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第七章
59,襲撃
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鍛冶屋に剣を預け、待っている間に二人は外で時間を潰した。無言で歩き続け、静かな時が流れる。
しかし平穏でどこか寂しい空間は、どうやら長続きしないらしい。
「──襲撃だっ!!」
突如、村の高台で見張をしていた男が鐘を鳴らして叫んだ。顔を真っ青にする見張り役は、北の方角を見やっている。ヤエはその視線の先を振り向くが、建物などが遮っていて状況を目視出来ない。
「襲撃だ、東軍の急襲だ、みんな逃げろ!!」
見張り役は強く鐘を叩き続けている。
この警報を聞いた村人たちは一斉に民家から飛び出してきた。皆、混乱したように慌てている。
「南側に村の裏門がある! みんなそこへ逃げろ!!」
見張り役の指示に従い、村人たちは一斉に南側へと走っていく。この騒ぎに驚く子供たちは、泣き喚きながらも親に引き連れられる。そして中には、まだ生まれたばかりの赤子を抱いた母親もいた。足が不自由な成人男性もいたが、妻らしき女性が支えながら避難している光景もあった。
動転はしつつも、見張り役の指示といい村人たちの素早い避難といい、まるで普段から逃げる訓練をしているようだ。
しかし次に──耳の鼓膜を刺激するような爆撃音が村の正門辺りから響き回ってきた。一発、二発、三発目で炎のよう
な光が夜空を赤黒く染める。
それを目の当たりにして、ヤエはハッとした。
「リュウキ様……!」
「なに?」
「シシ村を、ここの村人たちを助けますよね?」
ヤエの問いに、リュウキは小さく息を吐いた。
「もちろんだよ。でもその前に──」
リュウキはふっと笑いながら、ヤエの腰回りを指差した。
「武器も持たずに戦場に赴くのは危険だ。剣を取りに行かないと」
「あ、そうですね……」
「鍛練がまだ終わってないかもしれない。その時は僕がヤエを守るから」
「いえ、もしそうなった場合、氷の力を発揮してみます」
「本当に?」
「リュウキ様がそばにいればきっと大丈夫です」
「ヤエ……」
素直な気持ちをヤエが口にすると、リュウキはまたもや切ない顔を見せるのだ。
「どうなっても、ヤエは僕が守ってみせる。今度こそ……」
リュウキは決意するかのように、自分に言い聞かせているかのように、胸に手を当てていた。
その間にも、人々の悲鳴が村中に響き渡っている。まだ敵兵の姿は見えない。
相手は東軍らしい。何が目的で襲撃してきたのかは分からないが、西軍の格好をしているヤエとリュウキがこの戦闘を避けられるわけがない。
今まで化け物や山賊とは戦ってきた。だが軍との交戦は初めてだ。たった二人で、一体何人の兵士と戦うことになるのだろう。
リュウキの大きな炎の力でどれくらい対抗できるのか。ヤエが上手く氷の力を使えば返り討ちにできるか。
恐怖心と不安も大きかったが、拳をボキボキと鳴らして戦いに赴こうとするリュウキは堂々としていた。
しかし平穏でどこか寂しい空間は、どうやら長続きしないらしい。
「──襲撃だっ!!」
突如、村の高台で見張をしていた男が鐘を鳴らして叫んだ。顔を真っ青にする見張り役は、北の方角を見やっている。ヤエはその視線の先を振り向くが、建物などが遮っていて状況を目視出来ない。
「襲撃だ、東軍の急襲だ、みんな逃げろ!!」
見張り役は強く鐘を叩き続けている。
この警報を聞いた村人たちは一斉に民家から飛び出してきた。皆、混乱したように慌てている。
「南側に村の裏門がある! みんなそこへ逃げろ!!」
見張り役の指示に従い、村人たちは一斉に南側へと走っていく。この騒ぎに驚く子供たちは、泣き喚きながらも親に引き連れられる。そして中には、まだ生まれたばかりの赤子を抱いた母親もいた。足が不自由な成人男性もいたが、妻らしき女性が支えながら避難している光景もあった。
動転はしつつも、見張り役の指示といい村人たちの素早い避難といい、まるで普段から逃げる訓練をしているようだ。
しかし次に──耳の鼓膜を刺激するような爆撃音が村の正門辺りから響き回ってきた。一発、二発、三発目で炎のよう
な光が夜空を赤黒く染める。
それを目の当たりにして、ヤエはハッとした。
「リュウキ様……!」
「なに?」
「シシ村を、ここの村人たちを助けますよね?」
ヤエの問いに、リュウキは小さく息を吐いた。
「もちろんだよ。でもその前に──」
リュウキはふっと笑いながら、ヤエの腰回りを指差した。
「武器も持たずに戦場に赴くのは危険だ。剣を取りに行かないと」
「あ、そうですね……」
「鍛練がまだ終わってないかもしれない。その時は僕がヤエを守るから」
「いえ、もしそうなった場合、氷の力を発揮してみます」
「本当に?」
「リュウキ様がそばにいればきっと大丈夫です」
「ヤエ……」
素直な気持ちをヤエが口にすると、リュウキはまたもや切ない顔を見せるのだ。
「どうなっても、ヤエは僕が守ってみせる。今度こそ……」
リュウキは決意するかのように、自分に言い聞かせているかのように、胸に手を当てていた。
その間にも、人々の悲鳴が村中に響き渡っている。まだ敵兵の姿は見えない。
相手は東軍らしい。何が目的で襲撃してきたのかは分からないが、西軍の格好をしているヤエとリュウキがこの戦闘を避けられるわけがない。
今まで化け物や山賊とは戦ってきた。だが軍との交戦は初めてだ。たった二人で、一体何人の兵士と戦うことになるのだろう。
リュウキの大きな炎の力でどれくらい対抗できるのか。ヤエが上手く氷の力を使えば返り討ちにできるか。
恐怖心と不安も大きかったが、拳をボキボキと鳴らして戦いに赴こうとするリュウキは堂々としていた。
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