上 下
59 / 165
第七章

59,襲撃

しおりを挟む
 鍛冶屋に剣を預け、待っている間に二人は外で時間を潰した。無言で歩き続け、静かな時が流れる。
 しかし平穏でどこか寂しい空間は、どうやら長続きしないらしい。


「──襲撃だっ!!」

 突如、村の高台で見張をしていた男が鐘を鳴らして叫んだ。顔を真っ青にする見張り役は、北の方角を見やっている。ヤエはその視線の先を振り向くが、建物などが遮っていて状況を目視出来ない。 

「襲撃だ、東軍の急襲だ、みんな逃げろ!!」

 見張り役は強く鐘を叩き続けている。
 この警報を聞いた村人たちは一斉に民家から飛び出してきた。皆、混乱したように慌てている。
 
「南側に村の裏門がある! みんなそこへ逃げろ!!」

 見張り役の指示に従い、村人たちは一斉に南側へと走っていく。この騒ぎに驚く子供たちは、泣き喚きながらも親に引き連れられる。そして中には、まだ生まれたばかりの赤子を抱いた母親もいた。足が不自由な成人男性もいたが、妻らしき女性が支えながら避難している光景もあった。
 動転はしつつも、見張り役の指示といい村人たちの素早い避難といい、まるで普段から逃げる訓練をしているようだ。

 しかし次に──耳の鼓膜を刺激するような爆撃音が村の正門辺りから響き回ってきた。一発、二発、三発目で炎のよう
な光が夜空を赤黒く染める。

 それを目の当たりにして、ヤエはハッとした。

「リュウキ様……!」
「なに?」
「シシ村を、ここの村人たちを助けますよね?」

  ヤエの問いに、リュウキは小さく息を吐いた。

「もちろんだよ。でもその前に──」

 リュウキはふっと笑いながら、ヤエの腰回りを指差した。

「武器も持たずに戦場に赴くのは危険だ。剣を取りに行かないと」
「あ、そうですね……」
「鍛練がまだ終わってないかもしれない。その時は僕がヤエを守るから」
「いえ、もしそうなった場合、氷の力を発揮してみます」
「本当に?」
「リュウキ様がそばにいればきっと大丈夫です」
「ヤエ……」

 素直な気持ちをヤエが口にすると、リュウキはまたもや切ない顔を見せるのだ。

「どうなっても、ヤエは僕が守ってみせる。今度こそ……」

 リュウキは決意するかのように、自分に言い聞かせているかのように、胸に手を当てていた。

 その間にも、人々の悲鳴が村中に響き渡っている。まだ敵兵の姿は見えない。
 相手は東軍らしい。何が目的で襲撃してきたのかは分からないが、西軍の格好をしているヤエとリュウキがこの戦闘を避けられるわけがない。
 今まで化け物や山賊とは戦ってきた。だが軍との交戦は初めてだ。たった二人で、一体何人の兵士と戦うことになるのだろう。

 リュウキの大きな炎の力でどれくらい対抗できるのか。ヤエが上手く氷の力を使えば返り討ちにできるか。
 恐怖心と不安も大きかったが、拳をボキボキと鳴らして戦いに赴こうとするリュウキは堂々としていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

新世界で… 妖精少女は、ロボットを夢見る

チキンとり
ファンタジー
なろうからのお試しです。 とある事件に巻き込まれ…… 約三年ぐらいの意識不明の寝たきりから目覚めて、ちょっと世間からズレてしまった。 ロボ好き女性主人公が自分の夢を叶える為に、それ系のマニアに近い知識を基にその仲間たちを巻き込んで、がんばる系のファンタジーフルダイブVRMMOです。

収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい

三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです 無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す! 無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

処理中です...