上 下
122 / 165
第十四章

122,苦戦するハク

しおりを挟む


 
 リュウトと交戦中、ハクは遠方の方で巨大な炎が出現するのを見た。
 その炎はリュウキが放ったものであろう。龍のような形となり、シュキ城の方へ飛んで行ってしまった。 

「ふふふ、面白い」 

 その様子を眺めていたリュウトは、低い声で笑う。 

「……何がおかしいんだよ?」 
「お前も化け物だろう。分かっているはずだ。リュウキの身に何が起きたのかを」 

 リュウトは腹を抱えているが、目だけは冷たい。皇帝という印象など全くない。国賊としか思えない顔である。 

 ハクはリュウトの話を否定出来ずにいた。 
 今、リュウキは非常に危険な状態である。このまま放っておけば、彼は間違いなく── 

「ったく、厄介なことになりやがった」 

 ハクは内心とてつもない焦りを抱いている。一刻も早くリュウキの元へ駆けつけなければならないのに。 

 しかし目の前にいる皇帝は、簡単にハクを通すわけはない。 

「さあ、白虎よ。このまま朕と戯れ合うとするか」 
「お前に付き合ってる暇はねぇんだよ……」 

 ハクの嘆きも虚しく、皇帝は今一度拳を握り締めた。 

 普通の人間には決してない、両腕の巨大な筋肉。リュウトの腕は太くて固くて、一度でも攻撃を受ければハクでさえも即死だろう。 

「そちの足の一本でも、もぎ取ってくれようぞ!」 

 絶叫しながら、皇帝は太い両腕をハクに向けて振りかざしてきた。
 咄嗟に攻撃を躱すが──皇帝の拳が打ち付けられた地面は瞬く間にひび割れしてしまう。まるで地震が起きたかのように、激しく振動するのだ。 

「くっ、何て力だよ本当に!」 

 皇帝の怪力は、大地さえも破壊してしまうほどの威力がある。あの腕で人を捻りつぶすことなど容易いだろう。人々がこの男に逆らえない最大の要因である。 ひとたまりもない。 

 今までにない強敵に、ハクは苦戦していた。 肩で呼吸をし、目前の「敵」を睨み付ける。 

「そろそろ投降したらいかがかな?」 

 皇帝はまるで嘲笑うかのようにハクを見下す。 
 決して首肯しない。ハクは低く唸った。 

(しかし妙だな。なぜこいつは、息切れしないんだ?) 

 息を整えながら、ハクはふと疑問に思う。
 
 かれこれ半日は闘争しているというのに。互いに一歩も譲らず、全力で相手を殺しにかかっている。
 それなのに皇帝は全くと言っていいほど息が上がっていないのだ。 
 このままでは体力が底を尽きてこちらの方がやられてしまう。 

「朕を殺めることなど出来ぬぞ。今なら許してやろう。朕と共に人間を滅ぼすと約束すればな」 
「ばか言うな。俺は人と共生すると決めたんだ! 野蛮なお前とは手を組まねぇよ」 
「何を。お前は立派な化け物であるというのに、なぜそこまでして人間を守ろうとする? 目を覚ませ、化け物よ!」 

 皇帝は再び突進してくる!
 こんなところでやられてしまっては、大切なものを守れなくなってしまう。 体力が限界に近づいていたとしても、気力だけでハクは攻撃を避け続ける。 

「往生際の悪い白虎めっ」 
「うるせぇ奴だな。お前なんかが北の皇帝だなんて笑っちまう。どうせてめぇの人類滅亡計画の為に権力を利用してるだけだろ?」 
「……ふん。それがどうした」 
「本当に虚しいよな。わざわざ化け物になって全てを捨てちまうなんてな」 
「黙れ!」 

 ハクの本心であり、挑発した文言でもあった。
 これを聞いた皇帝の両腕の筋肉はさらに肥大化していく。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

処理中です...