【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

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第十四章

123,「病弱」の皇帝

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「朕は幻草成分を浴びたことによって、強大な力を手に入れた! 二度と病に苦しむことはない! 人間たちが朕を見下すこともなくなるのだ! 何も間違っていない。悔いもない!」  

 そんな台詞に、ハクは心底呆れた。本当に何も分かっていない奴だ、と。 

「あのなぁ……たしかにあんたは化け物になって強くなったかもしれない。誰もあんたに逆らわないし、侮辱する奴もいなくなったかもしれねぇ。でもな、今のあんたは誰にも好かれなくなったんだぞ」 
「……何だと?」
「お前が愛した彼女だってそうだ。どんなに強くなっても、乱暴をして支配しようするほど心は離れていく。ヤエだけじゃない。周りにいる人はもちろん、あんたが起こした戦争によって巻き込まれた民も全てあんたを嫌っている」 

 ハクがそこまで話すと、リュウトの真っ赤な目は大きく見開いた。震えるほど怒りが混み上がっているように。 

「……黙れ、黙れ黙れ黙れ! 貴様に何が分かる!?」 
「いや、俺はあんたの気持ちなんてこれっぽちも分からないし理解する気もねぇよ」 
「戯け!」

 皇帝の全身が大きく震え始めた。それと同時に、ぴりぴりした空気が流れるのである。 

「ああ、あともう一つ、勘違いするんじゃねぇぞ。あんたの病は治ったわけじゃないからな」 
「……何?」 
「あくまで精神や感覚がおかしくなっているだけだ。あんたは化け物になって元気になったつもりかもしれないが、身体は今でも悲鳴を上げているんだ」 

 ハクの話に、皇帝は眉間に深い皴を刻み込む。 

「結局は幻草の力がなければ、あんたなんてただの病人だ。皇帝という器でもねぇし、人間を滅ぼす力もない!」 

 ──これは、嘘偽りのない真実の話だ。 

 しかし、この話は奴にとって禁句だったに違いない。 
 皇帝の全身から放たれる「負」の感情は、空気に乗ってハクのところまで激しく伝わってきた。 

「黙れ」 

 聞いたこともないような、どすの利いた声だ。とんでもないほどの怒気。 

「朕は病人などではない、醜くもない。誰よりも強く逞しい男なのだ‼」 

 リュウトは怒りに任せるように、再度拳を振りかざしてきた。

「おう、危ねえ」 

 いとも簡単に、ハクは皇帝の攻撃を躱す。先ほどよりも荒々しく、そして乱雑な攻撃。 
 怒り狂った皇帝の目はどす黒く、そして冷静さを完全に失っている。 

 これがハクの狙いだった。

 精神が乱れると、自分の意志で上手く身体が動かなくなる。これは化け物の弱点でもあった。
 我を失った皇帝の攻撃など、まともに標的を狙うことなどない。 
 ハクは隙をついて、病弱・・な皇帝を返り討ちにしてしまおうと考えた。 

(所詮、あんたも狂った化け物なんだよな) 
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