102 / 165
第十一章
102,立ちはだかる瓜二つの男
しおりを挟む
「失敬。北軍のチョウと申す」
「……北軍だって? 君、北の武将なの? なぜ西国にいるんだ」
リュウキは右手を後ろに回し、さりげなく拳を握った。いつ襲われるか分からない。反撃の準備を忘れてはならないのだ。
「リュウキ殿、ずいぶん捜しましたぞ。記憶を失くし、西のあちこちを彷徨っていると聞きました。本日はあなたと直接お話がしたいと言う方をお連れしましたぞ」
チョウ将軍はリュウキに拱手する。それから輿車の覗きに向かって、何か耳打ちをし始めた。
チョウ将軍が何かを話し終えると、御輿の簾がゆっくりと開かれた。
輿の中から現れた人物の顔は、暗闇のせいで見えづらい。しかしその人物がそっと顔を出し、チョウ将軍に支えられながら輿車から降りると、姿が月に照らされた。リュウキの目に、しっかりとその容姿が映し出されたのだ。
確と顔を見て、リュウキは唖然とした。
「久しぶりだな、リュウキよ」
不敵な笑みを浮かべる男は、立派な冕冠を被っている。それは、皇帝や王だけが身につけられる特別なものだ。
男は紫色の漢服を身に纏い、堂々としたさまである。漆黒の髪を一つにまとめ、冷たい眼差しでリュウキを見つめていた。
男の容姿を見れば見るほど、リュウキは混乱した。雰囲気そのものは全く違う。だが、見た目が全く同じだった。
──顔がリュウキと瓜二つなのである。
「君は……一体、誰だ?」
「ふふ。忘れたのか? 朕はお前だ。一心同体であろう」
「何を言ってる?」
自分と同じ顔が、訳の分からないことを話している。なぜか声までもがそっくりなのだ。
全く意味不明な存在を前にして、リュウキの鼓動が早くなる。身体中が、燃えるように熱くなっていった。
「よいか、シュキ城へ向かうのは諦めろ」
冷たい声で男はなぜだかそう言い放つ。
リュウキは唸りながら首を大きく振った。
「……どうして僕の目的地を知っているんだ?」
「間諜からの情報だ。お前たちの行動など全て把握している。シュキ城はこれから大きな戦が起こる。赴くべきではない。共にくるのだ、北国へ」
「大きな戦……?」
シュキ城で、戦──つまり殺し合いが始まるということか?
束の間悩むリュウキであるが、奇妙な男の話を鵜呑みにし、のこのことついていくのは違う。
この事態をどうすべきか考えた。
一定の距離を保ったまま、リュウキは怪訝な顔をして男に問うた。
「僕を北の国へ連れていってどうするつもり?」
正直な返事が来るとは思えない。リュウキはじっと男の顔を見つめる。
面白そうな表情を造りながら、男は答えた。
「安心しろ、殺しはしない。お前は何も覚えていないのであろう? 自分が何者かも、どこから来たのかも。朕が全て思い出させてやろうぞ」
「……君も、僕のことを知っているんだね。しかし、自分の力で記憶を取り戻さないと精神が壊れると聞いた。化け物にはなりたくないよ」
「おかしなことを言うな。なぜそう思う?」
化け物にはなりたくない。その言葉をリュウキが口にした瞬間、どういうわけか、男は鋭い目付きに変わった。
「なぜって……当然じゃないか……?」
リュウキは話しながら、唐突にハクと朱鷺の少女のことが頭に浮かんだ。
彼らは化け物でありながら精神を安定させ続け、人と共存、いやむしろ共生している。老いることもなく、いつ死ねるのか分からないまま生き続ける。朱鷺の少女はその話をした折に憂いある表情になっていたが、それ以外はむしろ穏やかであった。
リュウキはギュッと拳を強く握る。
「なぜ化け物になりたくないのか。理由を申してみよ」
「それは……僕は僕でいたいからだよ。人間のまま生きていたい」
「ふん。お前は全ての化け物の存在を否定するということか」
「いや、それは違う」
リュウキははっきりと否定した。
「穏やかな心を持った化け物もいる。彼らのことは絶対に否定なんてしないよ」
「所詮、綺麗事だ。自らは化け物になりたくないと思っているくせに。これだから人間は愚かなのだ……」
「……北軍だって? 君、北の武将なの? なぜ西国にいるんだ」
リュウキは右手を後ろに回し、さりげなく拳を握った。いつ襲われるか分からない。反撃の準備を忘れてはならないのだ。
「リュウキ殿、ずいぶん捜しましたぞ。記憶を失くし、西のあちこちを彷徨っていると聞きました。本日はあなたと直接お話がしたいと言う方をお連れしましたぞ」
チョウ将軍はリュウキに拱手する。それから輿車の覗きに向かって、何か耳打ちをし始めた。
チョウ将軍が何かを話し終えると、御輿の簾がゆっくりと開かれた。
輿の中から現れた人物の顔は、暗闇のせいで見えづらい。しかしその人物がそっと顔を出し、チョウ将軍に支えられながら輿車から降りると、姿が月に照らされた。リュウキの目に、しっかりとその容姿が映し出されたのだ。
確と顔を見て、リュウキは唖然とした。
「久しぶりだな、リュウキよ」
不敵な笑みを浮かべる男は、立派な冕冠を被っている。それは、皇帝や王だけが身につけられる特別なものだ。
男は紫色の漢服を身に纏い、堂々としたさまである。漆黒の髪を一つにまとめ、冷たい眼差しでリュウキを見つめていた。
男の容姿を見れば見るほど、リュウキは混乱した。雰囲気そのものは全く違う。だが、見た目が全く同じだった。
──顔がリュウキと瓜二つなのである。
「君は……一体、誰だ?」
「ふふ。忘れたのか? 朕はお前だ。一心同体であろう」
「何を言ってる?」
自分と同じ顔が、訳の分からないことを話している。なぜか声までもがそっくりなのだ。
全く意味不明な存在を前にして、リュウキの鼓動が早くなる。身体中が、燃えるように熱くなっていった。
「よいか、シュキ城へ向かうのは諦めろ」
冷たい声で男はなぜだかそう言い放つ。
リュウキは唸りながら首を大きく振った。
「……どうして僕の目的地を知っているんだ?」
