも押さえつけられたのならば、その隙にハクを助けられるかもしれない。
絶対に失いたくない、大切な友を死なせたくない。
(ハクはいつだって私を守ってくれた。今度は私が守る番……!)
また、胸の奥が冷たくなっていくのを感じる。氷の結晶が全身を巡るような感覚だ。
震えが止まらない。そうであっても、ヤエは決して立ち止まらない。
静けさに包まれた城下町を進む中──ヤエは途中、嫌な予感がした。
ゆらっと身体が揺れたのだ。
「これは……」
大地が左右に動くのを感じた。揺れは次第に強くなっていく。
まさか。
「地震……?」
ハッとした。
これは、自然現象で起きているものではない。
地震は不規則に強くなったり弱くなったりして、地を乱暴に揺らした。周辺の民家や木の葉も震動している。
──まずい。
あの男が、リュウトが、近くにいる。
まだ城門は遙か向こう側にあるというのに、リュウトの気配がするのはなぜだ。
ヤエは固唾を飲み込む。緊張によって全身が硬直してしまう。
(隠れなきゃ……)
咄嗟にそう思った。しかし──
「こんな所で何をしている?」
どこからともなく、男性の低い声がした。非常に冷酷な口調である。
(まずい、もうこちらの存在が……!)
逃げようとしても、遅すぎた。
背後から突如として手首を掴まれる。そのまま両腕を後ろで拘束され、ヤエは身動きが取れなくなってしまう。驚愕し、悲鳴すら上げられなかった。
「これはこれは、次期皇后陛下ではないか。いや、皇后になる予定だった、ただの平民か。かような所で何をしているのかな?」
男は──リュウトはヤエの耳元で嘲笑う。
顔は見えないが、物凄い形相で睨みつけているのが分かる。
「は、放して……!」
「抵抗しても無駄だ。朕の力に敵うわけもなかろう」
とんでもないほどの殺気。少しでも刺激すれば、あっという間に息の根を止められてしまう。
ヤエは息が苦しくなる。
「ふん、この裏切り者めが。朕の正妻として生きていけばよいものを、あの愚かなリュウキの元へいくとはな。死に損ない女め」
「私は何を言われようと構いません……殺されてもよいです。しかし、リュウキ様のことを悪く言うのはやめて下さい……!」
「それほどあの男を好いておるのか!!」
耳の鼓膜が破れそうになるほどの怒号。リュウトの呼吸が荒くなっている。息を吐かれる度に耳の中を刺激した。ヤエはこの上ない嫌悪感に襲われる。
あの男は自らの肉親である前皇后陛下を殺した。素手で、まるで虫を潰すかのように、いともたやすく。
皇后以外にも皇族に仕える者たちが理不尽に生命を奪われた。少しでもリュウトに逆らったり気に入らない発言をしてしまったら、瞬きをした次には絞め殺される。
あの男の野望は人間を滅ぼすこと。本気なのだ。
それを邪魔しようものなら、たとえ化け物でも──ハクであっても許しはしないだろう。
ヤエ一人が加勢に行ったところで役に立たないかもしれない。しかし氷の力を使ってリュウトの動きを少しでも押さえつけられたのならば、その隙にハクを助けられるかもしれない。
絶対に失いたくない、大切な友を死なせたくない。
(ハクはいつだって私を守ってくれた。今度は私が守る番……!)
また、胸の奥が冷たくなっていくのを感じる。氷の結晶が全身を巡るような感覚だ。
震えが止まらない。そうであっても、ヤエは決して立ち止まらない。
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ゆらっと身体が揺れたのだ。
「これは……」
大地が左右に動くのを感じた。揺れは次第に強くなっていく。
まさか。
「地震……?」
ハッとした。
これは、自然現象で起きているものではない。
地震は不規則に強くなったり弱くなったりして、地を乱暴に揺らした。周辺の民家や木の葉も震動している。
──まずい。
あの男が、リュウトが、近くにいる。
まだ城門は遙か向こう側にあるというのに、リュウトの気配がするのはなぜだ。
ヤエは固唾を飲み込む。緊張によって全身が硬直してしまう。
(隠れなきゃ……)
咄嗟にそう思った。しかし──
「こんな所で何をしている?」
どこからともなく、男性の低い声がした。非常に冷酷な口調である。
(まずい、もうこちらの存在が……!)
逃げようとしても、遅すぎた。
背後から突如として手首を掴まれる。そのまま両腕を後ろで拘束され、ヤエは身動きが取れなくなってしまう。驚愕し、悲鳴すら上げられなかった。
「これはこれは、次期皇后陛下ではないか。いや、皇后になる予定だった、ただの平民か。かような所で何をしているのかな?」
男は──リュウトはヤエの耳元で嘲笑う。
顔は見えないが、物凄い形相で睨みつけているのが分かる。
「は、放して……!」
「抵抗しても無駄だ。朕の力に敵うわけもなかろう」
とんでもないほどの殺気。少しでも刺激すれば、あっという間に息の根を止められてしまう。
ヤエは息が苦しくなる。
「ふん、この裏切り者めが。朕の正妻として生きていけばよいものを、あの愚かなリュウキの元へいくとはな。死に損ない女め」
「私は何を言われようと構いません……殺されてもよいです。しかし、リュウキ様のことを悪く言うのはやめて下さい……!」
「それほどあの男を好いておるのか!!」
耳の鼓膜が破れそうになるほどの怒号。リュウトの呼吸が荒くなっている。息を吐かれる度に耳の中を刺激した。ヤエはこの上ない嫌悪感に襲われる。
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