【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

文字の大きさ
上 下
123 / 165
第十四章

123,「病弱」の皇帝

しおりを挟む
「朕は幻草成分を浴びたことによって、強大な力を手に入れた! 二度と病に苦しむことはない! 人間たちが朕を見下すこともなくなるのだ! 何も間違っていない。悔いもない!」  

 そんな台詞に、ハクは心底呆れた。本当に何も分かっていない奴だ、と。 

「あのなぁ……たしかにあんたは化け物になって強くなったかもしれない。誰もあんたに逆らわないし、侮辱する奴もいなくなったかもしれねぇ。でもな、今のあんたは誰にも好かれなくなったんだぞ」 
「……何だと?」
「お前が愛した彼女だってそうだ。どんなに強くなっても、乱暴をして支配しようするほど心は離れていく。ヤエだけじゃない。周りにいる人はもちろん、あんたが起こした戦争によって巻き込まれた民も全てあんたを嫌っている」 

 ハクがそこまで話すと、リュウトの真っ赤な目は大きく見開いた。震えるほど怒りが混み上がっているように。 

「……黙れ、黙れ黙れ黙れ! 貴様に何が分かる!?」 
「いや、俺はあんたの気持ちなんてこれっぽちも分からないし理解する気もねぇよ」 
「戯け!」

 皇帝の全身が大きく震え始めた。それと同時に、ぴりぴりした空気が流れるのである。 

「ああ、あともう一つ、勘違いするんじゃねぇぞ。あんたの病は治ったわけじゃないからな」 
「……何?」 
「あくまで精神や感覚がおかしくなっているだけだ。あんたは化け物になって元気になったつもりかもしれないが、身体は今でも悲鳴を上げているんだ」 

 ハクの話に、皇帝は眉間に深い皴を刻み込む。 

「結局は幻草の力がなければ、あんたなんてただの病人だ。皇帝という器でもねぇし、人間を滅ぼす力もない!」 

 ──これは、嘘偽りのない真実の話だ。 

 しかし、この話は奴にとって禁句だったに違いない。 
 皇帝の全身から放たれる「負」の感情は、空気に乗ってハクのところまで激しく伝わってきた。 

「黙れ」 

 聞いたこともないような、どすの利いた声だ。とんでもないほどの怒気。 

「朕は病人などではない、醜くもない。誰よりも強く逞しい男なのだ‼」 

 リュウトは怒りに任せるように、再度拳を振りかざしてきた。

「おう、危ねえ」 

 いとも簡単に、ハクは皇帝の攻撃を躱す。先ほどよりも荒々しく、そして乱雑な攻撃。 
 怒り狂った皇帝の目はどす黒く、そして冷静さを完全に失っている。 

 これがハクの狙いだった。

 精神が乱れると、自分の意志で上手く身体が動かなくなる。これは化け物の弱点でもあった。
 我を失った皇帝の攻撃など、まともに標的を狙うことなどない。 
 ハクは隙をついて、病弱・・な皇帝を返り討ちにしてしまおうと考えた。 

(所詮、あんたも狂った化け物なんだよな) 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

RIGHT MEMORIZE 〜僕らを轢いてくソラ

neonevi
ファンタジー
運命に連れられるのはいつも望まない場所で、僕たちに解るのは引力みたいな君との今だけ。 ※この作品は小説家になろうにも掲載されています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】サルビアの育てかた

朱村びすりん
恋愛
「血の繋がりなんて関係ないだろ!」  彼女を傷つける奴は誰であろうと許さない。例えそれが、彼女自身であったとしても──  それは、元孤児の少女と彼女の義理の兄であるヒルスの愛情物語。  ハニーストーンの家々が並ぶ、ある田舎町。ダンスの練習に励む少年ヒルスは、グリマルディ家の一人息子として平凡な暮らしをしていた。  そんなヒルスが十歳のとき、七歳年下のレイという女の子が家族としてやってきた。  だが、血の繋がりのない妹に戸惑うヒルスは、彼女のことをただの「同居人」としてしか見ておらず無干渉を貫いてきた。  レイとまともに会話すら交わさない日々を送る中、二人にとってあるきっかけが訪れる。  レイが八歳になった頃だった。ひょんなことからヒルスが通うダンススクールへ、彼女もレッスンを受けることになったのだ。これを機に、二人の関係は徐々に深いものになっていく。  ダンスに対するレイの真面目な姿勢を目の当たりにしたヒルスは、常に彼女を気にかけ「家族として」守りたいと思うようになった。  しかしグリマルディ家の一員になる前、レイには辛く惨い過去があり──心の奥に居座り続けるトラウマによって、彼女は苦しんでいた。  さまざまな事件、悲しい事故、彼女をさいなめようとする人々、そして大切な人たちとの別れ。  周囲の仲間たちに支えられながら苦難の壁を乗り越えていき、二人の絆は固くなる──  義兄妹の純愛、ダンス仲間との友情、家族の愛情をテーマにしたドラマティックヒューマンラブストーリー。 ※当作品は現代英国を舞台としておりますが、一部架空の地名や店名、会場、施設等が登場します。ダンススクールやダンススタジオ、ストーリー上の事件・事故は全てフィクションです。 ★special thanks★ 表紙・ベアしゅう様 第3話挿絵・ベアしゅう様 第40話挿絵・黒木メイ様 第126話挿絵・テン様 第156話挿絵・陰東 愛香音様 最終話挿絵・ベアしゅう様 ■本作品はエブリスタ様、ノベルアップ+様にて一部内容が変更されたものを公開しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...