【完結】炎の戦史 ~氷の少女と失われた記憶~

朱村びすりん

文字の大きさ
上 下
79 / 165
第九章

79,国に仕える

しおりを挟む
「アガさん、ヴィオは貴方のことも里のことも。とても大切に想っていますよ。ここにいる間は外の世界ばかりがよく見えて、ここではないどこかに旅立ちたい気持ちで羽ばたく練習ばかりをしていたかもしれません。一度飛び立ったらもう二度と戻らないように見えたかもしれない。でも人は自由に飛び回れるようになったら、それはそれで、また違った高い目線で今までいた場所を見下ろし新しい発見もすることができる。ヴィオは今そんな風に、自分の羽で羽ばたきながら世界を違った目線で見て学んでいる最中です。俺はそんなヴィオについて、一緒にいつまでも、どこまでも飛んでいきたい。そのために身を軽くする準備はもうできています」

 それはセラフィンが今までの経歴や人生を脱ぎ去って、一からヴィオと共にある人生をやり直す準備ができたという決意を表していることに他ならない。
 この中央貴族出身の青年医師は、アガにはできなかった里を出てルピナと沿うという選択肢を迷わず掴もうとしている。アガが再び口を開きかけた時、暗がりから小さな声がした。

「セラ? 父さん?」
「ヴィオ。目が醒めたんだな」

 愛らしい呼びかけにセラフィンはすぐに反応して彼を迎えに歩いていった。そして赤いショールでヴィオの上半身を包みなおすと壊れ物でも扱う様に丁寧に抱き上げて二人が座る平椅子までやってきて、抱き上げたままそこに座りなおした。

 ヴィオはまだ半覚醒なのか、とろとろとした表情のままうっとりとセラフィンの胸に抱かれ凭れている。その表情はかつてアガが若き日の妻から向けられた甘えている時の貌によく似ていた。どこまでもヴィオを溺愛し、世話をやこうとするセラフィンも同じく蕩けるような眼差しでヴィオを見つめていた。
 二人の仲睦まじい姿に、若き日のアガと妻との思い出が重なる。

『アガ、ずっと傍にいてね。ずっとよ』

 若く甘い妻の柔らかな声が脳裏に蘇り、アガはたまらず立ち上がった。

「風呂の支度をしてくる。お前たちは食事を続けていろ」

 そう言い捨てると二人に背を向けて逃げるように外に飛び出していった。セラフィンはその姿に強い男の孤独と寂しさを見て、ほろ酔いにも誘引され涙の被膜が張りそうになったが、すぐに腕の中の最愛へ意識を向きなおした。

(アガさん、なによりも誰よりもヴィオを大切にします。約束します)

 くたりと脱力し顔が胸から少しでも離れるとむずがる赤い顔、熱い身体を摺り寄せるヴィオを抱えなおして、セラフィンは燃えるように熱い額に誓う様に口づけた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした

渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞! 2024/02/21(水)1巻発売! 2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!) 2024/12/16(月)3巻発売! 応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!! 刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました! 旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』 ===== 車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。 そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。 女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。 それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。 ※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

悪党になろうー殺され続けた者の開き直り人生ー

四つ目
ファンタジー
何度も何度も色んな人生を過ごした。 そしてどの人生も品行方正に真面目に真っ当に生きた。 だがどの人生でも最後は誰かに騙され、殺され、酷い結末になった。 「―――――ああ、そうか、この世界は悪党じゃないと生きられないのか。なら、悪党に、なろう」 そして見た目は少女の生物兵器として次の生を受け、都合よく強靭な体を手に入れた。 ならば今度こそは好きに生きようと、その力を振るって悪党を目指す。 果たして元々生真面目な人間が本当に悪党になれるのか。それは本人にも解らない。 なろう、カクヨムでも公開してます。

天上神の大事な愛し子との禁忌の愛。けれど想いは消せなくて

しろねこ。
恋愛
「愛してる」 そう伝えたのは嘘ではない。心からの言葉と思いだ。 ただそれを伝えてはいけない女性に伝えた事が過ちのきっかけであろう。 太陽神であるソレイユが愛したのは異母妹である月の女神ルナリア。 半分とは言え血の繋がりのある彼女を愛していると知られた事は、当然ながら周囲から良しとはされなかった。 そうして二人の父親である天空神は怒り、ソレイユの神力を剥奪し殺そうとしたのだが……思わぬところでその思惑は打ち壊された。 神様系×恋愛! シリアス風味が強く、重めの作品ですm(__)m ご都合主義によるハッピーエンドのお話。 カクヨムさん、なろうさんでも投稿中です

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...