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第十三章
118,「化け物にならないで」
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力の限りヤエは叫び、彼に訴えた。
このままでは、リュウキは精神崩壊した化け物となってしまう。
ハクや朱鷺の少女のように人と共生出来る心が保てればいい。けれど今のリュウキの荒れ方を見る限り、精神を安定させるなど到底無理だ。
幻草の成分を浴びても、奇跡的に今まで持ちこたえてきた。記憶を失っても、奇妙な特異能力を手に入れても、まだ人間として生きている。そうであるならば──この先も人の心を持ったまま、生きてほしい。
「リュウキ様、お願いです。心を鎮めて下さい!」
もう一度ヤエは叫んだ。
その一刹那──
熱を放つ光が、突如として肥大化していった。
あまりの眩しさにヤエは目をギュッと瞑り、反射的に身を伏せる。
何か、不吉なことが起こる。そんな予感がした。
熱風はどんどん強くなり、少しでも油断すると吹き飛ばされてしまいそうなほどだ。
氷の壁で熱さから身を守っているが、もしもこの盾が壊れてしまったら──ヤエも一瞬のうちに丸焦げとなってしまう。
怖くて、恐ろしくて。思わずヤエは歯を食い縛る。
「う、うううぅぅう……」
微かに、低く唸るような声がした。聞いたこともないほど、苦しそうな声。
「何……?」
彼の姿を確認しようとした。しかし目をうっすらでも開こうとすると、閃光に瞳の奥を攻撃されてしまう。
だめだ、開けられない。
今、どんな状況になってしまっているのか。確認したくても見られない!
「リュウキ様! どうされましたか? ご無事でしたら、どうかお返事を!」
目視出来ない代わりに、ヤエはリュウキに向かって叫ぶ。しかし、無駄であった。
彼は声にもならない声で唸り続けるのみ。ヤエの声掛けなど、まるで届いていない。
一体、どうなってしまうのか?
ヤエの不安が大きくなった、その時──
「……ッ!!」
とてつもない衝撃音が鳴り響いた。すると、強烈な熱風が途端に吹き止んだ。眩しい光も瞬時に弱くなり、瞼の向こう側を攻撃してくることはなくなった。
呼吸を整えつつ、ヤエはゆっくりと目を開ける。
辺りは、信じられないほど静まり返っていた。
周囲の様子を見ると──ヤエは思わぬ光景を目の当たりにし、息を呑む。
「リュウキ様……?」
目の前に立っていたのは、人の形をした巨大な炎の塊だ。燃やされた峯の木よりも大きい。普通の人間の倍以上の背丈はあるだろうか。
全身に真っ赤な炎を纏い、ものすごい形相を浮かべているのは──他の誰でもない、リュウキであった。
このままでは、リュウキは精神崩壊した化け物となってしまう。
ハクや朱鷺の少女のように人と共生出来る心が保てればいい。けれど今のリュウキの荒れ方を見る限り、精神を安定させるなど到底無理だ。
幻草の成分を浴びても、奇跡的に今まで持ちこたえてきた。記憶を失っても、奇妙な特異能力を手に入れても、まだ人間として生きている。そうであるならば──この先も人の心を持ったまま、生きてほしい。
「リュウキ様、お願いです。心を鎮めて下さい!」
もう一度ヤエは叫んだ。
その一刹那──
熱を放つ光が、突如として肥大化していった。
あまりの眩しさにヤエは目をギュッと瞑り、反射的に身を伏せる。
何か、不吉なことが起こる。そんな予感がした。
熱風はどんどん強くなり、少しでも油断すると吹き飛ばされてしまいそうなほどだ。
氷の壁で熱さから身を守っているが、もしもこの盾が壊れてしまったら──ヤエも一瞬のうちに丸焦げとなってしまう。
怖くて、恐ろしくて。思わずヤエは歯を食い縛る。
「う、うううぅぅう……」
微かに、低く唸るような声がした。聞いたこともないほど、苦しそうな声。
「何……?」
彼の姿を確認しようとした。しかし目をうっすらでも開こうとすると、閃光に瞳の奥を攻撃されてしまう。
だめだ、開けられない。
今、どんな状況になってしまっているのか。確認したくても見られない!
「リュウキ様! どうされましたか? ご無事でしたら、どうかお返事を!」
目視出来ない代わりに、ヤエはリュウキに向かって叫ぶ。しかし、無駄であった。
彼は声にもならない声で唸り続けるのみ。ヤエの声掛けなど、まるで届いていない。
一体、どうなってしまうのか?
ヤエの不安が大きくなった、その時──
「……ッ!!」
とてつもない衝撃音が鳴り響いた。すると、強烈な熱風が途端に吹き止んだ。眩しい光も瞬時に弱くなり、瞼の向こう側を攻撃してくることはなくなった。
呼吸を整えつつ、ヤエはゆっくりと目を開ける。
辺りは、信じられないほど静まり返っていた。
周囲の様子を見ると──ヤエは思わぬ光景を目の当たりにし、息を呑む。
「リュウキ様……?」
目の前に立っていたのは、人の形をした巨大な炎の塊だ。燃やされた峯の木よりも大きい。普通の人間の倍以上の背丈はあるだろうか。
全身に真っ赤な炎を纏い、ものすごい形相を浮かべているのは──他の誰でもない、リュウキであった。
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