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第十四章

126,ひと気のない城下村

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 氷の力を放ち城門を破壊し、ヤエは中を潜り抜けていく。

 暫しした後に大地が揺れるのをヤエは感じた。縦にどん、と衝撃がくるような、心地の悪いものだった。

「……地震?」

 しばらく揺れが収まらなかった。思わずヤエはその場に立ち尽くす。
 周辺は民家が立ち並んでいて、それらが崩壊するほどの大きな揺れではない。しかし滅多に経験しない地震に、妙な緊張感を覚えた。

 ──やがて揺れが落ち着くと、ヤエは息を荒くしながらも再び歩き出した。
 今はこんなことに驚いている場合ではない。リュウキを助けに行かなければならない。

 炎の龍が放出されたのは初めてだ。あの中で、リュウキは悲鳴を上げている。苦しそうに、もがき続けている。
 残された時間はそう長くはない。一刻も早く彼の暴走を止めなければ、リュウキは誠の化け物となってしまう。
 そんなこと、絶対にあってはならない。
 ヤエはとにかくリュウキの後を追った。

 だが──気がかりなことが一つあった。

「静かすぎるわ……」

 城門を潜ってすぐ城下村があったのだが、人が見当たらない。家畜や馬などの動物すら一切見かけない。
 東西の戦が始まる前に、民は皆どこかへ身を隠しているのだろうか。

 疑問に思うのも束の間──峯木の奥に、人影らしきものがふと目に映った。
 それが突然、ヤエの目の前に立ち塞がる。

「……なに?」

 その人物は、力なく背中を丸めた状態で姿を現した。身に着けている漢服は埃にまみれている。頭に冕冠を被っており、見たところ五十を越えた男性である。

「そちは、西兵の者か」

 男性は、しゃがれた声でヤエに問う。震えながら指差してくるのだ。

「その鎧は、西兵のものであろう?」
「あ、これは……」

 たしかに西の鎧を着用しているが、兵士ではない。ヤエは説明しようとしたが、男は息を荒げて話し続けるのだ。

「もう、城外では戦いが始まってしまったか……?」
「え?」

 ハクとリュウトのことを言っているのだろうか。ヤエはそう思ったが、どうやら別件のことを指しているらしい。

「間もなく満月の日が訪れるであろう。東軍が最西端の幻草を燃やしにくる。ここは戦場となり、荒れ果ててしまう……」

 男は今にも泣きそうな顔になるのだ。

「朕はもう限界である。国を、民を守る為に戦ってきたが……年々兵力は衰え、東とまともに戦うことすら出来ぬ!」

 男の嘆きを聞いて、ヤエはハッとした。
 泣き崩れ、しゃがみ込む男の前に立つと、可能な限り柔らかい口調で問いかけた。

「あなたは……西の王ですね?」

 冕冠を被っているし間違いない。あまりにも威勢がなく、怯えた目をしているので、王という雰囲気は全く感じられなかったが。

 ヤエに問われると、男は──西の王はぎこちなく首肯した。
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