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第十二章
112,家族を守ると決意したきっかけ
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腰が抜けたように、シュウはへたりこんでしまう。ゆっくりとハクの方を振り返り、べそをかいた。
額からは、血が滴り落ちている。
たった今、斬られた痕がなんとも痛々しい。
「ハク。お前……守ってくれたのか?」
シュウに問われ、ハクは低く唸った。
(お前が死んだら、俺が困るからな……)
むず痒い。ハクはわざと欠伸をしながらごろんと横たわった。
なんだろう、シュウはやはり他の者とは違う。三人の大人を相手に、勇気を持って盾になってくれた。このたったひとつの事実に、ハクの心が浄化させられ、あたたかかくなっていった。
シュウの額の傷は深い。完全に消えることはないだろう。
ハクは返事が出来ない代わりに、頬をシュウの身体に擦り付けるのだった。
──それをきっかけに、ハクは檻の外で過ごすことを許された。
化け物になってから初めて荒れていた心が落ち着いた。精神が安定しているのがハク自身も分かった。
ソン家の人間たちは、ハクを信頼したようである。わけもなく暴れ、人間を殺めるようなことはしない、と。
ソン家の裏庭で野放しにされているハクを見て、村人たちは最初は恐れていた。
しかしハクが庭で腹を出しながら寛ぎ、シュウに寄り添う姿を見せていると、やがて人々は文句も何も口にしなくなった。ただし、巨体なハクに敢えて近づこうとする者は皆無であったが。
野生時に味わったことのない平穏だ。まったりした日々が流れる。
──ハクが化け物に成ってから半年ほどが経つ。
ある日シュウはハクに大切なものの存在を紹介した。
「見ろ。この子はわたしの妹だ」
シュウは片腕に収まるほど小さな人間を大切に抱えていた。まだ首も据わっておらず、つぶらな瞳を輝かせて青空をじっと眺めているよう。
人間の、赤子だ。
ハクはこれほどまでに小さな人間を見るのは初めてである。なんと不思議で神秘的で、それでいて愛らしい生き物なのか。
「名はヤエと申す。まだ生まれたばかりの赤子だ。しっかりと守らねばならない」
シュウの表情は今までに見たこともないほど優しい。
人間の赤子に戸惑いながらも、まだこの世の何も理解していないような姿に、ハクは心を奪われそうになる。
「この世は混乱に満ちている。お前のように精神が安定していれば問題ないが、世には人間を襲う化け物ばかりだ。自然環境や野生動物の生命にも大きな危機を及ぼす。しかも、人間たちは国と国の戦争によって殺し合いをしている。この城下村もいつ化け物に襲われ、戦に巻き込まれるか分からない。だからこれからはお前も、一緒に大切なものを守ってはくれないか?」
人間の言葉は話せなくとも、ハクはシュウの話をよく理解していた。返事をする代わりに、シュウの胸に顔を擦り付けた。
そんなハクを、シュウは優しく撫でる。
「よしよし、お前はまるで、巨大な猫のようだな」
野生動物として、縄張りを守りながら過ごす日々が好きだった。しかしこうなった以上、ソン家を守る化け物として尽くしていくのも悪くはない。今さらハクが山へ帰ることもないだろう。
人間嫌いだったハクは、シュウの為に、そしてソン一族を守る為に人と共生する道を選んだのだ。
額からは、血が滴り落ちている。
たった今、斬られた痕がなんとも痛々しい。
「ハク。お前……守ってくれたのか?」
シュウに問われ、ハクは低く唸った。
(お前が死んだら、俺が困るからな……)
むず痒い。ハクはわざと欠伸をしながらごろんと横たわった。
なんだろう、シュウはやはり他の者とは違う。三人の大人を相手に、勇気を持って盾になってくれた。このたったひとつの事実に、ハクの心が浄化させられ、あたたかかくなっていった。
シュウの額の傷は深い。完全に消えることはないだろう。
ハクは返事が出来ない代わりに、頬をシュウの身体に擦り付けるのだった。
──それをきっかけに、ハクは檻の外で過ごすことを許された。
化け物になってから初めて荒れていた心が落ち着いた。精神が安定しているのがハク自身も分かった。
ソン家の人間たちは、ハクを信頼したようである。わけもなく暴れ、人間を殺めるようなことはしない、と。
ソン家の裏庭で野放しにされているハクを見て、村人たちは最初は恐れていた。
しかしハクが庭で腹を出しながら寛ぎ、シュウに寄り添う姿を見せていると、やがて人々は文句も何も口にしなくなった。ただし、巨体なハクに敢えて近づこうとする者は皆無であったが。
野生時に味わったことのない平穏だ。まったりした日々が流れる。
──ハクが化け物に成ってから半年ほどが経つ。
ある日シュウはハクに大切なものの存在を紹介した。
「見ろ。この子はわたしの妹だ」
シュウは片腕に収まるほど小さな人間を大切に抱えていた。まだ首も据わっておらず、つぶらな瞳を輝かせて青空をじっと眺めているよう。
人間の、赤子だ。
ハクはこれほどまでに小さな人間を見るのは初めてである。なんと不思議で神秘的で、それでいて愛らしい生き物なのか。
「名はヤエと申す。まだ生まれたばかりの赤子だ。しっかりと守らねばならない」
シュウの表情は今までに見たこともないほど優しい。
人間の赤子に戸惑いながらも、まだこの世の何も理解していないような姿に、ハクは心を奪われそうになる。
「この世は混乱に満ちている。お前のように精神が安定していれば問題ないが、世には人間を襲う化け物ばかりだ。自然環境や野生動物の生命にも大きな危機を及ぼす。しかも、人間たちは国と国の戦争によって殺し合いをしている。この城下村もいつ化け物に襲われ、戦に巻き込まれるか分からない。だからこれからはお前も、一緒に大切なものを守ってはくれないか?」
人間の言葉は話せなくとも、ハクはシュウの話をよく理解していた。返事をする代わりに、シュウの胸に顔を擦り付けた。
そんなハクを、シュウは優しく撫でる。
「よしよし、お前はまるで、巨大な猫のようだな」
野生動物として、縄張りを守りながら過ごす日々が好きだった。しかしこうなった以上、ソン家を守る化け物として尽くしていくのも悪くはない。今さらハクが山へ帰ることもないだろう。
人間嫌いだったハクは、シュウの為に、そしてソン一族を守る為に人と共生する道を選んだのだ。
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