「間諜からの情報だ。お前たちの行動など全て把握している。シュキ城はこれから大きな戦が起こる。赴くべきではない。共にくるのだ、北国へ」
「大きな戦……?」
シュキ城で、戦──つまり殺し合いが始まるということか?
束の間悩むリュウキであるが、奇妙な男の話を鵜呑みにし、のこのことついていくのは違う。
この事態をどうすべきか考えた。
一定の距離を保ったまま、リュウキは怪訝な顔をして男に問うた。
「僕を北の国へ連れていってどうするつもり?」
正直な返事が来るとは思えない。リュウキはじっと男の顔を見つめる。
面白そうな表情を造りながら、男は答えた。
「安心しろ、殺しはしない。お前は何も覚えていないのであろう? 自分が何者かも、どこから来たのかも。朕が全て思い出させてやろうぞ」
「……君も、僕のことを知っているんだね。しかし、自分の力で記憶を取り戻さないと精神が壊れると聞いた。化け物にはなりたくないよ」
「おかしなことを言うな。なぜそう思う?」
化け物にはなりたくない。その言葉をリュウキが口にした瞬間、どういうわけか、男は鋭い目付きに変わった。
「なぜって……当然じゃないか……?」
リュウキは話しながら、唐突にハクと朱鷺の少女のことが頭に浮かんだ。
彼らは化け物でありながら精神を安定させ続け、人と共存、いやむしろ共生している。老いることもなく、いつ死ねるのか分からないまま生き続ける。朱鷺の少女はその話をした折に憂いある表情になっていたが、それ以外はむしろ穏やかであった。
リュウキはギュッと拳を強く握る。
「なぜ化け物になりたくないのか。理由を申してみよ」
「それは……僕は僕でいたいからだよ。人間のまま生きていたい」
「ふん。お前は全ての化け物の存在を否定するということか」
「いや、それは違う」
リュウキははっきりと否定した。
「穏やかな心を持った化け物もいる。彼らのことは絶対に否定なんてしないよ」
「所詮、綺麗事だ。自らは化け物になりたくないと思っているくせに。これだから人間は愚かなのだ……」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~
碧野葉菜
キャラ文芸
人を癒す力で国を存続させてきた小さな民族、ユニ。成長しても力が発動しないピケは、ある日、冷徹と名高い壮国の皇帝、蒼豪龍(ツアンハウロン)の元に派遣されることになる。
本当のことがバレたら、絶対に殺される――。
そう思い、力がないことを隠して生活を始めるピケだが、なぜか豪龍に気に入られしまい――?
噂と違う優しさを見せる豪龍に、次第に惹かれていくピケは、やがて病か傷かもわからない、不可解な痣の謎に迫っていく。
ちょっぴり謎や策謀を織り込んだ、中華風恋愛ファンタジー。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する
大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作
《あらすじ》
この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。
皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。
そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。
花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。
ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。
この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。
だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。
犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。
俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。
こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。
俺はメンバーの為に必死に頑張った。
なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎
そんな無能な俺が後に……
SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する
主人公ティーゴの活躍とは裏腹に
深緑の牙はどんどん転落して行く……
基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。
たまに人の為にもふもふ無双します。
ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。
もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。
誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。
でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。
「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」
アリシアは夫の愛を疑う。
小説家になろう様にも投稿しています。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる